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ビター・ヴェルヴェッツ  作者: 藤出雲
3/3

(後編)

「…あ」

講義が終わり、講堂を出て廊下から中庭の売店へ向かおうとした時、真と春奈がたまたま出くわした。同じ講堂から出て来た様だ。

「能村先生、受けてたの?」

意外そうに、春奈が呟いた。

「…好きで受けてる訳じゃないよ。四月に雄一郎が、面白そうだから一緒に受けようとか言うから付き合っただけ。そのあいつは最近もう、全く顔出してないけどね…」

「そうなの。貴方達らしいわね。…ちょっといい?」

中庭の売店ではなく、大学の正門の方へ目配せして春奈が言った。

嫌な予感しかしないが、断る理由が無い真は素直に従う。何で今日はこれからバイトが無いんだ、とすら思ったが。

「今日は黒猫じゃなくていい?」

少しだけ明るい口調で、春奈が案内した先は、彼女がよく行くらしい紅茶専門店だった。学生の懐でも無理なく飲めるメニューが多いのが良い。

真はニルギリ、春奈はディンブラを頼んだ。

「…」

何を話して良いのか解らず、真は紅茶が来るのを落ち着かない様子で待つ。

「本当に、よく理解しているみたいね。凄いと思うわ…」

唐突に、そして呆れた様に春奈が言った。

「…?何の事?」

「この間の話。どうなるか解らない、って事が解っていた貴方が凄いって言ってるの」

春奈が言うには、その後の話もどうやら彼女の…というよりは、全員、思った通りにはいかなかった様だ。

つまり、美咲と雄一郎は結局、付き合う迄に至らなかった事。かと言って、春奈と雄一郎が付き合う事になったかと言えばそうではない事。

「誰かから聞いたんだけど、雄一郎から告白された美咲は、随分慌てたみたい。「私なんかが付き合っていい人じゃない!」って。…美咲の中では、あくまで彼はアイドルみたいな位置だったみたい」

それでか、と、真は思った。

あれから、えらく落ち込んだ雄一郎がいきなり部屋にやって来て、一晩飲み明かしたからだ。相変わらず、妙なふられ方をする奴だ…と、真は思った。


「変に計算して、同じゼミの子を悪く言って…何してたのかな、私」

笑いながら、届いた紅茶を一口。

「…まあ、そこで落ち込んだ雄一郎をどうにかしようと迄は思わないのは、横山さんの良いところだと思う」

「酷い事言うわね…流石にもう、そこ迄はしないし、出来ないわよ。私だって罪悪感や反省はあります」

「はは…成程…」

「…久住君にも、悪かったなって」

ふいに、春奈がカップを置く。

「ん?何が?」

「だから、黒猫で色々聞いて貰ったじゃない?」

「ああ…そんな事…いいよ、別に。カレー旨かったし」

「ありがとう」

「どういたしまして」

風が、かたかたと店の窓を揺する。

「ちょっと寒くなってきたかな?」

春奈が言って、紅茶を最後迄飲み干した。

「最近珈琲ばかりだったけど、たまには紅茶もいいね。意外と…」

真が席を立ちながら呟いた。


「意外と…?」

不思議そうな顔をして、春奈が聞き返す。


「いや、何でもないよ。行こうか。明日はゼミ発表だよ…」

意外と、苦いものだな。

言いかけて、真はやめた。


親友である雄一郎と自分は、性格も好みも、あらゆる全てが正反対。

だからこそ、うまが合っている。

そう、思っていた。


しかし。


見方や考え方や、価値観…そんなものが確かに違っていても。


計算し、計画し、他の女の子を貶めて。

そうかと思えば相手の考えが読めなくなって、弱音を吐いて。

罪悪感が無いかと言えば、そうでもなく。

最後は思わずブレーキを踏んでしまったり。


そんな春奈は、まさしく雄一郎が言うところの「頑張る女の子」ではないのだろうか。


「まあ…見る目は無いな…相変わらず、あの馬鹿は…」


そんな風に。


頑張る女の子が可愛いな、なんて思うのは、真も同じであった…というお話。


END

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