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22.虹色の輝き

 教師の突拍子もない申し出に逆に冷静さを取り戻した私は、以前にも見た光景がなんであるかを思い出す。

 この光の既視感──恐らくはルーカスの魔力に反応したものだろう。

 ドレスに忍ばせていた鏡がこんなところで徒となるとは。


『申し訳ありません、姫』


 私が念じるよりも早く声をかけてきたということは、私が気付くよりも早くルーカスは察していたのだろう。


『姫と契約を交わしていることによって私の魔力が探知されてしまったようです。もう少し私が早く気が付いていれば···。ですので──』



 ルーカスとの念話によると、ルーカスが魔力を制御すれば私の魔力の有無を調べることができるようだ。

 もう一度鑑定を行ってもらうことに罪悪感を抱きながらも、間違った情報を与えたままであることも不敬であると考え、念話を手短に済ませた私はこう進言した。


「申し訳ございません。鑑定自体を疑っているわけではないということをまずはご承知おき下さい。ですが私はこのような光を放つにふさわしいほどの魔力が本当にあるのか、自身の力を信じることができないのです。もしも機会を与えて下さるのでしたら、私の力がどのようなものなのかもう一度鑑定していただいてもよろしいでしょうか。精霊様が王妃様へ私と会うようにとお告げになられたことも関係しているのかもしれませんし、私は知りたいのです」


「承知いたしました。もちろんでございます。精霊様のお導きをお受けになられたのですから、こちらこそ是非私共もそのお力をしかと拝見させていただきたい」


 そう、却って結果次第ではどう弁明すればよいか考え倦ねることになる返答をもらってしまったが、私は意を決してもう一度ビー玉を手にした。


 すると、今度は先程の眩い光ではないものの、ビー玉は光を放って反応を示したのである。



 私にも魔力が──



 そう思ったのと同時に、教師はなぜか先程より更に興奮した様子で捲し立てる。


「これはっ···!魔力鑑定では光の強弱によって魔力の有無や高低を判定するのですが、色付く輝きは初めて目にいたしましたっ!あなたの魔力がどのようなものであるかは力不足の私にはご説明が叶わず誠に遺憾ではありますが、やはりあなたには我が学園で勉強を、いや、その魔力を研究させていただきたい!さすがは精霊様に導かれたお方!!このような力を目にすることができるなど幸甚の至···!!」


 教師の力説に圧倒されながらも改めてビー玉を見やると、それは虹色に輝いていて、吸い込まれるように美しい光であった。


「すごいな···。ハンナには魔法の才があるのかもしれないね」


「そう···なのでしょうか···?」


 この輝きがどのような意味を持つのかはわからないが、自身に魔力があるということがわかっただけでも大きな収穫だ。

 この力がもしかすると巻き戻りのこと、フィオナの病気のこと、ディーナの魔力を探る手がかりになるかもしれないことなど何かの役に立つかもしれない。

 アーノルドも、他国へ魔法を広めることを容認しているようであるし、我が国の現王から許しを得れば、この先レオナルドの力になることも叶うのではないだろうか──とも考えた自分に少し驚きも感じている。


「今回ルフラン王国へは国王様並びに王妃様への謁見、延ては外交のために訪れているということもあり、すぐにお返事することは叶いませんが、もしもこちらで学ばせていただく機会がございましたらぜひよろしくお願いいたします」


「ええぜひ!レオナルド様もハンナ様も、我々はいつでもあなた方をお待ちしております」


 私の代わりに答えてくれたレオナルドと教師はそう言葉を交わし、私たちは学園を後にしたのだった。



 * * * * *



 一通り各所を回り終え、王宮へ戻ってきた私にレオナルドは気遣わしげに声をかけてくれた。


「ハンナ、連日いろいろと連れ回してしまってすまない。疲れたであろう」


「いいえ、こちらこそ同行させていただきありがとうございました。自分に魔力があるということもわかりましたし、その···楽しかったです」


 この言い方はさすがに不敬かとも思ったが、きっと上辺だけの言葉ではレオナルドにもっと気を遣わせてしまうだろう。

 

 それに本当に楽しかったのだ。巻き戻る前には見えなかった景色が見える。それは物理的なものではなく、ただレオナルドの隣に立ちたいとだけ思っていた過去の自分には決して見ることができなかったものだ。知りたいと思って、見たいと思って得たものはこんなにも素晴らしいのだということを実感している。そう思うと、自然に笑みがこみ上げてくるのだ。


「···ハンナもそのように笑うのだな」


 そう言って、レオナルドは私の髪に優しく触れるとつられるように笑った。


 そういえば、この間ニールにも似たようなことを言われた気がするが、私は今までそんなにも無愛想だっただろうか。淑女の微笑みは王妃教育を施す教師お墨付きのはずなのだが。

 

 私がそんなことを考えていると、レオナルドはもう一度くすっと笑って言った。


「明日はトリケスタ王国へと戻る日だ。今日はゆっくり休むといい。おやすみ、ハンナ」


 優しく微笑む瞳を見ていると、徐ろにレオナルドの顔が近づき、額にそっとキスを落とした。


 ──ドクンッ──


 瞬間、大きく心臓が波打つのを感じ、弾みでふらついた足元は身体を支え切れずバランスを崩した。


「──っハンナ!」


 咄嗟にレオナルドが身体を支えてくれたおかげで倒れずに済んだものの、尚も心臓が早鐘を打つ。


「申し訳ありません!すぐに···っ!」


「いいんだ。それよりも大丈夫か?···少し落ち着いてから、部屋まで送ろう」



 そうして部屋に送ってもらってからも尚鳴り続けた心臓は、ベッドに横になっているうちにようやく少しずつ治まってきた。


 これは、一体──?


 しかし、連日各地を巡っていた疲れも伴いそれ以上考える余力もなく、心臓が静まるのを感じながら私はそのまま眠りへと落ちていった。

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