最終話
レジスタンスに入ってから二か月がが過ぎた。ユーリたち二人はこの二か月で莫大な戦果を挙げていた。そして今日はハルトに呼ばれてボスのところへと赴いた。そこにはリョウヤもいた
「ハルト以下三名、来ました」
「入れ」
部屋の主の了解を受け部屋の中に入る。
「ハルトそろそろ頃合いだと思うか?」
「はい、相手も相当飢えているはずでしょう。ここのところ頻繁に略奪部隊が帝都を出ているようです。下位兵団の補給路も絶って限界が来たんでしょう」
「うむ、そろそろ仕上げといくか」
「仕上げ、というのは?」
「まずは帝都の様子を探らせ、その後で決める。良いな」
「はっ」
「良し、では下がれ」
「はい」
部屋から出る四人。
「ハルト、仕上げってなんだ?」
「連中が相当飢えているのはここのところの襲撃の頻度と出撃回数でわかっているところだ。それで三人に帝都の様子を探ってきてほしいんだ」
「俺たちがか?」
「もし万が一バレたとしてもお前たちならなんとかなるだろ?」
「なるほど、そういうことか。了解した」
準備を整えてユーリたちは拠点の入り口に集まる。
「近くまでは送る。それ以降は徒歩で目指してくれ。じゃぁ、三人を頼んだ」
車に乗車し帝都を目指す。頃合いになったか車が止まる。一応だがここに食料の半分を隠しておく。ここからは徒歩になる。しかし悪魔の加護を受けている三人からすればなんてことない距離だった。だが問題は帝都の中に入れるかだった。
「おい、そこの三人」
帝都の門をくぐろうとすると呼び止められる。
「はい、なんでしょう」
リョウヤが対応する。
「お前ら、どこから来た?」
「私たちは北から来ました」
「ふむ、食料があるのなら差し出せ」
門番ですら食料を奪おうとする。それほど帝国は飢えているのだろう。渋々ではあるが食料を差し出す。偵察に何日もかけるつもりもないため痛くは無い。こうして無事帝都の中に入ることができた。
しかし帝都の惨状はひどいありさまだった。道行く人全てが食べ物は無いかと聞いてくるのだ。かわいそうだが門番に全て取られているので分け与えることもできない。そも分け与えればすぐに群がってくるだろう。
そして肝心の軍の近くまで来る。
「おい、今日の収穫はどうだ?」
「ダメだ。レジスタンスの奴ら、俺たちの下位兵団まで手を伸ばしているらしい」
「それだと食料が入ってこないじゃないか!!」
「だからと言って略奪に出ても戻ってこない奴らが多い」
「食料を買い付けに行った奴らも帰ってこない」
「これじゃぁ俺たちは飢える一方じゃないか!!」
どうやら軍の方も随分と干されているようだ。
「これなら突入しても相手の数が上でもこちらに分がありそうですね」
「あぁ、これなら楽に殺せそうだ」
「楽勝」
探るべきところは全て探った。軍の施設もメモを取った。後は帰るだけだ。こっそりと門番を通り越す。門番は先ほど奪った食料に夢中で職務を放棄していたため楽に出ることができた。そこからは走って最初の場所に戻る。食料を半分隠していたのが功を奏した。そこで腹を満たし再び拠点へと走る。数時間走ったところで拠点が見えてくる。なんとか任務を遂行することができた。戻ってきたころにはすでに日は沈みかけていた。
「おぉ、戻ったか。で、首尾はどうだった?」
「えぇ。バッチリ飢えてましたよ」
「そうか。ならボスにそう報告してくる。三人はもう休め」
そう言われて各自の個室に戻る三人。そこで眠りについた。
ーーーーーーーーーー
朝、拠点のメンバー全員が集められていた。そしてボスが壇上に立っていた。
「諸君、これより帝都に攻め入る!!」
その宣言で騒めきだす。ついにこの時が来たかと歓喜の声も見受けられる。
「これまで苦難の道であった。諸君らをさすらい人にした帝国に鉄槌を与えん!!」
その声にほぼ全員が賛同する。ユーリたちも同じだった。
「では各員装備を整えて入り口に集合せよ!!」
皆は散り散りになって急いで装備を整える。別段整えることがないユーリたちが一番に入り口に着いた。そこには驚きの物があった。
「こ、この機甲車は?」
ただの機甲車よりでかい図体、そして長い筒が付いていた。
「これは戦車という。でかい砲を積んでいて門を突破するのに役立つだろう。」
そうハルトが説明してくれた。そしてわらわらとメンバーが集まってくる。
「各員乗車!!」
ボスの合図で全員が車に乗っていく。ユーリたちもこれにならう。そしてレジスタンスの一行は帝都を目指し出発した。
機甲車の中で最終確認になる。
「いいか。お前ら三人は帝都近くに着いたらすぐに帝都の中に入れ。そして騒ぎを起こせ。必要なら兵士を殺してもいい。だが民は殺すな。これだけは絶対だ」
「あぁ、わかっている」
「俺たちが軍の詰め所を抑えたら最後に宮殿に乗り込む。」
「わかった」
「よし、そろそろだな」
頃合いか、レジスタンスの兵士たちを乗せた機甲車が止まる。後は徒歩で向かう。三人は降りるとすぐに走り出す。門番は急なことに反応できず三人を通してしまう。そしてその間に間合いを詰めて来た戦車による砲撃で門を破壊される。そして詰めて来た兵士に一人も残さず撃たれる。
三人は軍の詰め所を目指して走る。そして着くや否やあたりを破壊し始める。機甲車だろうと兵士だろと構わず切っていく。すると狂ったように兵士たちが騒ぎ出す。そして後詰の兵士たちが到着する。
後は彼らに任せさらに先へ進む。同じくここでも騒ぎを起こす。近づいてくるものを全て切り伏せる。民は慌てて家の中に隠れるか走って逃げだす者だらけで向かって来る者はおらず、都合のいい展開が続く。
「くそったれが!!」
激昂した兵士が機甲車に乗って突っ込んでくるが構わない。ただひらりと避けて横から運転席を切り付ける。それだけで鮮血が弾ける。そうしているうちにハルトの部隊が到着する。
「軍の施設は大方抑えた。後は宮殿に突っ込むだけだ」
ハルトの部隊と呼吸を合わせて宮殿に突入する。流石に宮殿の兵士は銃を持ち反撃してくる。しかし三人の突撃を阻める者はいなかった。そして最奥の間へと到達する。
「くそっ!!ゴミムシどもが!!誰かおらんのか!!俺を助けろ!!」
奥の間にいたやたら豪勢な服を着た男が狼狽えていた。
「お前がこの国の王だな」
「そうだゴミども。首をたれろ。そうすれば許してやることもない」
「生憎貴様に垂れる首などない!!」
ハルトの合図で部隊が銃を向け発砲する。文字通りハチの巣にされた王は無残な姿だった。
「ようやく、終わった」
ハルトが肩の荷が下りたように言う。
「片付いたか」
そこでボスが登場する。無残な姿の王を見てそのままユーリたちを見る。
「我々の勝利だ!!勝鬨を上げよ!!」
その合図とともに兵士たちが吠える。それは木霊して帝都全てから聞こえる。
「これで、終わったんだな」
「うん、仇は取ったよお母さん」
勝ったのだがまだ問題があった。悪魔との契約だ。
「なぁ、これから人を殺すことは激減するだろう。それで、お前はどうするんだ?」
『何一度契約した身だ。悪魔は契約はしっかりと守る。たとえ魂が捧げられなくともな』
「これからも力を貸してくれるのか?」
『人の行く末を見るのも一興よ』
「そうか」
ふとカーナの方を見ると同じようにこちらを見ていた。
「そっちは話がついたのか?」
「うん。そっちも?」
「あぁ」
「さて、これからどうしようか」
「私も迷ってたところ」
勝鬨を吠える兵士たちを他所に二人は考える。
「農場でも、やってみるか?」
「いいかも」
そう言って二人は手を繋いで勝鬨の輪に加わった。
後世で伝えられるヴァルツの反乱はこうして終わった。新生ヴァルツ帝国は長年平和を維持する国へと変わっていった。
ありがとうございました。
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