第四話「人間と化け物」
「もう、急に居なくなるから、ビックリしたじゃん」
「あはは、ごめん……」
現在、倉川遥さんと、工藤ゆきなと俺、社 神の三人で、同じクラスの牧島ゆりかに渡すプレゼントとやらを買いに来ている。
「プレゼントに、こんな高いものをあげるのか?」
値札に三千円以上もの金額が表示されていた。
「高いって、これはまだ安い方だけど?」
「……あ、そう」
お金はそんなに持っていない。
別に俺も買う必要はないのかもしれないが
「社君からも、何かあげた方がゆりかも喜ぶよ」
と言われたので、まあ、何かを買うことにしたのだが……。
「その、牧島さんが好きな物って、知らないんだけど」
「んー? 何でも良いって、貰えるだけで嬉しいんだからさ」
あ、そうですか。
異性を引き付けるフェロモンというものが俺にあるため、普通の男子よりかは、女子に好かれやすい、とのことらしい。
学校の屋上での出来事から、あまり気乗りしない俺とゆきな。
結局、最後の黒の布の女は、なんだったのだろうか。
パッと見、よさそうなのを一つ購入し、店から出ることにした。
「見つけたぞ……。社ぉ神んんんッ!!!」
でかでかと、叫ぶその声は男のものだった。
「神さん! あそこですっ」
指差す方は、電柱の上だった。
そこに、太陽のせいであまり見ることはできないが、誰かが立っていることだけはわかった。
「殺す殺す殺す殺してやるぅううううう!!」
「……俺って、男からも狙われるの?」
「いえ……女性だけのはずですが……」
「って、なんの話をしているのよ、二人とも!」
あ、倉川さんもいるんだった。
ここでの戦闘は、巻き込まれる。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
男が叫びながら、飛び降りてくる。
着地の寸前に、ゆきなは短剣で素早く、男の足を切りつけた。
「ぐおおおおおおおお!?」
着地に失敗し、見事に倒れる。
頭を電柱にぶつけ、痛がっている。
あれ? この人、どこかで……
「きさまぁ……社神! よくもやりやがったなぁ!!」
「俺は、何もしていないんだけど?」
「とぼけるなぁ! 妹を、よくも妹おおぉお!」
あ、この人。くの一の少女のお兄さんだ。
「お前に恨みは、なかった。しかし、妹を失った今! キサマを恨んでも恨んでも恨み切れねえほどの怒りが、湧き上がってきたぜ!」
妹を失ったことにより、その兄が仇打ちで来た。というわけだろう。
「これは戦争なんです! 誰かが死ぬことは、承知の上だったんじゃないですか!」
その一言は、発言したゆきな本人の心にも、深く突き刺さる言葉だった。
しかし、一番怒りを爆発させていた相手の男は、逆にほくそ笑んでいた。
「けっ、確かに戦争なら、死んでも文句は言わねえさ。でもなあ、俺の妹は人間ではない。それはわかってんだろ?」
突然の発言に、ゆきなは、何を言っているんだ? という表情で
「……人間以外も、死というものはありますよ。人間じゃないっていう理由で、生きてるとか言うんですか?」
「確かにその通りだ。だが、俺が言いたいのはそこではない」
そこで言葉を区切り、真剣な眼差しで
「人間を捨てる時に、契約というものがある。その契約とは、そこの『社神が死ぬまで、滅びることはない』というものだ」
「なんですか、その契約は。……それじゃ、命を狙って来て、それが成功した場合、自分自身も死ぬ、ということでしょう」
男は、そこで目線を逸らして
「それが、あいつの生きる理由だからだ。復讐を果たし、そして自分も死ぬ。一度捨てた人生を、喜一への復讐のためだけにここまで生きてきたんだ。俺には詳しいことはわからねえ、だが、あいつの助けになるのなら、俺は何だってする」
「つまりは、妹さんが戦闘不能の今、自分が邪魔である私を殺しに来たんですか」
言いながら、特に構えるまでもなく告げる。
「しかし、それでしたら、場所を考えてもらえませんか? ものすごい注目の的なんですけど」
「そうだったな、場所を移すか」
「ちょ、ちょっと待って! ゆきな、説明してよ」
わけのわからないといった表情で、遥が割って入る。
一般の人にわかるわけがない、か。
まあ、俺もちゃんと理解しているわけではないのだが。
「ごめんね、遥。今話すから」
言って近づき、何かをボソボソとつぶやく。
ここからだと、小声で何を言っているのかが聞こえない。
距離的に、5〜6メートル離れている。
大した距離ではないのだが、ひそひそ声は聞き取りにくい。
「そっか、それじゃあ私は帰るね」
「うん、また明日」
そう言って別れる二人。
ちょ、ちょっと待てええい!
そんな簡単に納得できる説明ってどんなだよ。
「ゆきな、お前何をした?」
「はい? 催眠をかけただけですよ」
催眠って、そんなこともできるんですね、巫女さん。
納得していいものなのか迷っているうちに、二人は移動していた。
そのことに気付いた時には、どこにいるのか、わからなかった。
誰も居ない、ビルの屋上に二人は居た。
「あなたは、おしゃべりに来たんですか?」
「戦いに来た。しかし、その前に話したいことがある」
真剣な表情で、右の拳を握りしめる。
それは、戦闘態勢ではなく、何かを決意したような、そんな感じだ。
「俺の妹、愛美は、すでに人の身ではないことは、さっきも言ったな」
あのくの一の少女は、愛美という名前だったのか。
「ええ、まあ。だいたい、喜一に恨みを抱き、現代まで生きている時点で、人間ではあり得ませんから」
「普通に考えてそうだな。つまりは、悪魔なり何なり、契約をしているということだ」
「それで? あなたは、何が言いたいんですか?」
そういえば、この男。
愛美という少女が妹なら、兄であるこの人も、人間ではないということなのだろうか。
「愛美がした契約の内容はさっきも言った通り、社神が死ぬまでだ。俺の気持ちとしては、愛美は死んでほしくない、兄としてはそう考える。つまりは、社神が死んでしまっては、意味がなくなるということだ」
神さんが死んだ時点で、愛美さんの人生も、戦争自体も終わる。
私は、神さんが死なずに戦争を終える方法を探しているわけなのだが。
「……そうなると、あなたの行動は、矛盾しています。神さんを殺しに来たわけですよね。それとも私を殺しに? どちらにせよ、今の神さんは、襲われたら間違いなく殺されます。だから、私という護衛役がいるわけです」
そもそも、この男の目的がわからない。
ただ話をしにきただけなのだろうか。
「それは、わかっている。さっきのは、ああ言えば、お前は付いてくると思ったからだ。社神の命を狙いに来たとなれば、お前も黙っちゃいまい。普通に話があると言って誘っても、来る確率は低そうだったからな」
どうだろう、と考える。敵とわかっている以上、警戒心は強い。のこのこ付いていくかどうかは、あまり考えられない。
やっぱり、戦闘の意思があるものだと思うだろう。
どっちにしろ、変わらないと思うのだが……。
「ご心配なく。たとえあなたが襲いかかって来ても、神さんは護り通しますから。それで、あなたは本当に私と戦いに来たわけですか?」
「ふ、妹の借りを返しにきたつもりだったが、気が変わった。俺が言いたいことは、出来ることなら、お前と戦闘はしたくもないし、させたくもない、ということだ。だが、愛美がどうしても、社神を殺さないと気が済まないと言えば、俺にはどうすることもできないがな」
満足したかのように、背を向ける。
戦闘の意思はないように思える。それでも私は、気を緩めたりはしない。
「あなたの言動は、さっきから、わけがわかりません。まあ、そちらが攻撃してこない限り、私は攻撃しませんが、妹さんが生きているのでしたら、こんなところにいないで、さっさと看病なり何なりで、帰ってください」
そうだな、そう言って去って行った。
実際、こちらから敵を見分ける方法なんてない。
敵意むき出しで向かってきてくれるのなら、対処はしやすい。
だが、敵も馬鹿ばかりではない、暗殺という手段がある以上、常に油断などしていられないのだ。
そう、今もこうして神さんを一人にしてしまっていることも、危険なわけだ。
「そろそろ、戻りますかね。こうしている間も、神さんは危険なんですから」
呟いて、来た道を戻る。
ビルの屋上にいるから、飛び降りるなんてことはしない。
緊急時の場合は仕方ないと諦めるが、普段は飛び降りたくなんかない。怖いから。
自分がまだ人殺しになっていないことを知れただけでも、収穫はあったのかな。
少しホッとして、ゆきなは歩き出した。
戦いは、まだ始まったばかりである。




