100.最初のお別れ
本100話で本編「壁の勇者の戦略」は終了です。とりあえず101話よりしばらく番外編に突入。
本作を読んでいただいている方に心よりお礼を申し上げます。
なお、活動報告にて「今後の作成方針」、「今後の投稿サイクル」を記載しています。
蛇口の栓を逆向きに強引に捻ると天井から上へと続く階段が降りて
きた。俺達は警戒しながらも階段を上っていく。上の空間も広く
奴等の拠点兼神官ドルドの実験室だったようだ。転移装置らしきもの
や、錬金術師が使用するような道具や、魔獣同士を組み合わせたキメラ
の残骸のようなものも放置されていた。
「 何やら不気味だな 」
「 どうせ、ろくな事してなかったんだろう 」
「 人が倒れています 」
転移装置らしきものの横に、人が倒れていたと思ったが、蛇人間だった
おそらく神官ドルドだろう。すでに息も無く、心音もしなかった。
人間に魔術を教えた偉大な魔術師である神官ドルドは息絶えていた。
魔力の使い過ぎで力尽きたのか、仲間割れで始末されたのかは不明だ。
『 ネクロマンサーになって復活とか嫌だから、防護障壁の檻で囲んで
焼いておこう。もうこいつから情報をとることはできない。
アイリス頼む。 』
アイリスは少し思うところがあったのか、一瞬ためらった後に、亡骸を
塵芥に変えてくれた。同じ魔術師として魔術の始祖に何かしら思い入れ
があったのかもしれない。
あたり一帯を捜索したが、すでにジェイコブ・ヤコブは拠点を変えてい
たようだ。とりあえず、魔術研究家のイエベス達に転移装置の回線を切断
してもらった。その時、地震のような大きな揺れが起こる。
『 一旦、全員外に退避しよう 』
神殿から外に出ると、遠方の砂漠の地面が裂け、横長に伸びた三角錐状
の巨大な宇宙船らしきものが浮上していくところだった。
俺達のすぐ前方の上空に例の男の巨大なホログラムが浮かび上がる。
「 ほほぅ。ちょうどよい所に来てくれましたな。私は本国に報告のため
最寄りの通信基地に行くところです。せっかくですのでお別れの挨拶を
していくことにしましょう。
勇者イワタテ、やはりあなただけはこの星の進歩の障害になりそうです。
殺すのは簡単ですが、今までの因縁もあります。
もっと面白いことをしましょう。 」
宇宙船の細長い三角錐状の先端から青色の光線が出る。ビームの方向は俺に
向っている。言葉通り俺だけを狙っているようだ。
無限の壁を展開するが、光線は反射することなく、俺の壁の周りで止まって
青色の光の壁を形成している。
光の壁から脱出しようとするが出ることができない。ビームの射出は止ま
ったが、光の壁は依然として存在していた。
「 あがいても無駄ですよ。既に星間転移のカウントダウンが始まっていま
す。あと3分後に最初の転移が始まります。
以後、4年おきに星間転移を繰り返します。残りの寿命を知らない星で
彷徨い続けるといいです。
一方的なゲームはつまらないので、あなたにもチャンスを上げました。
転移ごとにあなたは強くなりますが、精神が持たなくなるでしょうね。
いつまで正気がもつか見れないのが残念です。
それまでに我々を倒す事ができればあなたの勝ちです。
では頑張ってください。勇者イワタテ。残りの皆さんもさようなら 」
そういうとホログラムは消えた。宇宙船は遠ざかっていく。
魔力増幅装置を背負ったコジョウがすさかず聖剣を抜き光の壁に叩きつける
がびくともしない。
『 ダリオ、コジョウから魔力増幅装置を受け取って、視力強化で宇宙船
を狙撃してみてくれ 』
すでに宇宙船は視界から消えていた。
「 わかった、やってみよう 」
ダリオはコジョウから魔力増幅装置を受け取り、すぐさまに背負う。
その間、ダリア、レイナ、メグタンの聖女3人娘が1立方センチメートルほどの
小さい防護障壁の檻を作りそれぞれダリオの矢に固定し、その小さな檻に
アイリスがエクスプロージョンを凝縮していく。檻は信管代わりに衝撃で
解除する魔法が付与されている。
「 視力強化最大、。。。。よし、既に成層圏だが捕らえたぞ。
ラピッドアロウ、届けっ!! 」
ダリオの弓から矢は放たれた。この時点ですでに2分が経過していた。
全員が固唾を呑んで待ち続けていた。
『 クロエ、ダリオ、コジョウ、後の事は頼んだぞ 』
「 何よ、まだだめと決まった訳じゃないわ。イワタテらしくないわよ。
私達に最後まで諦めるなとさんざん言ってきたじゃないの 」
クロエが俺をなじる。
『 アイリス、ステアとトーレスの事を頼んだぞ。
ハナ、今までいろいろ有難うな 』
アイリスは光の壁の前で泣き崩れ、ハナは最後まで光の壁を壊そうと
鉤爪を壁に叩きつけていた
「 ボクいい子にするから、パパ、行っちゃやだよぉ 」
2分50秒経過した時、ダリオがガッツポーズした
「 よっしゃ、宇宙船を破壊したぞ、。。。えっ壁が消えない 」
一瞬の歓喜が絶望に変わる
『 何も死ぬ訳じゃないみたいだし、生きてりゃどこかで会えるさ
みんな世話になったな、愛してるぜ 』
と言った瞬間、視界が真っ白になった。
脳裏に、これまでのこの異世界と思っていた惑星シノップで過ごした
6年間の事が走馬灯のように蘇る。俺にやれるだけの事はやったので心
残りはない。唯一、ステアとトーレスにお別れを言えなかったことぐら
いか。
ジェイコブヤコブが宇宙船とともに消滅した事により、1000年後の
次のアケメネス人が来るまでは、強敵認定されることはない。それに
カタミザワのような洗脳スキルでアケメネス人を洗脳できれば、偽の
報告を本国にさせることにより、永久に強敵認定を免れることができ
る。この辺は、ダリオかミーシャぐらいが思いついてくれるような
気がするが。
それに、転移先で転移装置を使ってシノップに戻って来れる可能
性もある。4年おきの星間転移という呪いのような代物も解除できる方法
が見つかるかもしれない。俺は前向きに考える事にした。