お父様お母様、何故わたくし達、四種類しかいないのですか?
ヒロインのノエルにお粥など食べてもらい、瀕死状態を脱しててもらって、公爵邸に連れて帰る途中である。ノエルは一緒に乗っている馬車の中で、マントにくるまって眠っている。
王族を除き、この国で最も家格の高い我が家が、聖女を預かるのはもとより決まっていたことである。
ところで、先ほどの謁見の間の様子を直に目にすることが出来たなら、きっと、このような疑問が浮かぶことだろう。
「この国の貴族、やけに悪役顔ばっかりじゃね?」
実は、この疑問こそが、私が幼い頃からこの世界がゲームの世界と疑ってた理由である。すなわち、
「……作画コストの関係?」
ちなみに、王宮や貴族家の使用人は、皆、地味目の美形ばっかりである。
「ドット絵を3Dにすると、こうなるのか?」
家族のみならず、貴族がほとんど皆、悪役顔であることを、私が知ったのは、五歳の頃の事である。
この国では、年に一度、社交シーズンに、デビュタント前の貴族子女を集めたガーデンパーティーが催される。
結構幼いうちから、参加するイベントで、親の言うことを一応聞けるようになったと思われた時点で、保護者同伴で参加する。
このイベントに私を参加させると、今世の両親が決めた後、パーティー前日、私に何事か知らせておいた方が良いと言い出したのだ。
「我が家の代々の肖像画を見てもらうことにしよう。
恐らく、それが一番分かりやすい」
「そうですわね。残りの説明は、明日にして、今はそれで良いでしょう」
「?」
「これが先代、お前の祖父の代の一家の肖像画。こっちがさらに先代。順番に並んでいるからな」
「……あの、お父様?……何故わたくし達、四種類しかいないのですか?」
意味が分からない疑問になってしまって申し訳ない。
しかし、そうとしか表現できないものがあった。
ストレートの黒髪に、眼光鋭い黒目。
悪巧みが良く似合う。
ドラマや映画で黒幕役として重宝しそうな顔立ち。
……お父様がこのタイプ。
癖のある黒髪、紅いつり目。
傲慢そうな顔立ち。
推理ドラマなら、冒頭で殺される金持ちなどに居そう。
……今世の私がこのタイプ。
真っ直ぐな銀髪、酷く薄い青の瞳。
美しい容貌であるが、何の温かみも感じられない。
思いやりが無いと言われて、王子に婚約破棄を突き付けられるのが似合いそう。
……お母様と御祖母様がこのタイプ。
艶やかな癖のある銀髪に、怪しげな魅力を放つ紫の瞳。
異性を誑かすのはお手の物、といった美貌。
そこにいるだけで愛憎劇が生まれそう。
……先代の当主である私の御祖父様がこのタイプ。
今世の私のご先祖様に当たる代々の当主一家は、老若男女の別はあるが、それ以外では、先ほどの四種類しかいなかった……
「明日は、王宮で、代々の国王の肖像画も見せてやるが、この国の貴族は、皆、このような容姿をしている」
「皆?貴族の方は皆、この四種類なのですか?」
「平民から男爵などの貴族になったばかりの者や、他国から嫁いできた者を除き全員だ」
「……呪い?」
「……魔術師の塔に、調査依頼を出しているが、まだ果たされていない」
「依頼を出したのは最近なのですか?」
「四百年程前と聞いている」
「……時間、経ちすぎでは?」
「……緊急性が低いのだ。我々のこれが呪いだとしても、命にも生活にも支障は無い。
一方、他の依頼は、命や生活に係わる。
依頼自体は、定期的に出し直しているが、魔術師の人数も限られているからな」
「……無駄に人格を疑われるのは、支障と言っていいのでは?」
「この国の貴族がこのような容姿をしていることは、近隣諸国にも知られている。
……困るのは、家族と良く似た者と結婚する必要があることだな。
儂の場合、実母によく似た妻を迎えることになったし、向こうは、弟によく似ていると言っている」
「困ってるじゃないですか」
「性格など似ていない部分に注目することが肝要だ。
どうしても耐えられない者は、平民と結婚したり、他国と縁を繋いでいる」
「この国の貴族以外と結婚すると解呪されるのですか?」
「一代でもこの国の貴族だった者と婚姻すると、どれほど世代を重ねても、このような容姿になる」
「明らかに呪われてるじゃないですか!」
「魔術師の塔に依頼を出しているが、緊急性が低くて……
……
翌日のガーデンパーティー。
事前に聞いていて尚、かなりの衝撃があった。
マイナーな例えで申し訳ないが、パズル誌などで時々見る、同じようなモチーフばかりが一杯描いてあるが「本当のペアは一組だけ」みたいな絵。それを3Dにしたようだ。
私以外にも、今日初めて、家族以外の貴族が揃っているのを見た子達が、呆然としている。
この国では、ドレスの色をダブらせないとか、各家の紋章のモチーフを覚えるとか、マナー以上の重要性を持っている。
その後、初参加組揃って、代々の国王陛下の肖像画が並んでいる回廊に連れて行ってもらった。
……一言いわせてほしい。
「何で王族だけ、普通の美形なんだよ!!」
「ああ、それはな」
あ、しまった。聞かれてしまった。
「こっちだ」
先導の父は、私の不敬発言も気にせず、回廊の奥の、立ち入りづらいエリアへ一行を連れて行った。
「ここから先が、七代目国王陛下から初代の国王陛下までだ」
……四種類しかいない。
ざわつく一行。
「そして、こちらが初代の国王陛下と王妃陛下だ」
「女王陛下?」
そんな疑問の声が上がる。
気持ちは分かる。
その肖像画は、私と同じタイプの傲慢そうな女性が、妊娠して大きくなったお腹を抱えて座ってる様子と
「違うぞ、こちらが初代国王陛下だ」
モブ顔の男性が、まるで背景のようなオーラの薄さで、女性に寄り添っている様子が描かれていた。
……この呪いが、どうやら初代の王妃陛下から始まっている事と、八代目以降の王族には適用されていない事が分かった。が、
「八代目以降の王族で事情が異なることも合わせて、魔術師の塔に調査依頼を出している」
お願い、早く、調査来て~!
……この時の想いが強くて、後日、調査開始を早めてしまったのだが、それが間違いだったと気づくのは、さらに後日。
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