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閑話 守るもののために

ハンナ達の国の名称について触れていませんでしたが、トリケスタ王国といいます。

 俺の名前はニール·クルーガー。トリケスタ王国の第一王子であるレオナルドとは幼馴染みで、同い年の十一歳だ。

 父親はトリケスタ王国の騎士団を取りまとめる団長であり、来年には俺も第一騎士団への入団が決まっている。無論、コネなどではない。正々堂々実力を持ってここまでのしあがってきた。

 それに父親とは言っても血の繋がりはない。生まれてすぐ本当の親に捨てられた俺は、運よく今の父親に拾われたらしい。


 ちなみにコネがないのは本当だが、主に鍛えてくれたのはこの父親だったりする。

 似ていない親子、トリケスタ王国には見られない茶色い髪に黒い瞳、捨てられていたという事実。奇異の目で見られたり心ない言葉を浴びせられたりするのは日常茶飯事だった。

 父親は、そんな俺に騎士道のなんたるかを教え、本当の強さを叩き込んでくれた。だから俺は卑屈にもならず真っ当に生きることができたし、そこに導いてくれた父親に報いたいという一心で剣を極めてきたのだ。


 というわけで、晴れて身も心も健全に第一騎士団への入団が決まった俺は、勉強と称してルフラン王国へ同行するようレオナルドに言い渡された。


 最もそれは、俺を連れ立つ名目(・・)に過ぎないのだが。

 本当の目的は、外側からではなく内側から見ること。所謂諜報活動ってやつだ。


 どうして騎士団に入団するような奴がそんなことをするのかと思われるかもしれないが、そもそも元々はこっちが専門だ。


 物心ついたときから俺だけが使える唯一のアレ(・・)を使って。



 俺が捨てられていたのは、トリケスタ王国とルフラン王国のちょうど国境辺りに位置する場所だったらしい。

 それに俺の髪や瞳の色は、トリケスタ王国の人間には見られない色味だが、ルフラン王国の人間には多くこそはないが稀に見られる特徴であるとか。

 そしてトリケスタ王国には絶対に存在しないはずのアレ(・・)を、なぜか俺は扱うことができる。


 そう、俺は恐らくルフラン王国の人間から生まれたのだ。アレ(・・)とはつまり魔法のことで、ルフラン王国にしか存在しないものなのである。


 俺はこの力を使って、トリケスタ王国を揺るがそうと謀る者、王族の命を狙う者なんかを内側から探って制してきた。それに今回のように、他国の情勢を知るためにその国へと潜入することも少なくはなかった。


 最も俺が魔法を使えることも、魔法を使って諜報活動をしていることも、知っているのは父親と陛下、レオナルドだけだ。元々は陛下からの命で動いていることなのだが、俺にとっても本望だ。少しでも父親の力に、レオナルドの助けになればいいと思っているのだから。


 今でこそ強くなったからなのか地位を確立したからなのか、俺に対して誰も何も言うことはなくなった。しかし先も説明した通り、幼い頃は周りから散々な扱いを受けてきたのだ。

 そんな中、レオナルドだけはいつも対等でいてくれた。見た目を忌むでもなく、魔力があることを恐れるでもなく、ただ普通の友人として接してくれたのだ。俺が曲がらなかったのは、レオナルドのおかげでもある。


 そのレオナルドが興味を持った女の子──ハンナ·ベイリー。どうやらルフラン王国へ行くことになったそもそものきっかけは彼女にあったらしい。

 隣国の王妃に彼女が指名された理由がわからないということが引っ掛かったこともあり、俺はハンナ·ベイリーに焦点を当てて今回の任務を遂行することにした。


 初めてハンナ·ベイリーと接触したのはルフラン王国へ向かう一ヶ月前。

 印象としては、六歳とは思えない程の落ち着きようと顔のよさ。あと人並みに照れるしそれがまたかわいい······なんて言ったらレオナルドに怒られそうだけど、そんな感じだった。

 それと同時に何か妙な気配もしたような気がするが、その日は何も見つけることができなかった。


 次に接触したのはルフラン王国へ渡る馬車の中だ。彼女を守るようにとレオナルドに指示されてのことだった。

 やはり彼女からは妙な気配がする。その正体を探るべく、ひとまず害のない人間だと思わせるために会話を交え、彼女が無防備になる瞬間を待った。

 そうして眠りについたところを確認し、魔力探知を行う。


 (何かが光っている······鏡?)


 魔法に反応してキラキラと反射する光の先を眺め、その形を捉えた刹那──バチッと何かに弾かれて、見えかかっていたそれは消えてしまった。

 その後は何度やっても先程の光も鏡のようなものも見ることが叶わず、結局妙なものの正体は突き止められなかった。

 

 手がかりが得られないまま謁見の日を迎えた俺は、謁見の間の扉の外で騎士としての警備をしつつ、魔法を使って中の状況を透視していた。


 しかしそれが迂闊だった。これまで魔法を使えることが誰にも気付かれることがなかったために、油断していたのかもしれない。透視の目に視線など合うはずがないのに、突然黒い靄に浮かぶ瞳に睨みつけられたのだ。


 (しまった!)


 そう思ったときには遅かった。しばらくすると、時を止める魔法が何者かによって発動され、ハンナ·ベイリーと王妃はその場に生まれた黒い空間に包まれてしまったのだ。


 咄嗟に防御魔法をかけたことが功を奏して時が止まっても意識を保ったまま一連の出来事を目にすることができたが──


 (これ以上の干渉は危険だ。)


 ひとまず透視を辞め、騎士の仕事に専念する。


 そうだ、ここは魔法が存在する国。誰かに魔力の逆探知をされてもおかしくなどない。大方俺の存在に気付いた者でもいたのだろう。

 しかしそれなら俺だけを始末すれば済む話ではないだろうか。時を止め、万が一それが無意味な場合に備えて黒い空間まで生み出したのはなぜなのか。

 

 そこで思い浮かぶのは、隠されたハンナ·ベイリーと王妃の存在だ。彼女らにとって、国王にもレオナルドにも知られてはならないことがあったとでもいうのか。


 話した限り、ハンナ·ベイリーは年齢の割に大人びているというだけで、とても良い子であった。レオナルドに対しても、恋心は抱いてこそいないが慕いはしているのだろう。


 だからこそ、疑いを強くする。

 彼女は一体何者なのか。もしもトリケスタ王国を脅かす存在、延いてはレオナルドを害する存在であるならば、容赦はしない。

 俺はハンナ·ベイリーに対する監視の目を一層強めることを心に誓ったのだった。

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