第七話 凍てつかない心
悩みすぎて夜もぐっすり眠ったソルは約束した三日後にリップルのいるお城を訪ねた。
レッドカーペットに多くの金属や宝石で施された装飾の数々、どこまでも続いてるような長い長い空間で人々は『王の間』と呼ぶ。
まだ国王となったばかりの男、つまりはリップルの夫にあたる人が座っていて腰周りには柄の部分が金色に光る剣をぶら下げている。
剣を鞘に収めたまま右手に持っては先の方をソルに向けた。
「……騎士団の問題児か。本当にリップルの言う戦争を終わらせる鍵なのか? 貴様に敢えて問う」
「知らないですよそんなの。百聞は一見にしかずです」
「と、言うと。再入団を希望する気だろうか」
首を縦に振って頷く。
苦虫を噛み潰したような表情で睨まれるが、そんなの気にするほど柔らかくないと自身に言い聞かす。
特にリップルを通して数々の不祥事を聞いていた、また王としての尊厳を守る為にもこの男を通すわけにはいかないと考えているようで、でも妻は姫君だけではなく騎士団の団長としての実績もあるので、実質的に国王よりも遥かに立場が強い。
「分かった。妻に反発するわけにはいかぬ。が、その前に一つ聞きたい。その再入団するその意図とやらを」
「オレは守りたい子がいるんです。最優先は和解ですが、難しいならば戦争の終焉に尽力する覚悟です」
脳裏にはレイラの背中が浮かぶ。
隣でお淑やかに姫君の大きな椅子に座るリップルは理解して反応したい所だが、流石にぐっとこらえる。後で言いに行くだろう。
不安とちょっとした希望を胸に抱いて王は腕を組んで金よりも眩しい笑顔を見せた。
「私からも質問。ファイアという男も来るのかしら?」
「奴は来ません。自分としても協力はして欲しいですが、昔からの友人なんです。あの凍てつかないような心を守ってやりたい」
不満そうではあった。ソルの再入団をお願いしたという点も考えて深くは掘り下げない。
王の指示で鎧をまとった騎士が、ソルに騎士団の証を渡す。受け取るのは人生で2度目だろうか。
鎧の男が硬い握手を半ば強引にしてきて「頑張れよ」と小声で言う。
同じように「ああ」と返す。
自宅で待っているレイラのため、挨拶をひとしきり済ませ浮遊の魔法を使い飛んでゆく。