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2.固める決意

 ベイリー公爵家の長女として生まれ、幼い頃から国の第一王子であるレオナルド·ラードナーの王妃となるべく育てられてきた、私ことハンナ·ベイリーは、王妃になることが叶わず十六歳で命を絶った。



 はずだったのに。



 鏡に映った自分の姿を凝視する。


 ウェーブがかった銀色の髪を腰まで伸ばし、アイスブルーの瞳はパッチリとした大きな目に似つかわず、氷のような冷たさを放っている。


 惑うことなくこれは私だ。

 幼い頃の私の姿そのものなのだから。


 そしていましがた「湖に落ちて」とカイルが言っていたことから、これは六歳の頃の体なのかもしれない。


 ただ、カイルが生きているということを考えると、単に私の体だけが変化したわけではなさそうだ。


 にわかには信じがたいが──十年前に時間が巻き戻ったのではないだろうか。



「ハンナ、医者を連れてきたよ」



 巡る思考に拘束されていた意識は、カイルの声により解放された。


 その後医者による診察を受けたときにチラリとカルテを覗き見し、確かに私は六歳のハンナ·ベイリーであることがわかった。



 * * * * *



「体も異常ないみたいで安心したよ。好奇心旺盛なのは良いけど、夢中になると周りが見えなくなる癖は本当にやめてほしいな」


 カイルの言葉に小さく頭を下げる。


 まだうまく話すことができない私のことを気遣って、声は出さないようにね、と先にカイルから言われてしまった。


 そんな優しいカイルは、私より五つ歳上の十一歳で、肩まで伸ばした金色の髪を一つに結び、優しげなゴールドブラウンの瞳をしている。


 なぜこうにも二人の容姿は対照的なのか。


 それは、カイルが母親似で私が父親似だからだろう。

 優しく温かい性格であったらしい母と、厳しく冷たい性格である父とでは、目元の雰囲気に影響してくるのも無理はない。


 しかし、今のカイルの言葉通り、この頃の私はまだ王妃教育だけに邁進していたわけではなかったのだ。


 年相応にいろいろなものに興味を持ったし、感情表現も豊かだった。

 夢中になると没頭してしまうのは、成長しても変わらなかったけれど。


 そんな私が周囲から氷の女王などと呼ばれるようになってしまったきっかけをつくったのは、王子との出会いだった。


 王妃教育自体はそれこそ物心つく頃から始まっていたのだが、王子の顔を見たことはなかったし、会う機会もなく、詳細な話すら何も耳にしたことはなかった。


 だから教育を受けつつも、言われるがままにやらされていたという部分が実は大きい。


 しかし、一目王子を見た瞬間願ってしまったのだ。


 ──この人の隣に立ちたい──


 と。


 無論、そう願った結果がこうなのだから、何も言うまい。


 ただ幸い、湖に落ちた頃はまだ王子と出会っていなかったはずだ。


 もしも本当に時が巻き戻っていたとして、再び同じ末路を辿ることになる強制力がかけられているのなら、もう一度確実な死を選ぼう。


 けれどもし、そうでないのなら──


 今度は違う人生を歩みたい。

 誰に縛られることなく自由に生きる道を。

 そしてもう二度と王子に······いや、誰にも恋をすることがないように。


 そう決意を固めたとき、カイルから発せられた一言に背筋が凍りついた。



「そういえば、父上がハンナに話があるそうだよ」



 あとで侍従が呼びにくるからと。

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