聖女が太った
やっと、港のある都市に着いた。
シンが船の手配をしてくれている。
シンの話し方がチャラいのは、悪役顔の威圧緩和のためだそうだ。
私達の能力は結構商人向きだが、顔立ちは向いていない。
工夫したい気持ちは分かる。
効果のほどは分からない。
私達が乗る予定の船は、旅行客用の大型客船だ。
イメージ的には前世のクルーズ船の立ち位置だろうか。
と言っても造船技術が違うので、大きさは大分小さい。
この港から次はオリエント王国の首都に着くから、安全性だけでなく旅程の面でもベストだと思う。
シンの隊商は、この港で待機してもらうことにした。
オリエント王国では、仲間が三人加わる予定。
聖女への支援の一環として、旅の同行者に国王直属の家来を貸し出してくれる。
侍と忍者と魔術師だ。
忍者をそんな堂々と出していいのか?という感じだが、紹介では家来としか言わない。
でも一人、明らかに忍者の格好してますよね、という。
ともあれ、前衛に侍が入ってくれる。
スキルが豊富で、防御も結構強かったんで、ゲームでは多用していた。
ちなみにちょんまげではなく、ポニテ。
ま、攻略対象だからね。
忍者は前衛に回すには少し弱いが、どこかのなんちゃって万能型王子と違って、本当に万能型。
忍術という名の弱いが万能な魔法が使えるし、クナイは近接戦闘も出来るし、投げて遠距離武器攻撃も出来る。
クレストとカークライトの便利さにはちょっと負けるけど、結構気に入ってたキャラだった。
魔術師は、ノエル以外のパーティーメンバーで唯一の女性。
褐色肌に、左頬に炎のような形の刺青をしている。
何処かからオリエント王国に流れ着いて、期間限定でオリエント王国に仕えている。
カークライトよりもMPは少し劣るが、補助魔法が多彩で、シャムシールを使った近接攻撃も結構頼りになる。
この三人はキャラデザ含め、気に入ってたから、結構思い出せた。
……肝心の名前は思い出せてないけど。
港では、ノエルがはしゃいでいる。
海を初めてみたそうだ。
私も今世では初めて見る。
懐かしさを感じる。奇麗な海。
クレストは、ホープランドへの旅の途中で見たらしいが、見慣れたものではない様子。
このまましばらく、のんびりと海を見て、と思ったら
「いい匂いがします!」
ノエルが屋台に向かっていく。
花より団子かな。クレストが渋い顔をしている。
船に乗り込み、いよいよ出航。
甲板の乗船客用の丸テーブルのそばのチェアに座っている。
「ちょっと二人とも。
どうせこれから船旅で時間あるから、ちゃんと話するよ」
海を見ていたノエルが戻ってくる。
「どうしたんですか?クレスト」
二人一緒に戦うようになって少し経ち、敬語はそのままだが、名前は短く呼び捨てることにしたそうだ。
「そこ、座って。きちんと話そう」
「はーい」「ハイ」
「二人とも、現状はちゃんと認識してるんだよね?」
「えー?何のことですか?」
「な、な、な、何の事でしょう?
か、か、か、皆目見当つきませんわ~」
「ルルーシェ?」
「ハイ、申シ訳アリマセン。
マダモウ少シ余裕ガアルト思ッテイマシタ」
「ノエルは分かってないみたいだから、言うよ?
ノエル、太ったよね」
「はい。あ、あの問題ありましたか?」
……気付いていた。
最初、ぽっちゃりしてきたなって。
でもこの時点では、問題ないと思った。
成長期だし、運動はしてるし。
何より、最初のガリガリ状態が異常だったんだし。
「あるに決まってるでしょ。
明らかに動けなくなってるじゃない」
でも、徐々にぽっちゃりでは済まなくなってきて。
まずは、以前まとめてあげてしまった飴を取り返そうとした。
でもあんまりにも肩を落とすもんだから、可哀そうで、
「一日に一個か二個にしておくんですよ」
という約束でそのままにした。
料理に砂糖一壺を使ってしまった時は、普通の体型だった。
でも砂糖壺はクレストの保管にした。
薬の調合に使うこともあるから。
この時クレストに、言われた。
「砂糖や飴が高価だって知らないんじゃない?教えてあげたら?」
この世界は、まだ砂糖の値段が高い。
でもあんまり遠慮してほしくなかった。
ダンジョン攻略の手っ取り早いカロリー補給や、ひと時の楽しみのために使ってほしかった。
食事の面倒はずっと私が見てたから、そんなバランスの悪いことにはなっていないと思う。
良く食べるな、とは思ってたけど。
やっぱり、飴を取り返さなかったのが良くなかった。
それに、渡したお小遣いでの、買い食い。
……今、聖女ノエルの体型は、ビア樽状態です。
<現在の聖女ノエルのステータス>
名称:ノエル
年齢:16歳
称号:聖女
状態:状態異常(肥満)
Lv 20
HP 1680/1680
MP 1880/1880
攻撃 168
防御 176
魔攻 222
魔防 234
命中 200
回避 198
*状態異常(肥満)により、戦闘時は命中と回避が50%down。
「何とかしてあげてね」
「ハイ、解決二向ケテ、全力デ取リ組ム所存デス」
読んで下さってありがとうございます。
最後までお付き合い下さると嬉しいです。




