12.時代の申し子
ラッパが両軍からなり、エルトリア軍は攻撃射程まで前進する
まず射程が一番長いエルトリア軍の投石機による攻撃が始まる。投石機の
長いアームがしなり、岩が放物線を描いて飛んで行く。やがて敵陣の前に
展開される防護障壁にぶつかり大きな衝撃音がなる
しかしそれだけだ。次に双方魔術攻撃やら弓矢の射撃が始まるが、いずれ
の軍の防護障壁も健在のようだ。俺の張った防護障壁にも弾幕が飛んで
くるがびくともしない。エルトリア軍は横並びに敵陣への距離を詰めてい
く。俺達も前進する
銅鑼が鳴り俺達先陣隊が敵陣中央に更に近づく。手筈通り開幕は
アイリスが高火力爆炎範囲魔法エクスプロージョン連続して2発放つ
一番厚いであろう中央敵陣が張る防護障壁はあろうことか一発で破壊
される
敵陣の綻びを見つけ、味方本体も行軍速度を上げ中央に殺到し始める
自陣の防護障壁が破壊されてすぐに2発目が来るとわかった敵陣はすでに
阿鼻叫喚だった
近代魔法戦において防護障壁が破られるということは即死を意味する
からである。中央に布陣した敵軍兵士は塵芥になっていた
先陣隊は速度を上げ前進し、門が近くなったところでアイリスの3発
目が門を直撃する だが門はびくともしない。城壁も表面が少し黒ずん
だくらいである。大量の魔力が魔力蓄積器から門へと供給されているから
であろう
俺はそれを確認し門への取り付きを下知する
アイリスがが撃てるエクスプロージョンは後一発だけである
門へと接近しすぎては味方に被害が及ぶのでもはや正面から打ちよう
がない
それでも俺は門への取り付きを下知する
門に近づくにつれ城壁から弓矢や石が激しく跳んでくるが俺の張る
壁は健在だ。つい先程までいたはずの敵兵の姿は無く高熱で変形した
鋼鉄製の鎧兜や剣が転がっていた。端の方ではかろうじてヒトガタ
をした消し炭だけがある。
敵陣の左右は門前に孤立した俺達を打ち取ろうと迫ってくる。俺達
を討ち取った後は門内へ撤収し籠城戦を決め込むつもりなのだろう
俺はプラン通り 城壁の上、更に城壁の内側に壁を張る
ここまで門に接近してようやく張れる位置だ
城壁の内側にいた敵の魔術師が見たら奇妙に見えただろう
敵の攻撃から守る壁を城門の内側に張ったのだから、俺たちを守って
くれるのかと考えたまぬけもいるかもしれない
俺はアイリスに目で合図を送る アイリスは最後のエクスプロージ
ョンを俺が城壁内側上空に張った壁に向け発射する
術は角度のついた壁に当たり反射して 城壁内側に備え付けられて
いた魔力蓄積器を破壊する
厳密に言うと反作用として反射するのは20%で残り80%は衝撃として
壁に吸収されている 20%でもアイリスの術は強力なので無防備の
魔力蓄積器を破壊するには十分だった 外側に取りついていた俺たち
には軽い衝撃だけが伝わる
魔法供給が絶たれた城門はオーガの強力な物理攻撃で簡単に破られた
俺たちは要塞内へと用心深く侵入する
門のすぐ内側にいた敵はアイリスが最後に撃った一発に巻き込まれて
倒れていた
楼上から放たれる弓矢ももはや数が少なくなってきている
俺の仕事はこれでほぼ終わった
じきに味方本体が城門内に流れ込んできて俺達を追い越していく
要塞内を制圧するのも時間の問題だろう 5人の百人隊長が手柄を立て
たいと言うので要塞内の掃討を許可する 窮屈そうにおしくらまんじゅ
うしていたほとんどの兵士が俺の壁から出て走り出していく
城門前の左右から肉薄していた敵軍も 簡単に城門を突破されもはや
戦意を失い撤退を始めたようだ
俺は500人を覆っていた壁を解除して戦車を降りた
その瞬間、物陰に隠れていた一人の敵兵士が剣を上段に掲げながら
俺に向かって突進してくる。俺は両手が解放されていたので剣を
抜く。彼の顔はどうみても10代後半の少年だ、美少年だ。
彼の剣は俺自身に掛けてある防護障壁に阻まれる。剣が衝撃の
反作用で跳ね返され彼は体勢を崩した。その瞬間俺は彼の首を
両断していた。王から拝領された魔剣はまるで豆腐を切るかの
ような感覚だった。人を切った感覚は無かった。
彼の首から鮮血がほとばしり、首が床に転がる。その美しい目は
宙を見つめていた。
城門を突破した1時間後には要塞は完全に陥落していた
翌日検分がなされおよその被害が判明した
戦闘不能になった数は敵軍6000中2500、自軍6000中600 完勝である
自軍の600は進軍中に一部の壁が破れたところを魔法攻撃にさらされた
部隊の被害がほとんどだ、それでも半壊滅ぐらいの状況で、アイリスの
攻撃を受けた敵部隊の完全壊滅とはレベルが違う。あとは要塞突入で50
ほどの被害が出ている。先陣隊の中でも6名ほど還ってこなかった
少なくとも門を打ち破ったとこまでは被害0だった
俺の仲間のラタンとその部下3人は無事帰ってきた。そこそこ活躍した
らしい。俺としては無事戻ってきてくれたことの方が嬉しい
コジョウヤストみたいに絶大な物理攻撃力を誇る勇者なら、自ら先頭
に立ち、片っ端から敵をなぎ倒せばいいだけだが、縁の下の力持ち的
スキルが高い俺としては今回の行動は最適解だったと言えよう。俺の乗る
戦車を追走してきた神獣様には今回出番がなかったようだ
今回の作戦のMVPは間違いなくアイリスだろう。短期決戦を目指し防護
障壁の強化より魔術攻撃の火力増加を重視してきている近代魔法戦におい
ては、それを体現する攻撃威力とMP量を誇っている
まさに時代の申し子と呼べる。彼女がいなければ今頃まだ城門前で肉弾戦
をしていたことだろう