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第九話 後悔なき試練の始まり。

 とりあえず無用なトラブルにはこれ以上巻き込まれまいと、ソルの横顔を浮かべながらそろりと通り過ぎようと試みる。

「ちょいとそこの魔力持ってそうな怪しげな姉ちゃん!」

 話しかけられてしまった。最悪である。

 淡々とした早口が特徴的だなと思いつつ、用事を理由に言い訳を並べた。

 兄に会いに行く。買い物済ませたい。などなど……。


「いいのかい」


 野次馬が沢山いるはずなのに、シャイニーとフードの男の間の空間で突如として静寂が生まれる。


「そうやって逃げる癖があるから何も変わらない。一回僕のトラブルを解決してみないか」


 なんで知ってるのよ! と内心思いつつ、痛い事実を突きつけられて少し後退り。

 刻一刻と迫る、騒音の中の静寂の時間の終わり。魔女をやっているシャイニーだからこそ、感じ取れる物があった。

 迷っている内にフードの男と選択する権利は雑踏に消え去ってしまう。

 民衆に揉まれしまいに大円の外に追い出され、仕方なく自宅への帰路へ着く。

 ちょっとした並木を横切り石畳を踏む。今日とて強い日差しが地面を照りつけ、熱を反射した石畳が余計に暑くした。


「いいもん。わたしはわたし!」




 焦った様子でキョロキョロ周囲を見回しているファイアを発見した。

 考え事をしていたのか、気づけば若干見慣れないような場所に立つ。


「ファイアくんどうしたの、そんな体と首ぶん回して」

「おいおい知ってるぜオレ! ここは"地上"ってやつだ!」


 は? と素の反応が出てしまう。さっきまでスカイスペースにいたと思い込んでいた。いや、実際いた。


「そんなわけ。だって太陽や雲がこんなに遠く……遠い?」


 二人で焦り出す。普段戦わない他称天才の戦闘要員と、ちょっと強い一般人の魔女。地上の民に見つかればあわや大変だろう。そう思考がぐるっぐる回る。


「誰か来る!」


 シャイニーがファイアの手を引き、大きくボーボーに生え散らかした雑草の中へ身を隠した。

 トコトコ歩く14歳程の少女。赤毛に赤ずきんと腕を曲げてフランスパンやら緑色の野菜と少々の肉類を入れたカゴを持ち歩き、鼻歌を奏でながら宝石のようにカットされた水々しい色合いの氷塊を踊らす。


「む! 強大な魔力の気配を二つ感じます!」


 運が悪い。あの子魔法使いだ。

 ためらいもなく雑草をかき分け、とうとう発見されてしまう。

 逃げよ! とシャイニーが言う前に少女はファイアの腕を掴み興味津々に瞳孔を覗く。

「炎? 違う。一見灼熱のような熱い物を感じるけど、ただの洗礼された魔力! 面白い人がいるんだね!」

 名前に似つかわしくないくらい顔が真っ青なファイアは、雄叫びの如く悲鳴を上げた。

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