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7.魔獣使いのガスタン


 馬車の中で思考にふけりながら対面を見ると、アイリスの横で神獣様が眠ってい


らっしゃった。だいぶ仲良くなったみたいだ。



 馬車の御者である魔物使いのガスタンが振り向きざまに大声を出す


「おいチリト、歩くのが遅くなってきてるぞ、もうへばったのか 後でビビーズ


の干し肉やるから頑張るだに」



 チリトというのは後ろを歩くオーガの片割れだ。もう一方の方はキリトと呼


ばれていた 俺には2体の識別はできない ビビーズの干し肉とは


ビーフジャーギーに似た味のする干し肉で彼らの大好きなおやつである



 この世界の魔物はそれほど個体数が多い訳ではない。長い歴史の中で人間に数


を減らされたきたからである。繁殖力の強いゴブリンでさえ徹底的に駆除され


その数を減らしている。


それでも森や山の奥へ行けば普通に跋扈している。



 基本的に自然災害などで食糧が枯渇していない場合以外人里までは来ない。


人間を恐れているのだ。そんな中でも戦闘力の強いオーガなどの一部属種は


何世代にもわたる改良を重ね比較的人間に従順になるまで凶暴性を抑えられて


軍事力の一角を担うに至るようになった。つまり、人間によって個体数を増や


している  そいつらのうち今回帯同しているのがチリトとキリトである。



 彼らは軍務を全うするかぎりは、食料も住居も与えられている。家長が


戦死した場合も残された家族には財貨補償が行われる。決められた居住区以外


の移動の自由はないが居住区内では制限はあまりない。国民の彼らに対する


感情は極めて良く、童話などにも度々人間の協力者として登場する。奴隷と


いうにはほど遠い待遇だ。



 背丈は5m強、マウントドリル並みに大きい。その腕力から放たれる物理


攻撃力はすざまじいものがある。オーガはゴリラよりは若干賢く簡単な単語を


10個くらいは理解でき自ら発声できる。どちらかというと魔獣よりは魔人に


近い。



  ちなみに人間並みに知性がある魔人は歴史上は存在した。文献も多数


残っているので間違いがない。しかしある時点を境に忽然と姿を消してしまっ


たらしい。今では存在しなかったものと扱われているようだ。これらは知的な


オヤジであるモルゲン・グスタフ大臣から口外秘にすることを条件に教えて


もらったことだ。


 実際、王立図書館で古代の知的魔人に関する図書を探そうとしたのだが閲覧


禁止になっていた。どうやらタブー視 されているようだ。


  とはいえもはや現在では魔王対勇者という構図は成立しえないのである。


ついでにダンジョンはあるかと尋ねたら、大臣曰く「魔人や魔物が作った


ダンジョンは存在しない。点在する古代遺跡に魔物が集団で巣を作っている場合


があるぐらいだな」だそうだ。





 チリトとキリトの2体を使役するのが軍所属のガスタン少尉だ。40代前半に


見える風貌はベテランらしい風格を漂わせる。よく観察していたらわかったのだ


が、彼はオーガ達には10個ぐらいの単語でしか会話できないはずなのだが、よく


話しをしているのだ。


 一方、人間に対してはほとんど会話していない。唯一、アイリスとだけはたま


に話しているのを見かける。神獣様だけは恐れ多いと考えているせいか近づきも


しない。たぶんだが彼も俺と同じで人間嫌いなんだろうということは理解できた。





 俺は夕食後に自分で沸かした紅茶に果実酒を少しいれたオリジナルのロシア


ンティーをガスタンにもっていってやった。事前にかなりの酒好きということを


聞き出していたためだ。


 今回の行軍中の飲酒はご法度である。しかし勇者である俺は例外だった。


ストレスを貯めないように過度でない飲酒は許可されていた。俺が薦めるの


だからガスタンは罰せられることはない。最初は彼は礼も言わず二人して黙って


紅茶を飲んでたのだが、4日目には紅茶を渡すと「にかっ」とされた、いい笑顔


だ。おっさんのいい笑顔久しぶりに見たよ。


 それから少しづつしゃべるようになり、ガスタンは自分の事をしゃべるように


なった。





 ガスタンの家系は軍人一家だった。父親は大佐まで上り詰めた人だったらし


い。ある日父親は前線での失敗を上官に擦り付けられて粛清される。それでも


彼は家族の困窮を凌ぐため稼ぎのいい軍隊に入隊する。仲良くなった同期生である


上級貴族の子息が順調に出世したためガスタンも地位を引き上げてもらっていた。



その貴族の子息と本当に仲良くして信頼していたらしい。ある時、従属している


小国での市民蜂起を鎮圧する作戦でその貴族の子息は指揮官として致命的な作戦


遂行ミスを犯してしまい鎮圧部隊の半数は蜂起した市民に虐殺されるという大失態


になった。


 追い詰められた貴族の子息は盟友であるはずのガスタンに罪をかぶせたのだ。


幸いな事に証拠が不十分であったために検挙されるまでには至らず自主除隊扱い


となった。しかし荒れるガスタンに、連れ添った妻は家を出る


 ガスタンは絞り出すような声で喋る


「あのとき奴が申し訳ないが俺の身代わりになってくれないかと頭を一回下げて


 くれさえすれば おらは黙って罪をかぶっただに


 あーおらはとんでもねーあまちゃんだったんだに」


 王国東北辺境の出身なためか少し訛りが混じっている


 ガスタンは自分を嵌めた貴族の子息を恨んでいる訳ではない 自分を信頼して


頼み込んでこなかったことを非難しているのだ そしてそんな奴を盟友と思っ


ていた自分を嘆いているのだ



 慰めになるかわからないが俺はこいつを励ます


『人間追い込まれればどんな悪いことさえする。そいつだけでなく、俺や


お前だってそうだ  実際に追い込まれた時どう行動するかで、人間として


価値が決まる


 どんな人間も善も悪も、醜さも美しさも必ず両方もっている まずそれを


認識することだ


俺達にできることは用心深く醜悪な行為をする人間から善人を守り、可能で


あれば改心させ、無理ならば排除することだけだ。俺も同じ経験をしている。


できることからやればいいだけさ』


 ガスタンは何やら思うことがあるらしくしばらく沈思した


「勇者の言うとおりだな。おらも見習うだに」


 彼は話を続ける


 除隊後荒れた彼は自死を考え森を彷徨う。餓死するか、魔物の餌食に

 

 なるか、自暴自棄になっていたのだ。空腹で意識ももうろうとしている中、


 ある魔物の集団に出くわす


 しかし、ガスタンがその魔物達の夕食のテーブルに乗ることはなかった。


 その魔物の名前はランルー、カワウソに似た風貌だが全長は2m近くある。


 草食性で極めて大人しい、彼らは森で迷った人間の子供や魔獣の子供を


 巣に連れ帰り育てるのだ


 育った彼らは群れの用心棒になるか元の種族の群れに帰る


 ガスタンが連れてこられた時は人間の子供やオークの子供がいたようだ


 ガスタンは当時35歳のおっさんだったが、500年も生きる彼らからすれ


 ば子供扱いのようだ


 ガスタンは彼らの群れで1年近く暮らすうちに生気を取り戻した そして


 どうやら感覚的にではあるが彼らのコミュニケーション手段を理解したのだ


 1年が経過しガストンは街に行き たまたま張り出していたポスターを目


 にする


 「王国正規軍所属魔物使い候補募集 適性検査有 試用期間6ヵ月」


 思わずこれだと思ったそうだ 以来4年間魔物使いの仕事に明け暮れる


 今ではオーガ10体を同時に使役できる大ベテランになっている 





 一通り話を聞き俺は素直に感想を述べる


 『すごい人生だったな』


 「まあ振り返ればそんなに悪くはない人生だっただに」


 少し皆の寝てるテントから距離をとり焚火を囲んでこの日は夜遅くまで


 おっさん同士で語り合った。


 夜の静寂に焚火の木が弾ける音だけが聞こえる


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