11.ケルブメ要塞攻略
いろいろ考え事をしていたら、いつの間にか第3師団が集結する
サウスブリッジの街に到着した。彼らに合流し、街の南方に位置す
るケルブメ要塞を占領するのが今回の俺たちのミッションである。
ケルブメ要塞は聖ダルタニア教国の従属国である小国カステラ王国の
北に位置する要塞で、エルトリア王国からの南進を阻むための軍事
拠点である。一応勇者無しでの仕掛けでは難攻不落の要塞とされて
いる。
侵攻目標にここが選ばれたのには理由がある。2週間ほど前にエル
トリア国の従属国であるレオン王国の南部にあるサントメ要塞が、
勇者コジョウヤスト率いる聖ダルタニア教国軍に占拠されたので、
報復として国の威信を示す必要があるようだ。
大森林地帯のレベル上げを俺達が続けていた間、奴はレベル上げを
早々に切り上げはせっせと軍事行動の準備をしていたことになる。
俺は単純に占領されたサントメ要塞を奪還した方がいいと思うの
だが、どうも違うらしい。
お互いがお互いの喉元を噛み切れるような位置まで侵攻した状況に
何の意味があるのか俺の思考回路では思いつかなかった。いずれに
せよ第3師団の総大将は俺でないのでどうでもいいのだが。
第3師団は総員6000、主戦力は重歩兵。その中には、騎兵300、
戦車50、魔術師60、オーガ30、投石機10、破壊槌2が含まれる。
戦車は御者が4頭の馬を御し、搭乗する魔術師や狙撃弓兵が攻撃を
するというものであり、前世界のパンサー何型とかいうあれではない。
騎兵と同じく機動力を生かし戦局を変える役割が期待されている。
エルトリアの魔術師は防御、回復、火属性攻撃魔術の使い手が多い。
対する敵は聖ダルタニア教国軍が2000、レオン王国軍が4000、
主戦力は軽歩兵、そのうち騎兵が500、魔術師がおよそ60、国の名前
のとおり聖属性魔術の使い手が多いようだ、彼の国の教義では魔獣は
卑しいものとされているので軍属にオーガのような魔獣はいない。
その代わり魔力蓄積器なるものが開発されており、普段から魔術師が
魔力を貯めてゆき戦闘時にはそこから魔力の供給を受けれるらしい。
いわば魔法電池だ。
まだ発展途上の技術で魔力を蓄積しても日常的に自然と少しづつ漏れ
出してしまう代物らしい。加えて大掛かりな装置なので基本移動はでき
ない。防御拠点で使用する運用のようだ。いづれにせよエルトリア軍は
自軍の魔力がゼロにならないうちに決着をつけなければ勝機は見えない。
敵は兵力が同等なのか要塞前に陣を展開している。まずは野戦を所望し
ているらしい。魔力蓄積器の優位性があるのでエルトリアの新勇者の力を
見てみたいということなのか。
俺は先陣将として兵500を任された。指揮官経験を積むのも養成プロ
グラムにはいっているらしい。
この世界の軍隊は100人が構成単位だ。100人の長は100人隊長
だ、1000人だと兵団長、5000~10000人は師団長である。師団の
兵数にばらつきがあるのは軍管区の人口差があるためだ。人口の多い
都市を内包する場合は10000人となる。首都を含む
場合は師団が2つ以上成立する場合がある。500名任された俺は階級で
言えば少佐か中佐相当だ。まあ勇者に肩書は不要なのだが。
俺は編入された5名の百人隊長を招集し軍議を開く。本軍での全体
会議はまだなので顔合わせと実際の戦闘時の基本的な取り決めを確認し
あった。細かいことは全体会議での戦略と作戦プランを聞いてからきめ
るつもりだ。第一百人隊長はラタンで彼の部下3名はそこに編入される。
ガスタン率いる6体のオーガも第1百人隊に編入された。
俺たちは基本的に第1百人隊と行動を共にすることになる。後の4名
の百人隊長は当然初めての顔だが、これから死線を共にすることになる
ので固く握手を交わし軽くハグをする。エルトリア人男子共通のあいさつ
だ。軍人同士は普通しないが俺はこだわった。俺はゲン担ぎな人である。
全体軍議で説明されたプランは、横陣で要塞の防護障壁に向け投石
機による投石やら魔術攻撃を仕掛け、薄いと思われるところに集中攻撃、
破れたところから切り込み肉弾戦でえぐっていくというシンプルなものだ。
当然要塞からも弓やら投石やら魔法攻撃が行われるので、こちらの防護
障壁が破れればそこは甚大な被害が及ぶだろう。
俺達先陣組の仕事は一番分厚いと思われる敵中央の防護障壁を打ち破り
要塞の門を打ち破ることである。もし俺たちが中央の防護障壁を破れなく
ても他の敵防護障壁が破れればそこから味方は食い込めるし、俺達が中央の
敵防護障壁は破ることができたが要塞の門を破れない場合でも後続の本体が
破壊槌により門を打ち破るだろうから、気楽にやればいいらしい。
できたら儲けもんという発想のようだ。
先陣組には防護障壁を張れる俺とステアがいるからという理由で、
魔術師を他には廻してはもらえなかった。何か過大評価されていないか俺
俺の壁に500人の命がかかってると思うとうすら寒い。
俺達先陣隊500は第3師団長のいる横陣中央の少し手前に布陣して
いる。俺は最終的な軍議を開き各員に詳細を指示する。そして開戦の
合図を待つ。指揮官の俺は特注の6頭立て戦車に搭乗している。
ステアとアイリスも同乗している。
俺の指示した陣形に 後方の第3師団長は目を丸くしている。
前方にいる敵陣中央の前列の奴らは俺達を指さしながら笑っているようだ
中には手を叩いて腹を抱えている奴もいる
無理もない。みっともないほどに密集しているのだ。密集隊形というより、
東京の通勤電車並みのおしくらまんじゅう状態である。俺は実用主義者である。
見た目は気にしない。
俺は陣の前と上に防護障壁を張る、左右はステアに任せた。陣を狭めたお陰て
500名を何とか収容できるそこそこ分厚い壁が張れた。
一部物語の進行と無関係な記述がありましたので削除しています