第二話「学校」
社抹殺戦争というものが始まった。
狙われるのは、なぜかこの俺。
どうやら、前世に女性から恨みをさんざん勝ったらしい。
どんな恨みかはわからないが、戦争になるくらいだ。よっぽどの理由がある、と思う。
いつまでも引きずり続け、ついには第四次とまでになってしまった。
こんなくだらない戦争は、たぶん今回で終わると思う。
社喜一の生まれ変わりである、俺社 神がいるのだから。
別に、俺が止められるわけではない、よ?
結果的に、喜一が生まれ変わってくれば、そいつで恨みを晴らせばいいわけだし……
って、これって死亡フラグがたっているのでは……
「おはようございます」
そう挨拶してきたのは、同じクラスの工藤さん。
学校の自分のクラスで自分の席でぼーっとしていたが、その声の主の方を向くことにした。
「おはよう、工藤さ――」
言ってて固まる。
「どうかしましたか? 神さん」
「なんでいんの!?」
いきなりの叫びに、教室に居る生徒たちがこっちを見る。
この驚きには、意味がある。
『第四次、社抹殺戦争』の始まりを教えてくれたのは、今目の前にいる女性だった。
この人との出会いは、先日、土砂降りの雨が降ったせいで、傘を持たず、走って帰っていたせいで、服がびしょ濡れになった。
その時に、たまたま見つけた、見知らぬ小屋で少し雨宿りをしようとした。
その小屋から出てきたのは、巫女服を着た女性だったのだ。
初めこそ、普通に親切に接していてくれていたが、俺の名前が社 神と知ったとたんに、俺の身に迫る危険を説明してくれた。
それが、『第一次、社争奪戦争』から始まり、今に至る、『第四次、社抹殺戦争』の始まりについてだった。
その後、雨が止んだからと、小屋から出た俺に、一人の刺客が現れた。
その時に助けてくれたのが、その小屋に住んでいた巫女さんだった。
この巫女さん。実は俺を護衛するために来てくれたらしい。
戦いこそ決着はつかなかったが、俺を十分といえるくらいに護ってくれたことから、俺は巫女さんを信じることにしたのだ。
ただ、この巫女さん。
戦いとは関係のないところで、小屋の屋根に穴が空いてしまったため、思い切って俺の家の隣に住んでいた『江藤』さんと入れ替わって、住むことにしたらしい。
それに気づいたのが今朝。
そして、今目の前にいるのが。『工藤』さんと入れ替わった、巫女さんだった。
もちろん、そんなことに気付いているのは、俺くらいなものだが。
理由はたぶん、江藤さん家に俺と同じクラスの子供がいなかったからだろう。
「――おはよう。工藤さん」
心を落ち着かせながら言う。
「ごめんなさいね、驚かせちゃって」
小声で、俺に聞こえるようにしゃべる。
「聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
疑問の一つを述べてみることにした。
「入れ替わった人は、どうなるの?」
入れ替わりをするということは、入れ替わる前の今で言う『本当の工藤さん』はどうなったのかが、気になった。
「大丈夫です。保管室で眠ってもらってますから」
「全然大丈夫じゃねえ!?」
再び叫ぶ俺に、みんなからの視線が集中する。
俺は特に気にせずに、小声で話を進める。
「ってことは、工藤さんは、ずっと眠ったままってことなのか?」
「こちらから見ればそうなるでしょう。しかし、彼女は、夢の中で今までの生活をしています」
「夢の中で、て?」
「簡単に言ってしまえば、夢の中で生活をしているってことです。実際に眠っているという感覚はありませんから、夢の中では普通に、食事をし、睡眠をとるでしょう」
本人は、眠っているという自覚はない。
夢の中で、いつものように学校に登校して、みんなと会話して、普段と変わらない生活をしている。
現実ではなく、夢の中で。
「そんなことする意味あるのか?」
「すいません。こちらにも、事情というものがありまして……。勝手ながら、入れ替わらせてもらいました」
事情と言われても……。
だいたい、入れ替わりなどしないで、普通に転校生という形で入って来れないのか?
俺の疑問に気付いたのか、苦笑を浮かべて
「できれば私も、普通に転校生として通いたいです。でも、それができないから、こうしているんです」
まあ、そうなんだろう。
もし、「その手がありましたね」とか言い出してたら、俺はどうしていただろう?
命の恩人でもあり、こうして俺の命を護るために、ここまでしてくれているのに、怒るなんてことが、できるのだろうか。
「戦争を一刻も早く終わらせて、いつも通りの生活に戻しましょう」
力強く言う彼女の瞳は、やる気に満ちていた。
「そう、だな。というか、何をもってして、戦争が終わりになるんだ?」
「今までの終わり方ですと、刺客を全員倒すか、死ぬまで逃げきるかですね」
「ろくな結末を迎えてないな……。全員倒すって、何人だかわからないし」
「ざっと、千人ですかね?」
「さらっと言うな、さらっと! 多過ぎだろそれ」
千人だと? 笑わせるな。そんなの相手にできるはずがないし、逃げきるのも難しいだろう。
というか、戦闘を行うのは、この巫女さんなのだが……。
俺も少しは戦えるように鍛えろと……?
無理だろ、そん所そこらの奴らを相手にするわけではないんだぞ。
今まで普通に生きてきた人間が、ちょっと鍛えたからって、敵うはずがない。
格闘技の世界チャンピオンだって、どうかわからないんだぞ。
早くも絶望が見えていた。
「大丈夫です! どんな敵だろうと、私がなぎ倒しますから」
彼女の言葉は、自信に満ちているように見えた。
内面では怖いだろうに、俺を元気づけようとしてくれているんだと思う。
「と言ってもな、千人なんて、どんだけ敵がいるんだよ」
正直、千という単位の人間なんて、見たことがない。
学校でも、全校生徒合わせて、五百人とかそんなところだろう。
それの倍の人間が、俺一人を狙ってくるって?
考えたくもなかった。
いくら大丈夫と言われても、戦争というくらいだ。向こうの目的は同じなのだから
もし、まとめて来られた場合、護り切るなんてことは、巫女さん一人じゃ無理に等しいと思う。
『戦闘』になるのは一対一とか、数に差がほとんどない時だろう。
それが、数だけの戦いになれば、それは『戦闘』ではなくなってしまう。
「……そうですね。残念ながら、いっぺんに来られても、私じゃ対応しきれませんね。早く終わらせるのなら、その方が早いのですが……」
言いながら、落ち込んでいく巫女さん。
……あれ?
この巫女さんの名前って、まだ聞いてないよな。
学校では「工藤さん」なのだが、それ以外だと、何て呼べば……
「えと、工藤さん」
「はい、なんですか」
「君の名前は、なんて言うの?」
「工藤ゆきなですけど?」
当然のように言う。
まあ、確かに学校では、その名前だけど
本名、というものが知りたいわけで……
「ええと、その名前じゃなくて――」
「遥に、別の呼び名なんてあるの?」
割って入ってきたのは、同じクラスの倉川 遥
「工藤さん」の昔からの親友である。
入れ替わったことに、気づいていないってのは、何とも違和感がある。
親友の目からでも、明らかな違いは分からない
それが、巫女さんの入れ替わりの力なんだろうなぁ。
「――別に、他の呼び名なんてないよ。これから考えるとこ、かな」
チラ、と工藤さんを見る。
特に気にした様子もなく、頭の上に「?」と浮かんでいるようだった。
「ねえねえゆきな、今年はどうする? ゆりかのアレ」
「はい? アレとは、なんですか」
「え? この間話したでしょ。忘れたの?」
入れ替わる前の話だ。内容は俺には分からないが、工藤さんと倉川さんの間で交わされた話なのだろう。
巫女さんが、どの程度まで工藤さんの事情を把握しているのかはわからない。
少なくとも、入れ替わるということは、相手のことを多少は理解していなければならないと、思うのだが……。
「えと、……ああ、アレですね。まだ何とも」
「そうなんだ、実は私も迷ってる。今日の放課後にでも、一緒に探しにいかない?」
「探す……? えとあの、そ、そうだね……特に用事がなければ」
「んじゃ決まり、帰りにちょっと先生に話すことがあるから、ちょっと待っててね」
話が、分かっていないご様子で……。
まあ、俺にはどうすることもできないわけですけど。
「あの、神さんもどうですか」
巫女さんは困り顔で、俺をみる。
その一言に、倉川さんは一瞬驚きを見せたが
「ふーん。いいね、社君に選んでもらえれば、ゆりかも喜ぶと思うし」
俺には、異性を引き付ける、フェロモンというものがあるらしい。
前世の自分。喜一にあったのを、そのまま引き継いだらしい。
そのおかげか、女子に人気は少なからずあるようだ。
あくまで、フェロモンのおかげなのだろうな。
その事実を知ったのは、昨日、巫女さんに聞いた喜一の生まれ変わりである証のひとつらしい。
「……特に、何もなければ」
その言葉を笑顔で受け止め、授業開始のチャイムが鳴ったので、工藤さんと倉川さんは、自分の席に戻っていった。
教室の窓が開いていた。それは換気のためだろう。
標的の相手は、窓寄りの席に座っていた。
ここからなら、狙うことも可能だろう。ただし、失敗すれば、他の人間に当たってしまう。
しかし、躊躇いなどなかった。ただ、目標を見つけることができた喜びで、失敗など恐れている様子は微塵もなかった。
狙いを定める、幸いヤツは、別の事に意識を向けている。
気づかれる前に始末するべきだろう。
そして、構える。獲物の位置を再確認し、そして、放った。黒く尖った何かを。
社神は、普通に授業を受けていた。
それが普通の光景で、授業中に誰かと喋るという行為は、一切することなどなかった。
今まではそうだった、別に喋っているわけではない。
自分の席の真後ろに、工藤さんが座っている。それは変なことではない、普通だ。
俺にしかわからない、別人の工藤さんが、なぜか気になっていた。
バレるわけでもないのに、いつかバレてしまうのではないかと、いらぬ不安を感じていた。
工藤ゆきなは、周囲を警戒していた。
自分の役割は、あくまで社神の護衛。
そのための入れ替わり。敵がいつ来てもいいように、常に戦闘準備は整っていた。
そして気づく、窓から入ってきた黒い何かを。
普通の人間の反射神経なら、間に合わないだろう。
放たれた矢に気付いて、それを眼でとらえてから、危険だと脳で判断してから、避ける体制に入る。
飛んできた何かを、なんだろうと疑問を抱いている間に、手遅れになる。
だからこそ、そんなものを気にする暇があるのなら、行動に移す。それが私のやり方だ。
カッ! と、見事に手裏剣が刺さった。
社神の首に刺さる直前に、なんとか手元の教科書で防ぐことができたのだ。
当然、社も気づく。手裏剣に、というよりは、突然自分の横に出された教科書に。
ゆきなの視線は、すでに窓の外に向いていた。
ここは学校の三階。高い木なら、ここまでは届いているだろう。
少なくとも、真横からではない。真横ならば、社よりも窓側に座っている生徒に当たってしまうからだ。
斜めからでも無理。ということは、ここより少しでも高めの位置からのものだろう。
それを考えると、もう場所はひとつしかなかった。
「すぐに、窓を全部閉めてもらえませんかっ」
勢いよく立ちあがり、ゆきなが叫ぶ。
その行動に、クラスの誰もが驚いた。
無理もないかもしれない。入れ替わる前までは、工藤ゆきなという人物は、図書室でよく本を読んでいる、大人しい人物、という印象なのだから。
言われるまま、窓側の人たちが、窓を閉めようとした瞬間――
「そんな無駄なことは、する必要ないよ」
どこから聞こえたのか、辺りを見回しているとゆきなが
「急いで立ってください! ここでは危険です」
状況は、いまいち把握できないが、言われるまま立ち上がる。
おそらく、敵が来たのだろう。
「ちょっと!? どこにいくのですかっ、工藤さん! 社くん!」
授業をしていた教師が叫ぶが、それを無視して教室から出ていく。
「アタシから、逃げきれると思ってんのかねえ」
教室には、わけがわからないといった表情の、教師と生徒だけが残されていた。
廊下を走りながら、俺は質問する。
「何がどうなってんだ!? 敵が攻めてきたのか」
「そうです。手裏剣があなたに向けて飛んできたということは、戦争の関係者です」
後ろを気にしながら、どこかに逃げ道はないものかと探るゆきな。
「右にずれてください!」
特に考えずに、言われた通りにずれる。
すぐ横を、何かが通り過ぎたのが確認できた。
「昨日の巫女が、まだ社の近くに居やがったとは、面倒くせえ!」
舌打ちをする。だが、予想していなかったわけではない。
なんとなくそんな気がしていたのだ。護衛役ってのは、本当だったみたいだな。
前方を走る二人を見る。
巫女の方は、こちらに意識を向けながら様子をうかがっている。
逆に社の方は、こちらの姿を確認などせずに、走ることだけに集中しているようだった。
「やはり、昨日のくの一でしたか……」
「昨日のって、あいつがまた来てるのかっ。傷を負っていたから、もう少し時間置くと思っていたのに」
「治癒能力があるのでしょう。私もそれで、多少の治療をしましたから」
昨日戦ったとき、巫女さんは背中に、くの一は足に傷を負った。
お互い、大量に出血するほどの傷を負ったにも関わらず、再び戦闘を仕掛けてきやがった。
「大丈夫、なのか?」
「問題ありません。昨日は仕留め損ないましたが、今回こそ打ち取ってみせます」
「そうじゃなくて、怪我の方」
「……だ、大丈夫です。多少の痛みはありますが、傷は塞がっていますので」
できれば戦闘は避けたい。
だが、そんなことはできない。社神を護衛するのが、仕事なのだから。
「階段を上がります」
「え、下に降りた方が、外に出られるだろ」
「いえ、そうしたいのは山々なのですが、今は授業中、体育をやっている生徒であふれています」
合同体育をしているのだろう。
それじゃ、無理か。
気がつけば、屋上にいた。
誰もいなくて、下から聞こえてくる、体育をしている生徒の声以外は、静かなところだった。
「もう、追いかけっこはおしまいなのかい?」
くの一が一歩踏み出す。
「周りに誰もいない方が、あなたもやりやすいでしょう?」
「まあ、そうだな。いない方が、お互いのためだしな」
お互いが距離を取り合う。
俺は邪魔にならないよう、遠く離れた位置から見ている。
やっぱり、複雑な気分だ。俺の命を狙ってきた敵を、自分ではなく、巫女さんに護ってもらう。形としては、女の子に護ってもらっているようなものだ。
だからといって、自分が向かっていったところで、邪魔になるし、そもそも、瞬殺されるのがオチだろう。
「あんたを先に始末しないと、どうも社を始末させてもらえないみたいだね」
「当然です。それが私の使命ですから」
「護る意味なんてあるのかねえ? あんな男に」
「神さんは、関係ないでしょう。ただのあなた方の八つ当たりの標的にされただけです」
その言葉に、眉をわずかに動かすくの一。
「八つ当たり、ね。確かに何も知らないあんたから見れば、そうかもしれない」
「自覚はあるようですね」
「うるせえよ。こっちだって、ホントは喜一のヤローに恨みを晴らしてえんだ。そいつの生まれ変わりだろうが、恨みを晴らすにはちょうどいい」
「それって、八つ当たり以外のなんですか」
喜一本人に仕返しができないから、その生まれ変わりである俺で恨みを晴らそうだなんて……。
こっちとしては、納得できるわけがない。
命を狙われている身としては、もっとマシな理由があってほしいのだが……。
「喜一がしたことは、ただで済まされねえことなんだよ! なのに女が居なくなったから死ぬだあ!? 最後までふざけやがって! だからアタシは、何十年も何百年も待った。同じ家系の奴らを殺しても晴れやしねえ恨みを、生まれ変わりである社神でなら、晴れるかもしれねぇからな」
それは、俺に向かっての言葉だった。
喜一が何をしたかなんて知らない。これほどまでに恨みを買うことをしたこととは、なんだろう?
俺には想像がつかない。
「どんな理由があろうと、あなたは人間でなくなったわけですね。その超人的な身体能力の説明がつきました」
「ふん、木から教室の中に飛び移っただけで、超人的と言ってるようじゃ、この先もっと凄いのが来た時、どんな反応をするのかねえ?」
十分凄いよ。しかも、ただ飛び移っただけではなく、あの巫女さんですら気づけない速さで教室に侵入してきたのだから。
「あくまで、身体能力は、です。あとは普通の人間と変わりないでしょう」
「ほう、それはどういう意味だい?」
「動きが早いだけで、後は普通の人間より戦闘力がある、ということでしょうか。簡単に傷を負いますし、痛みも感じるから、昨日みたいに足を軽く斬られただけで動けなくなる」
言いながら、構えをとる二人。
昨日とは違って、日本刀がないから、武器というのは……
「なんだ? それは」
「見てわからないのですか? チョークですよ。あとは、カッターですね」
おそらく教室から持ってきたのだろう。チョークを数本持っていた。
「そんなもので、戦うと? ふざけやがって! 即効で終わりにしてやる」
巫女さん目掛けて走り出す。その手に握られているのは
「そっちも、木の枝とは、ずいぶんふざけていると思いますよ」
お互いが、そんなもので戦うのかと思うものを握りながら、敵に向かっていく。
間抜けな戦いに見えるかもしれない
「知ってます? チョークって、甘くて美味しいらしいですよ」
「んな下らねえ嘘かまして、どうしようってんだよ!」
巫女さんがチョークを投げ飛ばす。
「喝!!」
瞬間、チョークが破裂した。粉が周囲に飛び散った。
「目くらましか!?」
続けて、カッターの刃を投げ飛ばす。
それを木の枝で叩き落として、反撃の態勢に入る敵に対して、巫女さんは立ち止まり、札を構える。
そっと目を閉じ、何かを唱え始める。
「いつまでも、あなたと遊んでいる暇はありません」
目を開き、視線の先に敵を捕らえる。
「最後の最後まで必殺技を隠している意味はありませんし、何よりも、必殺ですから。当たればいいわけです」
札を持つ手を横に、片足を前にずらし、狙いを定める。
「必殺技を当てたいんなら、黙ってりゃいいだろうよ! これから必殺技を出すつって、避けられる確率高くしてどうするんだっての」
軽く笑いながら、だが決して余裕の表情は見せない。警戒しているということなのだろう。
「ご忠告感謝します。でも、私の必殺技は、宣言したところで避けられるということはありません」
「結構な自信だな、おい! アタシのスピードを見ても、確実に命中させられると?」
更に動きが素早くなっていく。
人間には絶対に不可能な早さだ。忍者のような動きに、この早さ、本当に確実に命中させられることは、できるのだろうか。
「ええ、ですからわざわざ言っているのですよ。あなたごとき、これで十分です」
言って放たれた札から、竜巻のような風が巻き起こる。
フィールド全体を囲むほどの範囲だ。
確かに避けれるとかの問題ではない。
「厄介な風だが、んなのじゃアタシを仕留めることなんか――」
身体が宙に浮く。足を地に着けていられる状態ではなくなったのだ。
穴場と呼べる場所は、台風の目のように、竜巻の中心に居る巫女さんと、遠く離れた位置にいる、俺のところぐらいだろう。
「そろそろ、遺言でも残しておいた方がいいんじゃないですか? 最後の機会ですよ」
風は段々と大きくなっていく。
しかし、攻撃はそれだけではなかった。
もう一枚の札を取り出し、放り投げる。
すぐに竜巻の中に飲み込まれ、どこにいったのかわからなくなった。
「もう、喋れないみたいですね。飛ばされないように、ずっとこの風の中に閉じ込めていますし、声が聞こえないだけかもしれないですしね……。それでは、さようなら」
その言葉と共に、どこからか、強烈な光が放たれた――




