第4話
桜舞う春。私立桜舞学園高等部に特待生として入学した白川薫。真新しい薄いピンクのワンピースタイプの制服に身を包んだ彼女は悩んでいた。一枚の部活勧誘チラシによって。
『喫茶部部員募集中!執事やメイドになって社会勉強!バイト代あり』
(この学校、バイト禁止じゃ…でも、これが事実なら!お金稼ぎができる!)
薫はぐっと右手に力を込めて一つうなずくと入部届を職員室に向かった。
「このクラスに白川って子いる?」
薫が入部届を出した次の日の昼休み、長い黒い髪をそのまま揺らしながら女子生徒が来た。
「あ、はい。自分です。」
薫はクラスの入り口に立つ女子生徒に近づく。胸元のリボンが青だから三年生だろうと薫は検討を付けた。ちなみに薫達、一年生は赤いリボンだ。
「喫茶部の副部長で三年の青島凛よ。今日の放課後空いてるかしら?」
はきはきとした声が印象的だ。
「白川薫です。放課後は空いてます。」
薫は頭を下げた。
「よかった。迎えに来るから待っててくれる?面接したいのよ。」
「面接…ですか?」
「そう。ほら、一応客商売するわけだし、面接は大事でしょう。」
「そう…ですね。」
凛のにっこりと断れないような威圧に薫は戸惑いながらうなずく。
「じゃ、後でね。」
(なんだか、面倒な感じがしてきたな。)
去って行く凛の背中を見ながら薫はそんなことを思った。
「白川さん、先輩が呼んでるよ。」
薫が顔を上げると入り口に凛がいて手を振っていた。
「ありがとう。」
声をかけてくれた女子にお礼を言って薫は席を立った。
「お待たせしました。」
(わ、先輩。昼休みと印象違うな。)
「ううん、こっちこそ待っててもらってごめんね。じゃ、行こっか。」
「あ、はい。」
凛の恰好は昼休みの時と違い、ズボンにワイシャツ、ネクタイにベスト。そして、髪は高く一つに縛ってボーイッシュになっていた。そんな凛に薫はついて行ったのだった。
コンコン。
「失礼します。」
「どうぞ。」
薫を連れて凛は『面談室』に入る。
「新入部員の白川薫を連れて来ました。」
中には無精ひげや髪がぼさぼさの教師と思われる男性が一人待っていた。凛の紹介で頭を下げる薫。
「はじめまして、喫茶部顧問の赤塚雅人だ。」
「白川薫です。」
「ま、とりあえず座って。」
「はい。」
雅人と向き合うようにテーブルの向かいに座る薫。凛は雅人の隣に座った。
「今日は私と赤塚先生が面接をするわ。」
「っつても、少し質問に答えてほしいだけだ。」
「質問…わかりました。」
凛と雅人の言葉にうなずく薫。
「じゃ、喫茶部に入ろうと思った理由教えてくれるかしら?」
「バイト代が欲しいからです。つい先月に父が事故で亡くなりました。自分は特待生で学費は免除ですが、まだ下に弟と妹がいます。だからお金は貯めておいて損はないかと思いました。」
「…そうか。大変だったな。でも、所詮喫茶部は部活に過ぎない。バイト代も少ない。それにいくら学園がバイト禁止だからって保護者の承諾があればバイトはできるぞ?」
雅人の言葉に薫はテーブル下で手を握りしめた。
「…母は自分にバイトで学生生活を埋めて欲しくないんです。青春を謳歌しなさい!そう言われました。でも自分は母と弟達を守りたいから!だから、喫茶部のチラシを見てこれなら!って思いました。」
薫の目は決意に満ちていた。
「…赤塚先生、私は白川とならみんなも上手くやれるかと思います。」
「うーん、まあ、そうだな。白川、身長は?」
「162cmです。」
立ちながら言う薫。
「よし、白川、お前は今日から執事だ。」
「は?」
「だから、喫茶部は部員が執事とメイドになるんだよ。青島、予備の衣装着せてやれ。」
「わかりました。行くわよ。」
薫が理解できないうちに話は進み、薫は凛に衣装、執事服を押し付けられ女子更衣室に連れて行かれたのだった。
薫も入部して一週間も経つと大分慣れてきた。
「ねえねえ、そういえばシロちゃんが入部してきた理由ってなんなの?」
営業が終わり、片付ているとき京志郎が聞いた。
「…しいていえば、バイト代が出るからです。」
「そ、そうなんだ。」
にっこりきっぱり言い切った薫にそれ以上は聞けない京志郎であった。