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レイ&ユウ  作者: レッド
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第六話「仮名」

前話の投稿から、数か月が経過してしまっているので、話を忘れている方

または、一話も読んでいない方は、前から読むことをオススメします。


過去に起こった出来事は本などに記録される

そういった本は、何百冊にもなってくると保管に困るため、倉に移動させられる。

しょっちゅう見るわけでもないから、何年も放置されていると、埃が積もってしまっている。


現在居るのはその倉で、どのくらい掃除されていないんだろう以前に、いつから人が入らなくなったのだろう、と疑問を抱くほど、最悪な場所だった。

ずっとここに居るのは、身体に良くないだろう。


「けほっ……あまりに汚くて、触りたくもないんだけど」


本を一冊手に取る度に埃が舞う。

それがもろに顔に来るものだから、目が痛くなるし息苦しくもなる。


「ずいぶん前のことですからね。結構奥の方かもしれません」

「奥って……いろいろ物がありすぎて、先に進めないんだけど。まさか、これを全部どかせと?」


ここにあるのは本だけではない。何に使うのかわからないモノがたくさんある。

なぜか土管もあるのに驚いた。誰が運んできたんだよ。


「喜美子様は、ずいぶん前に本を読んだっきりみたいです。一度読めば頭に入るらしくて」

「あの人は……。だったら婆ちゃんに聞いた方が早いのでは?」

「自分たちで見た方が覚えます。人から聞いたものを覚えられますか?」

「……無理です」


聞いただけで覚えられるなら苦労はしない。

それに、興味のない話を聞いているのも眠くなって仕方がない。

戦争のことに興味がない、というわけではないが、たぶん婆ちゃんの話は長くて疲れて、頭に全然入ってこないだろうと、予想ができてしまった。


「ああくそっ! 一気にどかしたい! このままじゃ、らちが明かねーよ」

「そうなんですけど、慎重にやらないと、余計に埃が舞うんですけど」


すでに一時間以上は経過している。

扉は開けっ放しにすると、風が入ってきて中の埃が飛んでしまうため、閉め切っている。

そのため、中はとても暑く、すでに汗まで掻いてきてしまっているのだ。


「……なあ、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」

「……なんですか?」

「さっき、名前がないって言ってたけど、あれってどういう意味だ?」

「……そのままの意味ですよ。私の今の名前は『工藤ゆきな』です」


お互いに反対方向を向きながらの会話だから、表情は確認できない。


「それは、仮の名前だろ。『工藤ゆきな』本人は別に居る。そうじゃなくて、元々のお前の名前だよ」

「だから、ないって言ってるじゃないですか」

「生まれてきた時に、親に付けてもらったんじゃないのか?」

「それは普通・・の人です。私は普通・・じゃないですから」

「普通じゃないって……」

「そういうことです。生まれてきたら名前を付けられる、そんなのが当たり前じゃない人も居るってことですよ。だから私は仮の名を語ってるんです」


人は生まれてきた時に、親が名前を付ける。

それが当たり前と言えば当たり前なのだ。それが最初に、子に対する親の愛情だと思う。

じゃあ、名付けられないってどういうことなのだろうか。

呼び方に困る、それとは別に、口にしてはいけないような、そんな意味が含まれているのだろうか。


「……気にしないでください。複雑な理由とかじゃないですから。ただ、他とは違うやり方をするんですよ、私の親は」

「他とは違う、か。それじゃあ、一緒に暮らしている人も、名前がないのか?」

「え?」

「ほら、最初に会った時に言ってたじゃん、他に一緒に暮らしている人が居るって。護衛のためにあの小屋に居たのなら、やっぱりゆきなと同じ護衛の人なんだろ?」


旦那ではない、とあの時は睨まれたっけな。


「妹なんです。一緒に住んでるの。それに、あの娘にはちゃんと名前はありますよ」

「へぇ……。妹は何て名前なの?」

「ユウって名前です。早めに名前をもらえて良かったです」


嬉しそうに語るゆきなだが、事情をまったく知らない俺にとっては、どう返事していいのかわからない。

妹には名前があり、姉にはない。

しかも、妹は早めに名前をもらったって……。


「えーと、その妹さんは、あの家で留守番?」


あの家とは、俺の家の隣にある一軒家のことだ。

もともとそこには、住人が居たのだが、訳あって今はゆきなたちが住んでいる。


「いえ、ちゃんと付いてきていますよ」

「……へ?」


ゆきなが指をパチンと鳴らすと同時に、背後に人の気配を感じた。

恐る恐る振り返ると、そこに一人の少女が立っていた。

見た目の年齢は十四、五歳くらいだ。

髪の毛を両側で結んでおり、黒髪のツインテール。

ツインテールと言っても、そんなに長くはなく肩の上ぐらいの長さだ。


「お呼びでしょうか、姉さん」

「まだ、神さんに紹介していなかったからね。それとついでに、探し物の手伝いを……」

「……ついでは紹介の方で、本当は手伝いですよね」


表情ひとつ変えずに、ユウは姉のゆきなを鋭い目つきで見ていた。

無表情で感情が読めず、必要なこと以外はしなさそうな印象を受けた。

要するに、真面目そうな人だなぁって感じ。


「まあそう言わずに、ご褒美あげるから」


にこり、とゆきなは微笑みかけた。


「……では、外出許可をください」

「ぅ……そうきたか。でもまあ、社本家に居る間だけならいっか」

「ありがとうございます。それでは、少々お下がりください。社様も」


言いながら、ユウは前に歩き出した。

そして奥の方で立ち止まると、右手を横に挙げた。

そのまま右手を胸の前に移動させ、二本の指を立てた。


「これは、もう少し下がった方がいいですね。神さん、もう二、三歩下がってください」


ユウの動きから、何かを感じ取ったのか、ゆきなが俺の前に手を伸ばして制した。

何が起こるか分からない俺は、ただ言われた通りに三歩下がる。


「波っ」


左から右へ、横一線に斬ると同時に目の前の本が一気に上へ吹き飛んだ。

当然溜まっていた埃も舞う。ある程度離れてはいたが、やはり飛んでくる埃は避けられず、もろに直撃した。

一番近くに居たユウは、そんなこと気にせずに崩れ落ちた本の山をあさっていた。


「探しもの、これ」


数冊の本を差し出してきたのを、ゆきなが確認し「これよ!」と感謝の喜びを見せた。

見つかったはいいが、後始末はどうするんですかね?

こうなるのが嫌で、地道に探していたわけなのだが、こうなってしまっては、手のつけようがない。


「それでは、私はこれで」


そう言い残して、ユウは目の前から居なくなった。


「ちょっと待って! これ、俺たちがやるの?」

「うーん……そうなりますね。手分けして片付けましょう」

「はぁ……これが嫌で地道にやってたのに、これなら最初からやってれば」

「残念ながら、私の場合ですと、これより散らかってましたよ」

「つまり、最小限に抑えたってこと?」

「はい、でもあの娘の場合、もう少し押さえられたんですけどね」


片付けながら、ゆきなは言った。


「だったら、もう少し押さえてほしかったよ」

「うーん。外出許可を出したからだと思いますけどね」

「……外出許可って何? 自由に外出できないの」

「そんなことはないです。ただ、今は護衛中ですので、職場放棄みたいなものですかね」

「それだと、俺のせいで自由を奪われているってことだよね?」


とてつもなく申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

俺としては巻き込まれたのだが、過去から続いている戦いの関係者には原因は俺で、無関係とは決して言えない。

普通の人間には、手が負えない相手ばかりで、俺なんかは役立たず。

どうにかできないものかと、この間から考えてはいるのだが、未だ答えは出ず。


「私の場合ですと、全然問題ないのですけど。あのの場合は、ずっとというのは難しいみたいです」

「いや、それが普通なんだよ。突然知りもしない人の護衛役を任されて、挙句の果てに外出は控えろ、なんて言われたら、俺だって耐えられないと思う」

「……それって、私が普通じゃないみたいじゃないですか」

「へ?」


突然すねたような声でゆきなはそう言った。

今は護衛のためと、ずっと俺のそばにいてくれるから、いつ敵が来ても安心できる。

ただ、俺という存在が誰かの自由を奪っているのだとしたら、このままでいいとは思えない。


「……何でだろうな」

「何がですか?」

「どのくらい前なのか知らないけどさ、喜一という存在が、どれだけ多くの人の人生を滅茶苦茶にしたのかも知らないけど……その時代にとどまらず、生まれ変わって、その復讐の相手がそれを覚えているわけないとわかっていながらも、それでも構わないといった感じで、恨みを晴らそうとしている」


恨みを晴らすってことは、普通はすでにその人たちが居るわけがない。

生まれ変わったとしても、その恨みを引きずるのは不可能だ。


「……それはわかりません。ただ、この現代まで生きている時点で、人間ではない、ということです」

「それって、復讐するために、人間を捨てたってことだよな……ってことはさ、復讐を成功させなければ、死ぬことがないってことなのかな?」

「……かもしれませんね。現にこの前のくの一も、あなたを殺さない限り死ぬことはないみたいです」


それでもなお、俺を狙うとしたら、恨みのためではなく、死にたいがために襲ってくる可能性もあるかもしれない。

何か、そういうのって嫌だな。

恨みだけで生きているなんて……原因は喜一だったとしても、いったいどうしたらここまでの事態になってしまうのだろうか。

人生をやり直す、という手段を選ぶことなく何百年も生き続けるのは、苦痛だったのではないのだろうか。


「喜一がいったい何をしたのか、それがわからないと、どうにもならないよな」

「そうですね。人をここまでにしてしまうことって、何なんでしょう」


きっとそれは、本人達以外には理解できないことなんだろうな。

などと思いながら、散らかった本を片付けて行く。

最小限に抑えたという本の数は、普通の家庭にある、びっしり詰まった本棚を一つひっくり返したというレベルではない。

かるく本棚十個分はあると思う。

大量の埃を被り、暑さと労働で汗はびっしょり、早く風呂に入ってさっぱりしたい。


「こっちは片付きましたよ」

「ああ、悪い、こっちはもう少しだから、先に戻ってもいいぞ」

「そういうわけにもいきません。お手伝いしますよ」

「悪いって、埃と汗で気持ち悪いだろ? 先に風呂に入ってさっぱりして来いよ」

「本家といっても、安心できないので」


一時も俺の傍から離れない、という表情だ。

安全な場所などない、と言っているようにも思える。


「心配しすぎなんじゃないか? 敵もこんなとこまで襲ってきやしないと思うぞ」

「用心することに越したことはありません」

「………」


何を言っても聞かなそうだ。

あっちも、好きでやってることでもないだろうし、生まれた時からの使命? という理由で仕方なくだろうから

文句など言えるわけもない


「……わかった。じゃあ、さっさと終わらせよう」

「はい」


笑顔でそういうと、ゆきなはテキパキと片付け始めた。

熱気で倉の中はサウナ並みに暑いし、額に汗が溜まりダラダラと頬を伝い流れてくる。

水分補給の大切さを改めて知りながらも、この気持ち悪さから、早く解放されるために全力で片付けるしかなかった。

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