３．新参勇者ブートキャンプ その２
3日目の朝を迎えた
睡眠時間が短かったので眠いかなと思ったが すこぶる快調に目覚めた
こころなしか体も軽く感じる 実に久しい目覚めのよさである
目覚めの良さついでに今日から朝食前にハナちゃんの散歩をすることにした
リードは召喚時についていて問題ないが 便を処理するためのぽち袋
がないのだった この世界には石油精製品であるビニールはないので
給仕に頼んで紙（といっても低品質の藁紙のようなものだが）でそれらしき
ものを作ってもらった さすがに王城内で犬のうんちを放置するのは
まずいと思ったからだ ぽち袋をもってリードをつけてやると柴犬様
は尻尾を激しく振ってくださるのだ 癒される ありがたいことだ
散歩を終えいつもの教習室にいくとエドワード審議官が開口一番
「随分顔色がよくなりましたね」
どうも５とはいえLVが上がったせいで健康状態も身体能力向上とともに
よくなったらしい。前世界では不摂生だったのでありがたいことである
この日の朝は地理の授業だった
エルトリアをはじめ他の4大国を中心に各国の自然、風土、民族性、産業
軍事力、大都市の位置などの概略だった
まだこの国の言語で読み書きはできないので 日本語で紙にメモをとっていく
後で復習するためだ
この日から昼食前に1時間剣技の指導が始まった
昨日の俺の素人チャンバラを見てひどいと思ったのであろう
対応が的確だ
しかし学生時代から運動とは縁の遠かった俺だ うまくできるはずがないことは
俺自身が一番理解していた 最近はせいぜい基礎体力の維持にジムに週1回通う
ぐらいだった お腹もぽっこりしてるし
剣技の指導者はラタン・ディアス大尉という剣技指導専門の軍人だった
ラタンは太い眉毛をしたどんぐり眼の西郷さんみたいな顔をしていた
教えられたとおりラタンに木剣を何回も打ち込むが即座に床にたたきつけられて
しまう
それでもこの世界で生き抜くには必要な事と思い歯を食いしばり立ち上がる
最後の打ち込みで奇跡的に1本とれた ラタンは驚いた様子でどんぐり眼をさらに
大きくしていた
そして何もなかったかのように 互いに礼をして指導を終えた
1本とれたのがラタンが俺に自信をつけさせるためにわざととられたのか、
それともこれが勇者のなせる業なのかは聞けずじまいだった
午後はlv上げ作業である前もって対戦する魔物の特徴やスキルなどを
エドワード審議官からブリーフィングされていたので、昼食をとりなが
ら取り組みをシミュレーションしていた。
しかしこの日はひと悶着あった。エドワードはハナちゃんを加えてLV
上げをしろというのである。従者だからあたり前だというのである。
俺にとっては可愛いペットの柴犬様である 怪我でもされたらきっと
俺が泣いちゃうだろうなどど反論していたら なんとハナちゃんは魔物
の方にうなりながら近づいていらっしゃるではないですか
何故かやる気満々のようであります
まあ本人がやる気なら仕方がないかと思い 一戦交えてみることにし
ました
結果を言うと 効率良く作業が進みました
ハナちゃんの前に俺がプロテクション（防御障壁）を展開し魔物の注意
を引いてもらい、俺が魔物の背後または側面をとったら同時に攻撃開始
で素早く処理できました
途中の魔物で炎の玉とか毒とか吐く奴もいましたが全部プロテクションが
はじいてくれました
これ便利すぎだろうに とは言え2体１の戦いですからね 囲まれたとき
のシュミュレーションもしないといけないだろうなと思いつつ
そんなこんなで最後まで作業を続けていくと俺はｌｖ８．ハナちゃんは
lv.5まで上がりました
最後の方はハナちゃんの体格が一回り大きくなり狼みたいな感じに
おまけに爪がすごく伸びてました スキル「かぎ爪」が追加された
ようです
訓練が終わるとハナちゃんは元の大きさに戻りしっぽを振りながら
近づいて来ました
安心しました やっぱり柴犬様の姿が一番です
夜の座学ではステア先生から簡単な単語を習いました 俺は紙を
細かく切って単語帳を作りました
まさかこれを使うことになるとは 合間に少しお話をしました
先生は下級貴族の娘で苦労して今の地位である大学の魔法学科の
教授になったそうです どうも門閥意識が強く実力を認めてもらう
のに苦労したとか 今でいうキャリアウーマンですかな
あと独身だそうでこの世界では行き遅れ気味の年齢とか 俺も
独身ですというと
目元が少し微笑んだような 気のせいですかな それとも苦笑か
そして召喚3日目が過ぎてゆきました
