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【6】冬の日の恋人たち【完結】  作者: ホズミロザスケ
第四章 Be with you/咲
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第四話(最終回) Be with you

 真綾にはウチのコンロを貸して、ワタシは総一郎の部屋に行き、フライパンとコンロ、トースターを借りる。ワタシの担当する料理はミニグラタンだ。グラタンはスーパーに売っている二人前がすぐ作れるキットで作っていくから難しくはないけど……。いやー、こんな小さいカップで焼くのは初めてだから緊張するなぁ。普段なら鶏肉を入れるが、それだとカップからはみ出てしまう。そこで真綾が買ってきてくれたのが、ツナ缶とコーン缶だ。

「これなら小さいからカップに入るし、色合いも良いよ」

 機転の利かせ方、すげぇ。そこまで考えてくれてるなんて。ワタシは箱に書かれた通りにグラタンを作り、最後にツナとコーンを混ぜる。スプーンですくってカップに入れて、ピザ用チーズを散らして焼いていく。焦げないように注意しつつ、総一郎の部屋を見渡す。


 ワタシがここに引っ越してきた日、総一郎の部屋でピザ、一緒に食べたんだよな。あの日は、再会できたことがホント嬉しかった。知らない土地での一人暮らしというプレッシャーも少し和らいだ。それからもワタシが風邪をひいた時には面倒見てくれたり、ご飯一緒に食べたり。友達の頃から、恋人同士になっても、いつもワタシを心配して、一番そばで見守ってくれている。駿河みたいに優しくて、気の合うおもしろいヤツに、きっと地球一周したとしてももう見つかりそうにない。アイツにとって誕生日はただの一日でも、ワタシは生まれてきてくれたことを感謝したいんだ。


 真綾が完成させた料理も総一郎の家に運び込み、余った時間で神楽小路と共に飾りづくりを手伝う。

「桂よ。なぜお前は端と端を綺麗に貼り合わせることが出来んのだ」

「あ? ちょっとくらい歪んでたってちゃんと繋がってたら良いんだよ」

「見栄えが悪い」

「飾ったらわかんねぇだろ」

「む……」

「うぅ、どっちの意見もわかる……」

「真綾はどっちかというとワタシの方だろ」

「う……それは……」

「真綾の適当とお前の適当加減は同じとは言えんが」

 そんな感じに和気あいあいと飾りを作り、六時前には総一郎の家で飾りつけも完了させ、そのまま待機する。

「あ、総一郎からメッセージ来た。『今から帰る』って」

「ドキドキしてきたね」

「無事に駿河を迎えれるだろうか」

「ここまでやったんだから、いけるだろ! たぶん」

「無責任な」

「咲ちゃんの言う通り、きっと大丈夫だよ!」

「よし、電気消して待機すっぞ」

 電気を消すと真っ暗になった。

「なんだかワクワクしちゃうね! こういうサプライズするの初めてだから」

「俺もだ」

「ワタシも」

 サプライズ初心者三人は、解錠音で一気に緊張感が走る。

 ドアが開き、電気が点いた瞬間、ワタシたちは叫ぶ。

「お誕生日おめでとう!」

 キレイに三人の声が揃った。天井に向けてクラッカーの紐を引く。総一郎はキョトンと立ち尽くしている。あまりにも微動だにしないから、三人とも心配になる。

「お、おい、総一郎大丈夫か?」

「……」

「ほら! 真綾と神楽小路も駆けつけてくれたんだぜ」

「駿河くん、こんばんは!」

「駿河来たぞ」

「……」

「本当はさ、昼過ぎに二人呼んで驚かせる予定だったんだけど、総一郎バイト行くことになったから……どうした?」

「あの……」

 小さく震えた声で言ったあと、総一郎は顔を伏せた。メガネを外し、ダウンの袖で目をこする。真綾と神楽小路は驚いて固まっている。

「みなさん、こんな、三が日の最終日で忙しいのに、外も寒い中……ありがとうございます。嬉しくて……」

 膝から崩れ落ちた総一郎をワタシは抱きしめ、髪を撫でる。前より激しく泣いている。

「……泣いてる場合じゃないぜ。今からがスタートなんだからさ」

 総一郎は答えの代わりに強くワタシを抱き返した。


「すいません、さっきはお見苦しいところを……」

「ううん。そんなことないよ!」

「ああ。真綾の言う通りだ。気にするな」

「ありがとうございます」

「とりあえず、ケーキのろうそく消してもらわねえぇとな」

「ケーキ用意するね」

「真綾頼んだ~!」

「そう言いながら、咲さんは僕にいろいろ飾り付けしてますがなんなんです」

 総一郎の胸元には『本日の主役』と書かれたタスキ。頭に三角筒のハットを乗せてあげた。「これ、ウチの雑貨屋で置いててさ。今日のために買っておいたんだぜ」

「すごく恥ずかしいのですが」

「何言ってんだよ。誰が主役かをハッキリさせねえと」

「顔なじみの四人しかいませんよ」

「駿河くん、ケーキに十九本ローソク立てたから、一気に吹き消してね。咲ちゃん! 電気消して~! わたしは動画、君彦くんは写真でその瞬間を撮るからね」

「誕生日会って本当にこんな感じなんですか? 僕騙されてませんか?」

「俺も何が正しいのかわかってないが、残りの二人がそうだと言うのであれば……」

 ハッピーバースデーの歌を歌ったあと、総一郎は照れながら、十九本のローソクを吹き消した。消えた瞬間に大きな拍手に包まれた。


 ケーキは一旦冷蔵庫に入れ、テーブルの上に料理を並べる。

「温めなおしたけど、どう? 冷たいところない?」

「問題なく食べれますよ。美味しいです」

「よかったぁ。みんなどんどん食べてね」

 総一郎は労働のあとでお腹空いてたのか、いつもより食べるペースが速い。

「このサラダにかかってるドレッシング、手作りですか?」

「そうだよ。サーモンが油強めだから、ドレッシングはあっさりにしたくて」

「なるほど。レモンの爽やかさがすごく合ってます」

「俺は作れないが、原理はわかる。勉強になる」

「えへへ」

「あ、事後報告になるんだけどさ、グラタン作るためにフライパンとオーブントースター借りた。洗って、拭いといた」

「そうでしたか、了解です。かわいいミニサイズのグラタンですね」

「冷食でこういう感じのお弁当おかずで見たことあったけど、作れるもんなんだなって感動したぜ」

「たしかにこのサイズならお弁当にも入りますね。あとで作り方教えてください」


 そのあと、総一郎に各々プレゼントが渡される。神楽小路はいかにも高そうな持ち手に装飾が入った銀のカトラリーセット、真綾はカンタンに作れるレシピがたくさん載っているレシピ本。そして、ワタシは白い陶器のティーカップセット。総一郎、最近お茶に凝ってるけど、ソーサーのついてるようなティーカップは持ってなかったなと思って、これにした。

「こないだクリスマスで皆さん出費が多いところに申し訳ないです。でも、とても嬉しいです。たくさん使いますね」


 賑やかに誕生日会は続き、気がつけば日付が変わるところだった。神楽小路の家の車が到着している駅まで、見送りに出る。

「楽しいあまり、長居してしまったすまない」

「いえ、こちらこそ新年早々、来てくださってありがとうございました」

「むしろ新年から四人で会えて楽しかった! 来年もお祝いさせてね」

「駿河」

 神楽小路はそう言うと、総一郎をじっと見る。

「今年もよろしく頼む」

「こちらこそです」

 と深々と頭を下げる。

「桂もな」

「オマケかよ。まあいいや。仲良くしようぜ」

「今年もみんな仲良くたくさん遊ぼうね。あ、勉強もちゃんとがんばろー!」

 二人を乗せた車は星空の下、走り出した。

 

 二人を見送り、総一郎の家へ戻る。総一郎はワタシの前で正座し、頭を垂れる。

「ありがとうございました」

「顔上げてくれよ。喜んでくれたなら良かった」

 ワタシも急いで座り、目線を合わせる。

「あと、朝はごめんなさい。泣きそうな咲さん置いたまま、フォローもちゃんとせずに、出ていったので」

「まー、仕方ねぇよ。急いでたんだし……」

「今まで深く誕生日なんて考えたことがなくて。まさか祝われるなんて思ってもみませんでした。今日は本当に楽しかったです」

「そうか」

「咲さんといると、知らなかったことをたくさん教えていただけます。人に祝われる喜びや、人を好きになること、心安らげる場所があるということ。だから、小説も、自分が体験して感じたことも書くようになりました。今までとまた違う新しい創作体験も楽しくて。僕も咲さんに一緒にいて楽しいとか、刺激があるなぁと思っていただけるように頑張るので、今年も、これからも――」

「頑張らなくていい」

 ワタシは総一郎の首に腕をまわし、抱き寄せる。

「頑張らなくたって、こうしてそばにいてくれるだけでいいよ」

「……はい」

「改めて、誕生日おめでとうな、総一郎」

 来年も、再来年も、ずっとずっと、こうして大好きな人をお祝い出来ますように。そう願いをかけるように、総一郎の頬にやさしく口づけた。


<第四章 咲/了>

<冬の日の恋人たち/了>

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