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大食乙漢

何か食べてるとき、それをじっと見られたら、なんか気まずい。

 ―――はむ、はむ、はむ、はむ



 最近の銅像はパンを食べるのか……って、そんなわけあるか!


 銅像の前で一心不乱にパンを食べている女子を見つけました。ゆっくりと食べているのならそんなにおかしなことではなかったんだけど……この大食乙漢たいしょくおとめちゃんはその小さな体のどこに入っているのかと疑問に思うようなハイペースでパンを貪って……失礼、食べている。


 ―――むぐ、むぐ、はむぐ、むぐ


 彼女は、小柄な体で線も細い、ぱっと見やせ型のように見える体型だ。肩掛けのバッグも持っており、色はファンシーながら快活な印象を与えるような色だ。服も同じような継投でまとめられている。ちっちやかわいいマスコット、といった印象である。


 ―――ぱむ、はむ、むぐ、ぱはむぐ


 そんな見た目なのに軽く狂気を覚えるレベルの食べっぷりである。あっという間に大食乙漢ちゃんの手に持っていた『ただひたすらに長いコッぺパン』は彼女の胃袋に収まった。



 ってどんな商品だよ! 軽く一メートルはあったパンが早送りのような速度で吸収されたことも驚きだけど、もっとひねろうよ……商品名ぇ……


 まあ見てる分には(怖いけど)気持ちのよくなるような食べっぷりだったな……たまにこんな面白い人がいるから人間観察は面白い。と言っても最近変人が増えていってる気がするけれど……


 なんて考えてたからか、僕は重要な場面を見逃してしまったのだ。


 ―――サクッ、サクサクッ、サクッ!


 ……なん……だと……どこに持っていたんだ、その『ただひたすらに長いクロワッサン』という先ほどのパンとあまり変わらない長さのクロワッサン!!


 大食乙漢ちゃんの持ち物にはそんなものが入りそうなものなんてないのに……ほんとにどこから出てきたんだ!? 怖い!


 ―――サクサクサクサクサクサクサクサケサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサタサクサクサクサクサクサクセケサクサクサクサクサクサクサケサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサ…………



 いや、もう、こわい……そんなにおいしいのか? それ? 周りの状況を全く見なくなるくらい? なんかヤバいものでも入ってそうで怖い……


 あとあり得ない擬音が入ってて怖い……なんだよセケって! どんな音だ!


 さらに恐ろしい所が一つ。これだけ貪り食う勢いで食べているのに地面に食べかすが落ちてない。つまりこのすべてを胃に収めんとしているわけで……食欲って恐ろしいいい!


 ―――サクッ、ごくっ! ぷはっ!


 呼吸くらいはしようよ! なに、一気飲みならぬ一気食い? でも呼吸を止める必要はないよね?


「ふう……おいしかったの」


 まあ……すごい食べっぷりでしたからね……


「……おそいの。すぐ戻るって言ってたのに」


 あ、この大食乙漢ちゃん誰か待ってたんだ。その待ち時間に一メートル超えるパンを二本(個、ではない)も食べるとか、なんだろうな、人間の三大欲求の一つに支配されてそうだと感じるよ……


「……おなかすいた」


 ………………………は?


 ―――ゴソゴソ、はぷっ!




 今ありのまま起こったことを説明するぜ? 合計二メートルのパンを食べた後、『おなかすいた』なんて口走り、明らかに小さなカバンから新たにパンを取り出したんだ。それもまた同じような長さの……



 どこから突っ込んでいいのかわからん!!


 ちなみに今回のパンは『ただただ長いパン』である。せめてどんなパンかくらいは示そうよ!! 商品名ぇ……ちなみに僕もどんなパンなのかは分からない。ただただ長いパンである。それだけだ。


 ―――はむ、はむ、はむ、はむ、はむ、はむ、むぐむぐむぐむぐ、ぷはっ!


 だから、呼吸! それくらいは忘れないで!


「はあ、つい夢中になちゃう……はむっ」


 せめて学習して!!


 ―――はむはむ、ぱむぱむ、むぐむぐ、むいむい……


 こうして大食乙漢ちゃんはパンを食べつくしていくのだった。



  ~~~~




 ほんとに狂気の時間だった……あれから、カバンの中からさらに『ただただ長いパン詰め合わせ五本セット』というどんな層をターゲットにしたのかよくわからないパンが出てきて、すでに三本完食している大食乙漢ちゃんが普通に食べ進めていくという恐怖映像を見ていた。たった今、合計八本目がその小さな体に消えたところである。大食乙漢ちゃんぇ……


「……ほんとに遅いの。置いて行ってくれたパンがなかったら飢えてたの」

「悪かったって」


 そして、どうじに大食乙漢ちゃんの待ち人が戻って来た模様です。


「いいの。許す。パンを置いて行ってくれたから」

「……何本食べた?」

「八本」


 何というか……ドヤッてるけどもドヤるとこじゃないと思うんだ。


「頑張って早く戻ってきたかいがあったな」

「さすがに十五本は多すぎだと思うの」

「前、同じような時、十本食べてそれでもおなかすいたって言って、戻ってきた俺に襲撃したくせに……」

「だけどおなかすいた」

「分かったよ」



 ……………はっ?


 八本で、少なめだと? 急いで戻ってきたという彼の手には買い物袋が。主夫君(待ち人の仮名だ)は大食乙漢ちゃんの世話をしてるのかな? なんか苦労してそうだ。


 ……現実逃避ですね。いや、うん。なんていうか、この一言に限るかな?



 食 い す ぎ だ ろ う が !



 ふう。スッキリした。


「今日は軽く魚だから」

「おなかすいたの。はやくね?」

「分かったって」


 ありえない食欲を持つ少女は主夫と共に去って行った。



 おまえ、パン八本も食っておいてまだ食うか!!!

このお話はフィクションですので、カバンからあり得ないサイズのパンが出てきても気にしてはいけない。


サク、でゲシュタルト崩壊を起こしかけました。



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