言い訳はくるしいもの
「これだけ文字が読めるのならば知っているだろう?アダトル語は普通、平民が読める程度まで学ぶやつはいない。」
やらかしたというしかない。アダトル語などの外国語は基本的に平民は学ばない。まずは自国の言語や読み書きを覚えるのが精一杯だということが一つ。そして外国語はあくまで教養なのであった方がいいが、一日一日を必死に暮らすような者はすぐに生活と結びつくもの以外には関心や興味を及ぼさないからである。であるからわが国では外交に関わる機会がある貴族ぐらいしか外国語を取り扱わない。今の私は平民に扮する格好をしていて、怪しまれて罠にかけられることは不思議ではない。
「黙ってないで話せ」
貴族特有の人の口を割らせる覇気がびりびりと伝わってくる。体から冷や汗が吹き出し、どうしても口を破りたい衝動に駆られる。私がこれを感じても黙っていられるのは以前に体験していたからだ。あの、無言で睨みつけられたとき。何を話せばいいのか分からず、そして口を開くことができないため、ただその恐怖を感じていることしかできなかった。
何か言わねばならない。頭がゴチャゴチャする中でひとつそれらしいページが頭に浮かぶ。
「そっ祖父から教わりました。」
「…祖父だと?」
「はい。祖父も確かに平民の出ではありますがアダトル語に堪能でした。」
「お前の祖父の時代ならなおさらだ。精通する普通の平民はいない。」
また覇気が強くなる。さあ、ここが正念場だ。
「しっ知っています。でも祖父は普通の平民じゃあありません。」
「はっ、知っていたから普通でないとでもいうんじゃないだろうな」
少し馬鹿にしたように彼は眉を動かす。
「違います。祖父は特別な人だったんです。…かつて軍役に就いていたから。」
「軍…役…?」
「ええ、徴兵された元軍人です。だから外国語を知っていました。」
軍人には自国語以外にも周りの国の言語の読み書きを習う。それはもし捕虜として捕らえられてしまった場合でも他国と交渉したりスパイとして相手国の情報を盗み取り、解読できるようにするためである。それ以外にも様々な困難に立ち向かう理由で訓練の中に取り入れられていた…らしい。
妃教育の時に齧っていたのと結構古い伝記に書かれていたから言ってみたけど…これで信じてもらえるだろうか。
彼は苦虫を噛み潰したような表情をした後にガレックスの方を向いて目で合図する。
「………確かにそのような話を聞いたことがある。事実としてあるようだな、分かった一旦その主張は認めよう。」




