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3.父からの呼び出し

 カイルが退出するのをベッドから見送り、ため息をつく。父からの呼び出しは、いくつになっても慣れぬものだ。


 フロイド·ベイリー公爵。この国の宰相である私の父は、銀色の短髪を全て後ろになであげらせ、つり目がちのアイスブルーの瞳は、常に目に映るもの全てを射ぬくような鋭い眼差しをしている。

 

 フロイドはその見た目通り非常に厳しく、それがたとえ幼子であったとしても容赦はしない。完璧でなければ簡単に人を切り捨てるような冷徹さも持ち合わせているのだ。


 当然、この頃の私はフロイドに褒められることはおろか、存在すらないものにされているような扱いであった。最も、王妃教育をやらされていたなどという心持ちで臨んでいた私を見抜いてのことだったのだろうが···実の娘である私にすらこうなのだ。皆から恐れられるのも無理はない。


 しかし一方で、国政は非常に安定しており、この国の治安は数多ある国の中でも断トツに良い。他国との友好関係に大きな問題もなく、国民からの信頼も厚い。そんな国を築き上げているのは国王と、その国王を支え、志を共にするフロイドなのである。フロイドは、他人への厳しさ以上に自分に厳しい人間のようだ。そう言った点から、ある種フロイドを崇高している者たちもいるのだとか。


 今でこそこのようにフロイドのことを分析することができているが、当時の私には恐怖の存在でしかなく。そして幼い頃に感じた恐怖はそう簡単に拭えるものではない。


 ノックの音が聞こえると同時に、より一層胸が騒ぐのを感じた。



 * * * * *



「失礼します、お父様」


 一礼してフロイドのいる執務室へと入る。


 フロイドは一瞬こちらに視線を寄越すも、すぐに机上の書類へと目を向けてしまった。自分の不注意ながら、仮にも湖に落ちて死んでいたかもしれない娘を即刻呼び出すだけに、優しい言葉がかけられるなどという甘い期待は消し去った。


 しばらく沈黙が流れた後、書類に目を向けたままのフロイドがようやく口を開く。


「自分の立場を弁えろ」


 何の感情も乗せられていないかのような声色でそう言い放たれる。わかってはいたが、それに少し胸が痛んだ。あのとき湖に落ちたのは、何かに夢中になるあまりついうっかり、などというものではなかったからだ。


 唐突に後ろからかけられた衝撃に、体がついていかなかった。

 

 同じ時間同じ場所に他の令嬢も何人かおり、大方私のことを気に入らない誰かが突き落としたのだろう。確かに王が信頼している宰相の娘─という理由だけで王子との将来を約束されたのだ。妬み嫉みがあるのは当然だろう。


 かと言って私がこれを理由に訴えようものならその程度のことでとあしらわれるか、王子の名を出すことへの軽薄さに激昂されるかのどちらかであろうことは想像に容易く、このことを公言することはなかったのだ。


「申し訳ありませんでした」


 そう言って頭を下げる私に短くため息をつき、ようやくフロイドは私の方へと顔を向けこう告げた。


「国王がお呼びだ。明日王宮へ伺うように」


 用件は終わりだ、とでも言うかのように、再び目線は書類へと向けられる。


 しかし当の私はというと、告げられた言葉の意味を頭の中で処理しきれず、頭を下げたままの格好でその場に立ち尽くしていた。

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