表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/110

102.狡猾な虎

 

「 ハブーラ国での民衆蜂起の準備は順調のようです。

  来月には蜂起が始まると思われます 」


 ハブーラ国とは母星シルフィーの中規模国家群の一つで、治外法権化

している惑星メタニウスと結んで、独自の経済圏を形成しようとしてい

る。当然セブンアイズの統制下から脱する行為なので、敵対視されて

おり、今回の民衆蜂起側に我々セブンアイズの情報局は裏で武器供与を

している。軍事独裁国家であるハブーラを弱体化させることが目的で

ある。


「 惑星メタニウスでは、新興勢力であるナトリ・ピータンの台頭が

  目立ち、古参幹部との間で軋轢が生じつつあるようです 」


 俺は伝説級のメタルコフィン乗りということで、記憶が戻るまで

という条件で、情報部の配属願いが叶い、お飾りだが局内ナンバー

3というポストについている。本日は月2回の幹部定例会に出席して

メンバーの議論に聞き入っていた。


「 その2つに関係しているこの鋼血団というのは何だね? 」


「 鋼血団はもともと惑星マルニウスで傭兵をしていた少年等が

  結成した徒党で、傭兵稼業を繰り返し最近名を上げておりま

  す。ハブーラ国の軍事顧問契約を獲得、先ほど名前があがっ

  たメタニウスのナトリ・ピータンや、件のマクシミリアン・

  ファイサル卿とも深い関係にあるとか。優秀なメタル・コフィン

  乗りがいるようですが、所詮はゴロツキの集団です。」


「 胡散臭い奴には、胡散臭い奴等が集まるものだな。」


 マクシミリアン・ファイサル卿とは、セブンアイズの一角である

フィサル家に婿養子となり最近貴族になった人物だ。メキメキ

と頭角を現し、惑星マルニウスを含む3惑星からなる宇宙軍管区

の艦隊司令に上り詰めた。俺のボスのエルナン・ピサロが

ライバルになりうるとして注視ししている。この情報局は実質

ピサロの支配下にあるので彼の敵は、情報局の敵でもある


 俺は、何故かこの鋼血団というのが気になり、独自に調査する

ことにしてみた。


 リーダーのイチカ・シュミットでも推定21歳、団員の平均年齢

は推定14歳、ということはもっと年端のいかない子供達がいる

ということだろう。彼らの年齢が低いのには理由がある。前大戦

の名残で荒木田式システムという、パイロットの神経とメタルコ

フィンの駆動システムを連結して操作速度を限界まで上げるシス

テムの実現のため、生体適合がしやすく後腐れがないスラム

の少年で実験が行われたためだ。


 パイロットの負担が大きく、反人道的ということで現在採用さ

れているのは、生体に端末を連結せずにパイロットの思考をシス

テムが読み取り駆動させるシステムだ。しかしながら大戦後の今

でも一部の傭兵組織ではこのシステムが運用されている。実際のと

ころ、荒木田式システム採用の機体の方が不規則でトリッキーな

動きが取れるため、実戦では分がある。


 だが、まさに鋼血団は前大戦の負の遺産であることは間違い

ない。おそらく大人はほとんどいないだろう。学も知識もなく

たいした知恵もなく、若さと野獣の勘だけで今日まで闘争本能

剥き出しに傭兵稼業で生き残ってきたと推察される。

 所属の戦闘艦は2隻、保有するメタルコフィンも8機のみ。

彼らは遠からず宇宙の片隅で野垂れ死ぬことになる。

何だか彼らに無性に憐憫の情が湧いてくる。



 ◆ □ ● △ ◆ □ ● △



 それから1年後、ハブーラ国の首都の裏通りの薄汚いバー

のテーブルで、俺は一人の青年を前に酒を呑んでいた。

周りに客はいない。

青年はホスト風のスーツをびしっと決めた、ホスト風なイケメン

だ。見様によってはチンピラ風情にも見える。


「 それで、伝説の撃墜王にして、セブンアイズの大佐様が

  うちにはいりたいって、どういう魂胆ですかね? 」


『 いろいろ理由はある。まずこちらの目的を言うと君たち

  には惑星シルフィーの太陽系全ての支配者になって

  もらう 』


「 はぁ、何を言い出すかと思えば、愉快なおっさんだぜ。

  だが、質問に答えていないぞ。 」

  

『 一番大事な事だが君たちは若い。若いということは

  新しい事に適応が早いということだ。百聞は一見に

  如かずということわざがある。自分の眼で確かめ

  た方が早い 』 

 俺はそういって彼の手首をつかみ、転移魔法を行使した。


「 ちょっ、何をする 」

 

 転移先は海底だ。室内の窓の外には大きなマッコウクジラ

のようなクジラが泳いでいた。


「 ここはどこだ? 」


『 ここはシルフィーのある海底にあるアッカド人の住居

  施設だ。これから彼らに会ってもらう。拒否しても

  無駄だぞ、貴様一人では地上には戻れない。暴れるの

  は話を聞いてからにしてくれ 』

  

「 強引だな、わかった話を聞こう 」

  さすがリーダーを張っているだけあって肝は据わって

 いるようだ。


 次の部屋に通ずるドアを通り抜けると

「 ようこぞ我が子孫よ 」

「 おいっ、蛇がしゃべっているぞ、こいつら何なんだ 」

 さすがのイチカ・シュミットも驚愕で膝が震えているようだ。


『 一度自分の頬をつねってみるとよい。これは現実だ。

  この方は惑星シルフィーのアッカド人の族長ミタンニ様だ 』


 俺は情報局の仕事の合間を縫ってアッカド人を探索し

既に彼らと接触していたのだ。 

 この後、ミタンニ様はかつて惑星シノップで監視官アダモが

説明してくれたように、アッカド人がこの星の支配者だったこと、

人間はアッカド人とアケメネス人との混血種の子孫であること

などをイチカに説明してくれた。


 イチカは一応聞いてはいるようだが、放心状態で呆けた

顔をしている。

『 大丈夫か? 続きは俺が話す。場所を変えて、何か

  食べながら話そう。 』

「 あ、ああ 」

 途方もない真実を聞かすには、まず衝撃的なカルチャー

ショックを与えることが必要だろう。でないと、頭が話を

受け付けないだろうから。


 俺はサンドイッチを頬張りオレンジジュースで流し込むと

話を始める。イチカはオレンジジュースを少し口に含んだ

だけだ、食べ物は喉に通らないらしい。


 俺は、惑星シノップでの出来事、アケメネス人の真の目的、

奴等の強敵候補リストの1番上にシルフィーが載っている事、

2度目の星間転移でシルフィーに来た事、セブンアイズの

内部情報などを包み隠さず話した。


『 君達にてっぺんをとってもらい、世界中の人に

 アケメネス人の存在と目的を知らせてほしい。そして

 人類をまとめてどう対処するのか決めてほしいんだ。

 俺のボスのエルナン・ピサロは残忍で狡猾な大人だ。人類

 の将来などにたいした興味はないだろうし、君がここで

 聞いた話も信じないだろう。

  だが君たちは若いし見込みがある。 』


「 なんか俺達をかいかぶっているんじゃないか? 

  俺達は自分達が生きるのに精一杯で人類の将来

  なんかとてもじゃないが、考える余裕はない 」


『 何故余裕がないか分かるか? それは君達に足りな

  いものがあるからだ。それは知識とその知識に

  基づく知恵の絞りだし方だ。

   俺がお前らの参謀になり、それらを補い、天下

  を取らせてやる。俺はあとこの世界に3年しか

  いられない。俺がお前に権謀術数を叩きこんで、

  ただのはぐれ狼のリーダーから狡猾な虎にしてやる 』


「 あんたの言いたい事は理解できた。だが、いろいろ

  ありすぎて消化不良だ。少し考えさせてくれ 」


『 いいともよく考えてくれ。それと、あんたが今仲良く

  しているマクシミリアン・ファイサル卿だが、気をつけろ。

  奴は遠からずセブンアイズ内でクーデター

  を起こし、エルナン・ピサロとの権力抗争に君達も

  巻き込まれるだろう。』


「 どうしてそれを知っている。昨日、奴からクーデター

  への参加要請があったばかりだぞ。 」


『 知識と知恵の絞り方だ。ちよっと考えれば予測は立つ。

  ほぼピサロの勝ちは見えている。

  どうせマクシミリアンからマルニウスの王にしてやるとか

  言われたんだろうが、

  お前達は残らず討伐されるだろう。万が一、マクシミリアン

  が勝ったとしても奴はお前らを利用しつくした

  後はポイ捨てするだろう。どっちにせよ将来はない 』


「 マクシミリアンが俺達を対等のパートナーとして見ていない

  のは奴の態度を見てて分かっている。俺達も奴を利用し

  てのし上がっていくだけだ。」


『 果たしてお前たちにそれができるかな?

  マクシミリアンは努力が足りない偽中二病野郎だ。はなもち

  ならないエリート意識の持ち主でクーデターを起こし

  ても奴の味方をする奴は少ないだろう。大義をかざせ

  ば自動的に味方の戦力が増えるという甘い考えだ。

   だがそれでも、お前達よりはずっと頭と知恵は回る。

  そしてピサロはマクシミリアンなんかよりは遥かに抜け

  目がない狡猾な大人だ。戦う前から勝負は決まって

  いる。 』


「 では、俺達にピサロにつけと言うのか 」


『 いや、ピサロについても、手駒の一つとしていいよう

  に利用されるだけだ。このままマクシミアリアンと手を組んで

  いい。

  しかし、闘う準備は完璧にする。そして勝つべくして

  勝つ。ピサロを葬った後は、時期を見てマクシミリアンを

  排除してセブンアイズを君達が完全に掌握する 』


「 ピサロに勝つ策はなんだ? 」


『 お楽しみのためにここでは言うまい。だが、それは既に

  君達が発見しているものだ 』








 






 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ