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21.思わぬ提案

 それから数日間はルフラン王国に滞在し、レオナルドと共に各所を巡る日々が続いた。


 隣国ではあるが、やはり魔法を使えるという点が大きいのだろうか、建造物に自国であるトリケスタ王国との違いを感じる。材料と物質さえ揃えることができれば、自分の思い描いた建物を創造することができるらしい。独創的なものが並ぶために統一性はないものの、個性があって面白いと私は思う。


 また、トリケスタ王国では水や電気、火などのライフラインは金銭を支払わなければ供給されないが、ルフラン王国では皆自分の魔力でそれらを駆使することができる。その分他のところにお金をかけることができるためか、庶民の生活水準も高いという印象を受けた。


「魔法とは本当にすごいものなのだな。私には魔力というものを見ることさえ叶わないが、この国の民は生まれながらに持ち合わせているというのだから驚いた。それにどこを訪れても人々には活気が溢れているし、皆が助け合って生活していることがよくわかる」


 そうレオナルドが言うのも無理はない。トリケスタ王国でも貧困する国民はいないとはいえ、貧富の差はルフラン王国よりも大きい。そのため貴族と庶民との溝はどうしても埋めがたいものがあり、これはトリケスタ王国の長年の課題といえる。


「お褒めに預り光栄にございます。恐れながらレオナルド殿下、我が国の学園には授業の一環として魔法を学ぶ時間も用意されておりますので、そこで初めて魔法に触れる子供も少なくはありません。それに、魔法を取り入れようと他国から留学に来られる方もいらっしゃるのですよ」


「······!この国の方ではなくても魔法を使うことができるのですか?」


 案内をしてくれているアーノルドの執事が思わぬ発言をしたため、私はつい質問を投げ掛けてしまった。


「ええ。魔力さえあればどなたでも使えるようになりますよ。下級魔法に限りではありますが、アーノルド陛下も他国の繁栄のためであらばと魔法を広めることを容認しておりますし。ご興味がおありでいらっしゃいますか?」


「いえ、その······」


「もしよろしければまだお時間はございますし、少し学園を見て行かれてはいかがでしょう?」


 時を戻してからというもの、魔法という存在に触れることになり、大切なカイルはそれによって一命を取りとめた。ディーナによって身をもって体験もしたし、もしかするとフィオナを病から救えるかもしれない驚異のもの。

 正直言うと非常に見てみたいところではあるが、私の勝手な希望都合で外交のために訪れているレオナルドに迷惑をかけるわけにはいかない。

 他国の者でも魔法を使うことができると知れただけでも充分な収穫だ。この件は一旦トリケスタ王国に戻ってから自分で調べることにしよう。


「私も興味があります。是非案内をお願いしたいです」


 しかし断りの言葉を述べようと私が声を発するより前に、レオナルドのその一声で学園に見学へ行くことが決まったのだった。





 学園は、一見するとトリケスタ王国にある学園の造りとそう変わらないような印象を受けたが、実は内部には全ての建物に防御魔法というものが張られているらしい。入園したての生徒はまだ魔力のコントロールが難しいため、万が一のことがあったときの対策なのだという。

 そして、案内された教室で行われている授業を見学させてもらうことになった。


「こちらでは今、魔力鑑定を行っているようですね。この魔力鑑定では魔力を持っていることを大前提とし、どのような魔力に特化しているのかを調べる授業をしているのです」


 アーノルドの執事による説明を聞きながら、教壇に置かれている水晶玉のようなものに目を移す。

 生徒が一人ずつそれに手をかざしていくと、赤や青、黄色、白というように、その生徒によって色が変化していく。


「赤は火、青は水、黄色は電気、白は氷というように、色によってどの属性に当てはまるのかがわかるようです」


「すごい······」


 水晶玉にまるで仕掛けでもあるかのように次々と変わる様子が実に美しく、思わず見いってしまう。


「教師の許可も得ておりますし、せっかくですのでお二人が魔力をお持ちであるかどうか、このあと鑑定を行ってみてはいかがでしょうか」


「はい、是非」


 そうして気をとられている内に、再び突拍子もないことを言ってのける執事の問いかけに、私が答えるよりも、寧ろ考えるよりも早くレオナルドが二つ返事をしていた。





 授業が終わり、さっそく教師の指導のもと魔力鑑定が行われた。

 今度は先程の水晶玉サイズのものではなく、用意されたのは小さなビー玉のようなものだった。もしも魔力があれば、手にするとそれが光るらしい。


 先に鑑定するのはレオナルドだ。手に取ると、すぐにビー玉は淡い光を放ち出した。


「······これは、私に魔力があるということでしょうか?」


「ええ、おめでとうございます。実を言うと他国の方は魔法を学びにこられてもここで挫折されることが多いので······。非常に素晴らしいことです」


 やはりルフラン王国の生まれではない者は、魔力を持っていること自体珍しいようだ。

 

 なぜ国民に下級魔法しか使うことを許可していないアーノルドが他国へも魔法を広めることを容認しているのかが不思議であったが、それはレオナルドのように魔力を持っている者が極少数のためなのかもしれない。いくら一人が魔法を学んで国に持ち帰ろうと、その国に魔力を持っている人間が他にいなければあまり意味のあることとも言えないからだ。

 一歩間違えれば他国に魔法を広めるなど脅威を自らばら撒くような行為であろうが、そのように強気に出ているところを見るに、それほどまでに他国の魔力持ちが少ない且魔力があったとしても国を脅かすほどの強大な魔法は使えないのだろう。


「光栄です。正直なところ、実感はまだ湧きませんが······。では、ハンナも」


 そうして教師の言葉に困惑したような表情を浮かべたレオナルドは、私へとビー玉を手渡した。


 刹那、眩い光に思わず目を瞑る。


「······なんと!すごいぞ!!こんな強い光は見たことがない!!」


 興奮したかのような教師の声に、恐る恐る目を開く。すると、私の手のひらのビー玉は眩い光に包まれていた。


「これは······」


 レオナルドも驚いているようで、その光をじっと眺めている。

 

 しかし、私はこの光に何故か既視感のようなものを覚えていた。

 こんなようなこと、前にもどこかで──


 そう思い出そうとしていたとき、興奮冷めやらぬ教師から、アーノルドの執事の上をいくとんでもない提案が飛んできたのだった。


「是非我が学園で魔法を勉強していただきたい!」

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