第一章 『ここは』
「はぁ…はぁ…もう大丈夫かしら?」
「分からない。はぁ…とりあえずこっちだ。」
街の角を曲がる四人組。空は黒く、空気もどんよりと重く湿気ていた。急ぐ足音は遠のいて行く。なぜあの子達は急いでいたのだろうか?
「おはよう!星夜!今日って、数学なかったよね?」
青く澄み切った空の下、紺色の制服に身を固めた子供達が学校へ入って行く。そのうちの一人、百鬼 沙夜香。要するに私。
「さやか。なかったと思うけどな。にしても今日暑いなぁ。」
そして、こいつは私の幼馴染の 八木山 星夜。めちゃくちゃ頭がいい。羨ましい。にしても本当暑い。今日はもう10月の中旬だ。
「そういえば、さやか。今日うちの母さん仕事だから、お前ん家で飯頼むな。」
こいつのお母さんは凄い仕事をしているらしい。そしてよく夜までかかってしまうためご飯をうちに食べに来る。
「分かった。何がいいの?」
「グラタン食べたい。さやかの。」
「こんな暑い時にそりゃどうも。手伝ってよ?」
「えー。はーい。」
今日はグラタンらしい。全く、面倒なのを頼んでくれたものだ。まぁ、手伝うと言ってくれたからよしとするか。
「はぁーあ。本当7時間って辛い。」
「そんなこと言うなよ。寝てるやつが。」
そう苦笑しながら答えたのは私の親友。四羽 来海。しーちゃんって呼ばれている。すっごく可愛い。認めたくはないけれど、認めざるを得ない。
「えー、寝てないもん。ちょっと長めの瞬きしてるだけだもん。」
そう長めの瞬きだ。そうだ。
「どこが。俺に起こされてる時点で寝てるんだよ。」
そう言うこいつは、十茅 鈴生だ。私の隣の席で、私に負けず劣らず寝ている。
「そう言うなよー。悲しいよ。なんでみんなして私に冷たいんだよ〜」
「別に冷たくしてるわけではなくただ事実を述べているだけで。」
そう言い放つしーちゃん。皆冷たい。これはこのままだと私が死ぬっ!
「そ、そうだ。今日ニュースで見たんだけど、来週space worldの新作映画公開だって!見に行こうよ!しーちゃんも好きだし、せいやもだったよね?」
この映画は世界的に有名で、私はこの物語を本で読んだ時に虜になった。だって魔法が使えて、空が飛べるんだよ!?高校生にもなって何をって思ってるかもしれないけど憧れるじゃんか。
「本当好きだなその映画。さやかって本当そういうファンタジー系に対する憧れが強いよな。」
「いいじゃん!私の小さい頃からの憧れだよ!諦めろとか呆れたとかよく言われてたけど、好きなものは好きなんだもん。」
私は星夜の皮肉にきれいごとだけで返した。たまにそう言う類の本を読んでると、体の中で血が騒ぐような感覚があるのだ。
「まぁ、そういうのもいいんじゃない?人それぞれだし。私も人のこと言えないし。」
「そうだそうだ、しーちゃんだってオタクじゃん!」
「五月蝿い。大声で言うもんじゃない!」
「お前ら…どっちも五月蝿い。」
私としーちゃんとの会話にツッコミを入れた十茅は、ホームルームの準備をしていた。
「ありゃ、もうホームルーム?」
「そうだよ。百鬼。席戻れ。」
「はーい」
あーあ今日も7時間だと。本当めんどくさいや。こういう時こそ魔法が使えたらいいのに。よくある姿を消すとかさ。だって私小学校の時本当に魔法学校から手紙がくるもんだと信じてたし、今も手からなんか出たりしないかなって信じてるんだけど。やっぱ出ないよねぇー。