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その幽霊、訳ありです。   作者: コーキ
20/42

其の十九

 次の日、私は体調が良くないことを理由に会社を早退した。 もちろん本当に具合が悪い訳ではなく、向かった先は図書館だ。


 パソコンの閲覧許可証を貰い、過去の新聞記事のデータベースにアクセスする。 検索ワードは菅原優斗。 さすがに名前では検索に引っ掛からず、思い付く限りの言葉をパソコンに打ち込んだ。


 使用制限時間ギリギリで、一つの地方記事を見つけた。




  市内の路上で男子高校生が刺され意識不明の重体。 警察は通り魔の犯行とみて捜査を……




 あった。 意識不明となってるけど、6年前の記事だし多分これで間違いない。 詳しい場所までは載っていなかったが、見たことのある地名。 確か小夜子の実家が、この地名だった覚えがある。 私はその記事をプリントアウトして図書館を後にし、小夜子にLINEを送る。 するとすぐに小夜子から電話が掛かってきた。


 ー やっほー、何々? 幽霊君の犯人探しでもやってるの? ー


 (鋭い )


 かなえちゃんといい小夜子といい、 同じ女として頭が下がる。


「ちょっと気になってね。 これって小夜子ん家の近くじゃない? 」


  ー うん、そうだよ。 高校生が刺されたって近所が大騒ぎだったからよく覚えてる ー


「その場所教えて! 」


  ーいいけど、行ってどうするのよ? 6年も前だから何も残ってないよ? ー


 確かにその通りだ。 警察が捜査をして、それでもまだ犯人が見つからないのだから、私が行ったところで何も得るものはないだろう。 でも、そこで誰かが見てた(・・・)かもしれないじゃない! 私には、その誰かが見えるんだから。


「ありがとう小夜子。 次会ったらなんか奢るね 」


 小夜子と電話を切った瞬間、今度は三善から電話が入った。


 ー お、今日はすぐ電話に出られるんだな ー


「外に出てるのよ。 そっちは進展あった? 」


 ー おう、橘早苗の連絡先分かったぞ。 メモれるか? ー


「ちょっと待って! 」


 私は慌ててバッグからメモ張とボールペンを取り出す。


「ってか、メールかLINE送ってくれたらいいのに。 あ、ゴメン、私がそう言うのもアンタに失礼か…… 」


 ー 何ゴチャゴチャ言ってんだよ、俺メール打つの好きじゃねぇんだ。 それより準備出来たか? ー


「あ、うん、お願い 」


 三善が言った住所をメモ張に走り書きする。


 ー 後よ、近いうちもう一回会えねえか? お前に取り憑いてる奴にちょっと話がある ー


「取り憑いてるなんて言わないでよ。 何の話よ? 」


 ー いいから本人に会わせろ ー


 ちょっと真剣な三善の声。 優斗君に何の話をするのよ……


「…… うん、わかった。 あのさ三善…… 」


 ー あん? ー


「ありがとう 」


 ー …… おう ー




 私のお礼に驚いたような様子だったが、返事をする三善の声は優しかった。 少し照れながら歯を見せて微笑んでる…… なんとなく電話の向こうの三善のそんな顔が想像できた。 




 私は小夜子の家の近所の事件現場に足を運んだ。 地図で見ると、星藍高校と駅を直線で結ぶ中間地点辺りだ。 優斗君が言っていた一緒に帰る機会というのは、橘さんを駅まで送る事だったのかもしれない。 星藍高校から駅まで歩けば一時間はかかりそう…… 私なら歩かないな。


 タクシーを使って、事件現場の近くまで移動してきた。 古い住宅街で、入り組んだ道路と背の高いブロック塀が見通しを悪くして窮屈さを感じさせる。 近くには幹線道路が走っているが、この住宅街を迂回するように走っている為、優斗君は駅まで近道をする目的でここを通ったんだろう。


「やっぱり来たね? 美月探偵! 」


 突然名前を呼ばれて振り向くと、部屋着のままの小夜子が立っていた。


「びっくりした。 今日お休み? 」


「やほー美月。 私シフト制だからね、今日は休み。 美月こそスーツだけど…… サボリ? 」


「人聞きの悪いこと言わないでよ。 その通りなんだけど 」


 彼女と顔を見合わせて笑う。


「気合入ってるじゃない。 空回りして迷っても可哀そうだから案内してあげるよ 」


 現場はおおよその場所までしかわからなかったので、小夜子の案内は正直に嬉しい。 私は小夜子と肩を並べて、当時の事件現場に向かった。


「あの時凄かったんだよー。 ここら辺一体非常線張られて、パトカーとかいっぱい来ててさ。 野次馬とか警察とかでごった返してたっけ…… あ、そこ曲がったとこがウチね 」


 小夜子が右手方向の角を指差す。 その曲がり角には下半身の透けているおばさんが立っていた。


 (あの人なら会話できるかな……


「んで、ここが現場だよ 」


 住宅のブロック塀の路地裏の前で小夜子は立ち止まる。 ここで優斗君は刺されてしまったんだ…… 一人が通れるほどの逃げ場のない狭い道。 こんなところで……


「この通りに上半身だけ出して、うつ伏せで倒れてたんだって。 一面血の海で真っ赤だったらしいよ 」


「小夜子は見てないの? 」


「うん、騒ぎを聞いた時にはもう警察が来てたから 」


 私は優斗君が倒れていたと思われる場所を手でなぞってみる。 日の当たらない冷たいアスファルト…… 路地裏の反対側も行き止まりではないから、もしかしたらあっちから入ってきたのかもしれない。


「裏手に回っていい? 」


 私は小夜子と反対側に回る通りを探す。 どうもこの地域は細長く区画されているようで、結構歩かないと交差点がない。


 (そうか、だから逃げる為に路地裏に入ったんだ…… )


「目撃者とかいたの? 」


「分かんないけど、見つけて通報したのは近所のおじさんだよ。 色々警察に聞かれてたのを覚えてる 」


 (え…… 一緒にいた彼女じゃないの? )


「驚いた顔してるけど、それは何か知っている顔だね? 美月巡査 」


「さっきは探偵だったじゃん! まぁいいけど。 その刺された人の他に、女子高生が一緒にいたはずなんだけど 」


「そんな話聞いたことないなぁ 」


 先に彼女だけ逃がした…… とかかな。


「そだ、何にもないけどウチ寄ってく? 」


 ありがたい話だけど、私は首を横に振った。


「そうしたいけど、聞き込みする為にここに来たんだ。 だからまた今度ゆっくり遊びに来るね 」


「聞き込み? 」


 そう、ここに来る間に何人もの幽霊とすれ違った。 古い土地柄のせいなのか、幽霊さん達が少し多いように思う。 きっと当時の事を見ている幽霊さん(ひと)がいる筈だ…… そう信じて、先程見かけた下半身のないおばさんに声を掛けた。

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