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その幽霊、訳ありです。   作者: コーキ
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其の十五

「うん…… うん、ありがと。 それじゃ明日仕事終わったら連絡するね 」


 ご飯を食べている最中、LINEで連絡しておいた内の一人から返信があった。 久々に連絡してきたのだから顔くらい見せろと言われ、明日その友達と会う約束をする。


「青葉先生って知ってる? 日本史の先生だって言ってたけど 」


「いや、聞いたことないです。 もしかしたら最近転勤してきた先生なのかもしれません 」


「そっか…… 私の高校時代のクラスメイトに高校の先生やってる奴がいてね、星藍高校のその先生と知り合いなんだって 」


 星藍高校の先生なら、卒業生のことが分かるかもしれない。 なんとか手がかりは繋がっている。


「美月さん顔広いですね。 凄いなぁ 」


「広くないし、たまたまクラスが一緒だったってだけ。 そいつヤな奴だし 」


 年甲斐もなく頬を膨らませてむくれてみると、彼は軽く笑っていた。 


「ご立腹ですね、仲が悪かったんですか? 」


「よくからかわれたなぁ。 陰陽師なんてあだ名つけられるし、小学生みたいでしょ? 」


 フフッと優斗君は微笑んで、唐揚げを頬張る私に柔らかい笑顔を見せる。


「きっとそれは、美月さんを意識してたからじゃないでしょうか。 ちょっと子供っぽいですけど、男ってそんなものですよ 」


「まさかぁ 」


 箸を咥えながら思い出してみる。 確かによく声をかけられてはいたけど…… ないな、アイツとは。


「気になるなら普通に声かけろって思うんだけどね 」


「きっかけが欲しかったんでしょうね。 普通に声かけるのも恥ずかしくて、自分なんか相手にしてくれるのかと不安で。 話せても話題が見つけられない…… それならからかった方が相手にしてくれる、みたいな 」


「そうなの? そんなことしても嫌われるだけなのに。 単純におはようでいいのにね? 」


 優斗君と顔を見合わせて笑い合う。 楽しい…… 自宅で笑いながらご飯食べたのって、初めてかもしれない。


「優斗君も橘さんに対してそうだった? 」


「いえ、僕は普通に声もかけられませんでした。 同じクラスでしたけど、僕からは声をかけたことはないんです 」


「…… 恥ずかしかったとか? 」


「そうですね、だからちょっと美月さんのお友達の気持ちが分かるような気がします 」


 照れ笑いをする彼がちょっと可愛い。


「まあそいつのことは別にいいや。 明日仕事終わったら会ってくるけど一緒に行く? 」


「いえ、美月さんのプライベートもありますから。 お話が終わるまで、どこかで待ってようかと思います 」


 そう言って優斗君は立ち上がって玄関に向かう。


「ん? どこへ行くの? 」


「え? だって泊めてもらう訳にもいかないですし…… 」


 あ…… 考えてなかった。


「嫌じゃなかったらだけどさ、この家にいていいよ。 お風呂とか寝てる所とか、覗いたりしないんだったらだけど 」


「覗くなんてそんな! いいんですか? 」


「うん…… 一人で当てもなく過ごす夜なんて寂しいじゃん…… 」


 言ってて自分が恥ずかしくなってきた。 優斗君はフッと笑顔になって、玄関からベランダに向かう。


「じゃあお言葉に甘えてここを貸してもらいます。 ここなら覗きたくても覗きに行けませんから 」


 優斗君は意識をベランダの窓に集中してゆっくりと重たそうに開ける。 物を動かす力の使い方にも慣れてきたようだ。


「遠慮しなくていいのに。 君が紳士なことくらいもう分かってるから 」


「そんなこと言われたら、もう何もできませんね 」


 再び彼と笑い合う。 ベランダから漏れる笑い声は私一人のものだけだろうけど、もうそんなことは気にならなかった。





 翌日、いつものように定時で事務所を出た私は、LINEで約束した駅前ロータリーで高校時代の友達を待つ。 優斗君は朝から単独で星藍高校や隣町に行ってみると言い、帰ってきたら自宅近くのあの公園で時間を潰すらしい。


「美月ー! 」


 遠くから私を呼んだのは源 小夜子(みなもと さよこ)。 クラスの中でも誰とでも仲良くできた人で、本気かどうかは分からないけど私の力を理解してくれる数少ない友達だ。


「小夜子ー! 」


「久しぶりー! 去年ぶりだよねー 」


 手を取り合って私達は再会を喜ぶ。 その横には昔私を散々からかってくれた三善 春樹(みよし はるき)が、やれやれといった顔で私達を見ていた。


「よ、陰陽師。 元気だったか? 」


「相変わらずそのあだ名で呼ぶのね。 ムカつくけど、来てくれてありがとう 」


 私は小夜子と手を取り合ったまま、三善に笑顔でお礼を言う。 そんな私に、三善は面食らった顔をして固まっていた。


「…… 何よ、お礼言う私が珍しい? それとも、可愛くない笑顔なんか見せんなって思ってるの? 」


「バカやろ、そんなこと思うかよ。 奇麗になったなってびっくりしてただけだよ 」


 三善からそんな言葉を聞くなんて、私の方が面食らってしまった。 小夜子は私を見てケラケラと笑っている。


「とりあえずどこか入ろうか。 美月も春樹もご飯食べていけるんだよね? 」


 小夜子はスマホを取り出して、近くの居酒屋を探し始めた。


「小夜子から、お前が星藍の教師探してるってLINE来た時にはびっくりしたぜ。 お前星藍に就職でもすんのか? 」


「違うわよ、ちょっと人探ししてるだけ。 アンタが教師やってることのほうがびっくりだわ 」


「心外だな。 ぴったりの職だと思わんか? 」


 私は三善と笑い合う。 なんか不思議…… 高校時代あんなにいがみ合ってた筈なのに、今はこうして素直に笑えるなんて。


「あ、ここ海鮮もあるんだ。 ここ入ろうよ 」


 小夜子が見せてきたスマホの画面のお店に私達は頷く。


「んじゃ決まり! お腹空いちゃった。 早く行こうよ 」


 小夜子はスマホのマップを見ながら私の手を取って先を歩く。


「はは、小夜子も相変わらずだな 」


 三善の言う通り、昔から少し強引な所が小夜子らしい。 この嫌みのない強引さが私を救ってくれたこともあった。


「あ、ここだ! 」


 お気楽居酒屋<うまい庵>。 私達は小夜子に引っ張られるように暖簾をくぐった。

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