ヒロインに訪れた運命の出会い
航海の間、ノエルには私が思いつく限りのエクササイズをやってもらった。
ラジオ体操に始まり、腹筋、背筋、スクワット、ダンベルの代わりになるものを使用した体操、階段を利用した踏み台昇降、などなど。
船内で出来そうなものは全て。
なお、縄跳びは止めておいた。ちょっと床が、不安で。
食事に関しては、間食を禁止した以外は、特に制限していない。
痩せることが目的ではなく、健康を取り戻してもらうことが目的だから。
頑張ってくれたと思う。
クビレは復活してきたと思いたい。
ただ、なんか、私が痩せた。
そうして、やっと降り立った、オリエント王国。
今夜の宿を取ろうと訪れた街中で、
聖女ノエルが果たした運命の出会いが、ひと段落するのを待ってる、今。
運命の相手の奥様と一緒に。
別に修羅場ではない。
意味が分からないと思うので、時を少し巻き戻そう。
今夜の宿を取ろうと訪れた街中で、
見つけてしまったのだ、私が。
黒目黒髪、眼光の鋭い瞳、悪巧みの似合う微笑みの女性を。
この国に、我が国の貴族が嫁いだという話は聞いたことが無い。
さりとて、他人とは思えない。
思わず近寄って行ってしまう私。
向こうも私に気が付き、恐る恐る近寄って来る。
そして、
「まぁ、ではやはり他人の空似なのですね?」
「そうや。うちは生粋のオリエント人やさかいな」
「失礼いたしましたわ。ちょっと親族に似ていたもので」
「うちもビックリしたわ。あんた、うちの妹そっくりや」
……妹さん可哀そうだな。ブーメランな事を思ってしまったが、とりあえず、ひと段落したので。
「二人とも、待たせてすみませんでした……わ……」
「アンタ!待たせて堪忍……な……」
振り返ると、二人が運命の出会いを果たしているところだった。
……なおまだ状況が分からない、と思うので、ここからはクレストの証言により、私がまとめたことを話していこう。
私の事を恩人だと思ってくれていたノエルは、国を出てから、各所で私の人相が悪いと言われるのを憤ってくれていたそうだ。
ノエルの運命の相手は、私が出会った椿さんの旦那さん。
椿さんとは恋愛結婚で結ばれた旦那さんは、椿さん姉妹の事を大層な美人姉妹だと思っており、椿さん姉妹が人相が悪いと言われることがあることを、常々納得いかない思いでいた。
私達を待っている間、何故か意気投合した二人。
話はノエルの聖女としての旅の話になり、前衛が足りなくて困っているという相談になった。
「俺がお前さんを鍛えてやろう。
俺の見立てでは、お前さんは素質がある!
お前さんの努力次第でかなりの強者になるぞ」
「お願いします!!」
これが聖女ノエルが果たした運命の出会いの全貌。
長身とスピードを武器に大関まで登り詰め、去年惜しまれつつ現役引退した、相撲部屋の迅雷親方と、
ノエルの師弟の出会いである。
……よりにもよって、相撲取り!?
「なんやよう分からんけど、うちで面倒見ることになったみたいやな。
あんたらもおいで。
まだ、宿取ってないんやろ。
ちょうどええやん」
「ア、ハイ。ヨロシクオ願イシマス」
道中、椿さんに話を聞いた。
この世界は、服のデザインなどは一昔前のものでも、生活の便利さは前世の現代に近い。
それと同じように、細かい文化もなんちゃってなところがあって、相撲も男性用リーグと女性用リーグがあるそうだ。
気になる格好に関しては、前世のTシャツとスパッツみたいなものがあり、女性のみ廻しの下にこれを着ているとの事。
伸縮性が必要とされるため、ある地方特産の絹製で、高額で困ると、椿さんがぼやいていたが、私としては、そういう問題じゃねぇ、という気分だった。
相撲部屋は、男女どちらかだけの所もあれば、迅雷親方の所のように男女どちらも居る所もあるそうだ。
「うちのとこはまだ立ち上がったばっかりやさかい、人数少なくて何とかなるんや。
もっと大きなったら、考えんといかんかもやけどな」
迅雷親方の相撲部屋には今、男の力士が二人、力士前の男の見習いが二人、女の力士見習いが二人いるそうだ。
部屋数は余裕があるそうなので、私とクレストは個室をあててもらった。
ノエルは女力士見習の部屋に入った。
「椿さん、お芋の皮むき終わりましたわ」
「おおきに。助かるわぁ。
ルルちゃん、家事何でも出来んねんなぁ。
ホンマに貴族なん?」
「わたくし達の一族は、代々の勇者様、聖女様の旅に同行するために、皆、家事全般の教育を受けますのよ」
「なんや、聞けば聞くほどけったいな一族やな。
他人にやってもらお、思わんかったん?」
「……何故か建国からずっと続けていますのよ。
家事能力はあって困るものじゃありませんし」
「家事能力はそうやけどなぁ。もっと詳しう聞きたなるなぁ」
お手伝いはもう大丈夫という事なので、ノエルの様子を見に行く。
基礎訓練中、のようだが。
「もっと!もっとだ!
もっと自分を追い込むんだ!」
「はい!」
「行ける!行けるぞ!
お前はまだ行ける!」
「はい!」
「まだこれからだ!
頭の中が真っ白になってからが、本当の稽古だ!」
「はい!!」
……なんだろう、コレ。
私、乙女ゲームの世界に転生したハズだったのでは?
<現在の聖女ノエルのステータス>
名称:ノエル
年齢:16歳
称号:聖女、女力士見習い
状態:正常
Lv 25
HP 2850/2850
MP 1920/1920
攻撃 302
防御 298
魔攻 222
魔防 234
命中 242
回避 233
「迅雷親方達とダンジョンに行ってもらいましたけど、
ステータスに反映されるの早すぎじゃないかしら?」
「『聖女』は成長に女神様の加護があるから」
「……」
読んで下さってありがとうございます。
現実の力士の方は、医学的には肥満と聞いたことがあります。
ノエルは筋力が付いてきたので、太ってはいるけどデバフのかかる状態異常からは脱しました。
最後までお付き合い下さると嬉しいです。




