第二話
朝早くに起き、朝の鍛錬を行う。黒き槍斧を振り回し演武を取る。それを使用人たちが立ち止まりながら見ていた。そして朝食の時間となり食堂に向かった。
「で、どうでしょう。このまま我が町に滞在されてはもらえませんか?」
「それはできない。俺は復讐のための旅をしているんだ」
「そうですか。それは残念です」
朝食を食べながらそういう話をする。一つの町に根を下ろすとヴァルツ兵団を追えなくなる。だから少年は終わらぬ旅に身を費やしていた。
「これはわずかながらのお礼です」
そう言って路銀を渡してもらう。そして周囲には少年が昨日排除した兵団の機甲車が揃っていた。
「本当にタダでよろしいのですか?」
「これはお前たちが拾って来たものだ。俺は知らん」
そう言って少年はバイクに跨り町を去った。
バイクを走らせ荒原を進む。農場などは見えずただ荒地が広がるだけだった。この世界は機甲車を持つ者が正義だった。奪い、そして蹂躙する。その行いが正しいとされていた。少年もその被害にあった一人だった。
彼は復讐を誓い悪魔と契約して人知を超えた力を得た。そして兵団を見つけては屠っていく。
まさに彼は黒き狩人であった。
バイクを走らせること数日、補給のために近くの町に寄る。そこは機甲兵団が治めている町だった。とくに略奪があるわけでもなく平和な町であった。彼はそういう兵団は無視することに決めていた。
バイクの燃料を補給し市場にて数日分の食料を買う。そして兵団の詰め所に行く。
「ヴァルツ兵団について何か知らないか」
「おかしなことを言うやつだな。この大陸を支配しているのがそのヴァルツ兵団だろうが。帝都ヴァルツに住まうのが彼らだ。俺らが知っているのはそれだけさ」
「そうか、邪魔をしたな」
そう言いて少年は町を去る。
少年一人で国を落とすことは不可能に近かった。だから町に寄ってはよさそうな人物を探すがそう都合よく人は見つからない。そうして少年は荒れ地をバイクで進んでいく。
すると煙が見えた。どうやら機甲兵団が戦っているようだ。もし誰かが襲われていたら捨て置けない。だから少年は様子を見に近づいた。そして少年は驚愕の事実を見た。
年端もいかぬ少女が手に持つ黒き鎌で機甲兵団を屠っていたのだ。
「誰?」
少女が問うた。少年は応える。
「俺はヴォルト・ヴァン・ユーリ。機甲兵団を屠る者だ」
「あなたから私と同じ匂いがする」
『ほう、どうやらあの小娘。我が同胞と契約しているな』
「お前も悪魔と契約しているのか?」
「そう、私も悪魔と契約している。名前はカイム」
『カイムとな随分懐かしい名前がでたものだ』
「俺は仲間を探している。ヴァルツ兵団を滅ぼすだけの仲間を」
「そう、私と一緒ね」
「ならどうだろう。一緒に旅をしないか?」
「いいわ、のってあげる」
こうして新しい仲間が加わった。そう言えばまだ彼女の名前を知らない。
「アンタ、名前は?」
「ヴォルト・フォン・カーナ」
「カーナかよろしく頼む」
「ん」
そうして二人は握手を交わす。そして少女が蹂躙した兵団の中から使えそうな機甲車を選び乗車する。ユーリが運転しカーナが助手席に座る。当然ユーリが載ってきたバイクも載せてだ。新しいユーリの旅路が始まる。
「ユーリはどうしてヴァルツ兵団を追うの?」
「俺が小さいとき、住んでいた農場を奪われた。おかげで家族はバラバラになりこのありさまさ。でも家族は元気に新しい場所で過ごしている。それだけが俺の拠り所だ」
「そう」
「そういうカーナはどうなんだ?」
「私は集落を焼かれた。小さいころヴァルツ兵団がすべてを焼き払った。私の家族を含めて。それから私は悪魔と契約して今に至る」
「そうか・・・」
互いの昔話は聞いても心が躍る話ではない。気まずい空気が流れながれながらも旅路は進む。
「兵団と言ってもいい奴らもいる。町を守っている奴らとかな」
「それは対象外。私が狙うのはヴァルツ兵団のみ」
狙いは一致しているようだ。悪魔と契約している人間が他にもいた。つまりはヴァルツ兵団を憎んでいる人が他にもいるということだ。
「これからはどうするの?」
「人だ。人を集めよう。ヴァルツ兵団に対抗できる人を」
「そんなに簡単には見つからないと思うけど」
「見つけるんだ。そうしないと俺たちは戦えない。俺たちが立ち向かうのは国そのものだ。少人数じゃ国は落とせない」
「そうね。でも協力してくれる人なんているのかしら」
「いる。君がいたように他にもヴァルツ兵団を憎む人はいる。そう言った人を探す」
「簡単じゃないわよ?」
「旅に出た時から簡単じゃないとわかっていたさ」
そう言いながら車を走らせる。
「だったら野良の兵団はあまり狩らないほうがいいかもね。もしかしたら仲間になってくれるかも」
「そうだなそれも一つの考えとしてありだな」
そう話していると町が見えてきた。
「どうする?寄るか?」
「疲れたし今日はあそこで宿を取りましょ」
「了解」
そう言って車を町に向け走らせる。
「ではどうぞ」
特に手続きは無しで町に入ることだできた。宿を探しながら街中をゆっくりと進む。そうして一軒の宿を見つける。横へ車を停め、中に入る。
「いらっしゃいませ。宿泊ですか?」
「そうだ。部屋を二つ。一日分で良い」
「かしこまりました。こちらが鍵となります。夕食、朝食はご自身で取られるようお願いします」
鍵を受け取って部屋に入る。
「ふう、一息つけた。」
『契約者よ。こんなにゆっくりで良いのか?』
「そう焦ることでもない。ゆっくり、じっくりと攻めていく。奴らには後悔もなにもさせない」
そこには少年の確固たる決意があった。
『まぁ、良い。魂を捧げることを忘れるなよ』
「あぁそのことなんだけど。少し減っちゃうかも」
『何?』
「野良の兵団でも使えそうなやつがいたら生かして使おうと思ってな」
『ほう、まぁ良い。もともとそこまで魂を求めるわけでもないからな』
「理解が早くて助かるよ」
少し時間が経ち腹が減る。そろそろ夕食を取らねばなるまい。そう思ってユーリは部屋を出て、カーナの部屋をノックする。
「何?」
「一緒に夕食でもと思って」
「そう、すぐ行く」
そう言ってカーナはすぐ出てきた。二人で町を散策する。
「あそこなんてどうだろう」
ユーリが指差した先には一軒の店があった。
「いいわ。そこにする」
そう言ったのを確認して店に入る。
「この店のおすすめを頼む」
「はいよ。嬢ちゃんは?」
「私も同じのを」
「あいよ。それにしても見かけない顔だな。旅人か?」
「まぁそんなとこだ」
「このご時世に旅人とは珍しい。外には機甲兵団がうじゃうじゃいるというのに」
「俺たちはそれを狩るのが目的なんだ」
「へー、それは大したこった」
店主はユーリの話を聞き流すように聞く。そして料理が運ばれてくる。
「「いただきます」」
二人は手を合わせてご飯にありつく。
「なぁ、ヴァルツ兵団に抵抗している兵団とか知らないか?」
「そんな話っ聞いたことないな」
「そうか、ならいい」
「まさかヴァルツ帝国と戦っているのか?」
「まぁ、そんなとこだ」
「怖いもの知らずだなアンタたち」
「旨かったよ。ごちそうさん」
そう言って店を後にし、宿に戻る。
「じゃぁ、おやすみ」
「ん」
そう言って二人は自分の部屋に入っていく。
「ふぅ・・・今日も一日生き延びたな」
そう言ってユーリは眠りに落ちた。
ありがとうございました。