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【6】冬の日の恋人たち【完結】  作者: ホズミロザスケ
第二章 Be with me/総一郎
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第四話 Be with me

 言われた通り、退勤後、まっすぐ家に帰って待っていると、咲さんがスーパーの袋片手にやって来た。

「お疲れー! 体調はどうだ?」

「僕は大丈夫ですよ」

「それならよかったぜ。でも、ゆっくりしてていいからな」

 咲さんは早速キッチンに向かう。

「今日は何作ってくださるんですか」

「豚バラと白菜の鍋にしよっかなって」

「以前も作ってくださりましたよね。さっぱりしてて、美味しかったです」

「うまいし、カンタンだからな。すぐ作る」

「ありがとうございます」

 咲さんが手際よく半玉の白菜を短冊形に切っていく。切った白菜を鍋底が見えなくなるよう敷き詰め、その上から薄切りの豚肉をその上に乗せる。そして、また白菜を乗せ、豚肉を重ね……を繰り返す。白菜の硬い部分をなるべく下の方に配置する。途中で粉末だし、醤油、酒、みりんとごく少量の水を加える。そして、残りの白菜の柔らかい葉の部分を乗せる。鍋の蓋が閉まらないほど山になってしまうが、煮ていくと嵩が減るので問題はない。

「総一郎、座ってていいのに」

「咲さんが調理してる姿見るの好きなんで。参考になりますし」

「料理動画ってなんかおもしろいよな。でも、ワタシは適当に目分量でやるから、参考にはならなくないか? ま、総一郎が良いって言うならいいんだけどさー」

 早口でそう話す咲さんの頬は少し赤らんでいた。


「よーし! 出来た」

 鍋ごとローテーブルに運ぶ。真ん中に置いた鍋敷きの上に堂々と鍋が座る。小皿に各自食べる分をよそっていく。

「では、いただきますね」

「おうよ。いただきまーすっ」

一口食べるたびに柔らかくなった白菜からじんわり和風だしが染み出す。豚肉のうまみも凝縮されている。

「あの短時間でも味が染みるのは不思議ですね」

「短時間でここまで味が染みるんだから、朝作って、夜食べる時に再加熱したらもっと染みておいしいのかも。これはこれで白菜の食感がしっかり残ってていいんだよなぁ」

 咲さんの作った料理を食べると、昼間感じた、あのあたたかさが身体にめぐっていく。

「明日、総一郎、昼から閉店までのシフトだっけ?」

「そうですね。咲さんは今日と同じで夕方までですよね」

「そうそう。じゃあ、今年は盛大にクリスマスパーティーってわけにはいかねぇか……。あ、チキンとケーキはどっかで確保しとくからさ。総一郎帰ってきたら一緒に食べようぜ」

「ええ」

 今まで母親と顔を合わせて食べる食事は嫌いだった。ただ腹を満たすために黙々と食べ、母親は僕に勉強の話しかしない。静かで息苦しい食卓。

だけど、咲さんと出会ってから、食事の時間が楽しい。ようやくごはんがおいしいと感じるようになった。


 食後、僕は食器を洗い終え、電気ケトルに水を入れる。

「温かい緑茶いります?」

「おっ、飲みたい」

 寒くなってから、食後に温かいお茶や、コーヒー、時にはデザート感覚でココアを飲んだりするようになった。味のバリエーションがある方がいいかなと、緑茶にほうじ茶、紅茶なあらダージリンにアッサムなど、気づけば戸棚はいっぱいになっている。

 二人で同じものを食べ、同じものを飲む。記憶を共有していく。こんなに嬉しいことはないと思う。

「総一郎、今日はほんとお疲れ様だったな」

「ご心配をおかけしました。一時的なものだったので、安心してください」

「そっか」

 咲さんはマグカップをローテーブルに置くと、僕の肩にこつんと頭を乗せる。しばらく黙り込んだあと、

「総一郎」

 と落ち着いたトーンで僕の名を呼ぶ。

「なんです?」

「ワタシには正直でいてくれな」

「えっ? 咲さんに嘘つくようなことしてませんよ」

「わかってる。嘘ついてるとかそうじゃなくて。何て言えばいいんだ……。楽しいことも、つらいことも、嬉しいことも、悲しいことも、些細なことでも、何かあったら言ってほしい」

 咲さんの声がくぐもっていく。

「ワタシは総一郎のこと、一番近くで見てるつもりだ。でも、やっぱりすべてはわかんなくて。総一郎はあんま感情が表に出ないし、ワタシがあまりにもテキトーでワガママでイヤになることないのかって不安にもなる。ちゃんとしてるつもりでも、総一郎にとっては不快だったんじゃないかとか……。体調のことだって、感じ取れなくて……手遅れとか嫌で――」

 僕は咲さんの肩をぎゅっと引き寄せる。

「大丈夫です。今日は、体調が元々悪かったとかじゃなくて――」


 僕は今日の出来事、過去の自分が重なってしまって、しんどくなってしまったということを話した。

「そう、だったのか」

「だから、咲さんが事務所に現れて、少しだけお話し出来た時、とても落ち着いたというか、張っていた気がすっと和らいでいくというか」

「ホントか?」

「本当です」

 僕の返答を聞くと、咲さんは立ち上がり、僕の肩に手を置いてゆっくりと腰を下ろす。目がしっかりとあった状態で、彼女は言う。

「なぁ、総一郎。総一郎が実家にいたのって十八歳までだよな?」

「高三までなので……そうですね」

「そっか。じゃあ、ワタシがその記憶、上書きしてやる」

 咲さんが瞬きをすると、目から大きな涙が落ちた。

「いろんな場所行って、いろんなモノ食べてさ。思い出たくさん作って……。十八年以上、いやもう一生、楽しいことの道連れにしてやる」

「咲さん……」

「おい……総一郎まで泣くなよ」

「泣いてなんか……」

 そう言った僕の声は震えていて、頬を触ると濡れていた。

「ああ……。咲さんに情けないところは見せたくなかったのに」

 拭っても拭っても涙はとめどなく溢れていく。

「泣くことは別に情けなくねーし。それに総一郎の全部見せてよ、ワタシだけに」

 咲さんは僕のメガネをそっと外し、胸に抱き寄せた。肌の柔らかさと、体温……を感じるよりは息が出来ないくらい強く抱きしめられてる。

「ちょっ、咲さん……苦し……」

「あ、ごめん、ごめん」

 目が合う。泣いて目が赤くなってしまっている。「ごめん」という気持ちをこめて、唇をそっと重ねる。いつもはメガネかけたままキスする。かけていない今、視界がぼやけているけど、いつもより近づけているそんな気がする。最初は不意打ちに驚いてた咲さんも、離そうとした僕の頭を掴み、さらに深くキスを求める。しばらく互いに吸い付くように口づけ、咲さんはゆっくり顔を離すと、僕のメガネをかけなおしてくれた。

「あはは。今、めっちゃ息苦しい」

「息継ぎのタイミングがわからなかったです」

「でも、キスしてたら幸せだなって思う」

「その気持ち、すごくわかります」

「……なぁ、総一郎」

「はい」

「好きだぞ」

「ええ、僕も咲さんが好きです」

 再び顔を近づける咲さんに、僕は今思いついたことを言うべく、「あっ」と短く声を上げ、動きを止めさせる。

「な、なんだよ」

「クリスマス終わった後のことなんですけど、ピアスの穴開けに行きませんか?」

「えっ! どうしたどうした」

「いや、あの、喜志芸祭の時に咲さんからいただいたピアス、ずっとつけたかったんですよ。でも、やっぱり一人で開けに行くのは勇気がいるといいますか、なかなか言い出せなくて」

「へぇー、総一郎もビビるんだな」

「人体に穴開けるんですから。咲さんは怖くないんですか?」

「んー? 友達が昔開けた時に『一瞬だった』って言ってたから怖くない――と言いたいけど、ごめん。怖い」

「なら、なおさら一緒に。僕ら二人でなら怖さなんて……」

「だよな」

 頷きあったあと、僕らの距離はまた近くなっていった。


<第二章 総一郎/了>

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