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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

DEM

 環境汚染が急速に進み、人類は住む場所を失っていった。

 森林は姿を消し、動物達は一部を残して皆絶滅の道を辿って行った。

 残された僅かな人類は、突如としてもたらされた人型搭乗戦略兵器『DEM』によって再び戦争を始めていた。




 






《アリス・ヴェルスエル!応答しなさい!アリス・ヴェルスエル!!》


 通信機器のスピーカーから女性の声が響いている。

 どうやら通信相手の事を気にして焦っているようだ。スピーカーが音割れを起こす手前程の大声で必死に名前を呼んでいる。

 その声に反応したのかゆっくりと体を起こした女性が通信機器のマイクのスイッチを入れた。


「こちら、アリス・ヴェルスエル。聞こえてるわ、そう怒鳴らないでよ。オペレーターの貴方がそんなに焦ってどうするの」

《アリス・ヴェルスエル!!生きているのならさっさと返事をしなさい!》


 再び通信相手であるオペレーターと呼ばれた彼女から怒鳴られたアリス・ヴェルスエルは通信機器のスピーカーの音量を幾分か落とす。

 アリスはとても麗しい姿をしていた。腰まである銀髪に青い瞳、高い身長に白い軍服に包まれたスレンダーな体。こんな時代では無ければ世界一の美女として注目を集めていたであろう。

 そんな彼女はオペレーターの怒鳴り声に呆れたように頭を片手で掻いた。


「怒鳴らないでって言ったのに、まあ良いや。それよりも状況は?」

《貴方って人は……っ!状況は先程までとは対して変わっていませんが、貴方の機体から送られてくるデータを参照すると右腕と背部のスラスターも幾つか潰されました》


 オペレーターはアリスの様子に再び怒鳴りそうになったが自分の仕事を果たす事を優先したようだ。

 そして、彼女の言う通りアリスの乗るDEM機体『白き疾風(ホワイト・ゲイル)』は白を基調としたスマートな機体だ。だが今は見るも無残な姿へと変わっている。

 白い装甲は荒野の砂埃や損壊し炎上するスラスター等のパーツから流れて来る煤で汚れていた。右腕は肩ごと無くなり、大小合わせて全一六基もの背部スラスターは半分以上が損壊し炎上の真っ最中だ。

 機体の所々からは火花が散っており、傍目から見れば完全にホワイト・ゲイルは戦闘不能に陥っていた。


「戦闘続行は不可能と判断した方が良いのかしら」

《当たり前です!寧ろそんな状態で戦闘続行なんてしたら確実に死にます!》


 アリスもコックピットに設置されたモニタで確認したがオペレーターの言う通り、既にホワイト・ゲイルは戦える状態ではない。帰還することがやっとの状態だ。

 モニターから見える景色は砂漠に飲まれた廃墟のビル群と吹きつける砂埃が広がっている。センサー等の観測パーツは辛うじて生きているらしく風速約3mという情報をモニターの端に表示していた。


「でも、敵さんは逃がしてくれないんでしょ」

《敵DEMは先程の交戦場所から動いては居ませんが、逃走すれば確実に追ってく来るでしょう》


 ホワイト・ゲイルをここまで追い詰めたアリスの敵は彼女の居る場所から此処から3km程度しか離れては居ないのだが裏を返せばそれだけの距離を吹っ飛ばされたのだ。

 しかもホワイト・ゲイルは廃墟となったビル群の中へと突っ込むことで停止していた。もしビル群が無ければ更に吹っ飛ばされていただろう。


 3kmも離れてはいるが、DEMに搭載されているレーダー等の類の前ではその程度の距離などほぼ無いに等しい距離だ。


「脱出ルートの検討は?」

《現状選択できる二五一のルートを既に検討済みです。しかし、計算上どのルートを選択したとしても敵DEMに追いつかれ攻撃されるか、途中で機体が損壊します》

「そう……」


 ホワイト・ゲイルが敵DESに吹っ飛ばされてからまだ三分と経ってはいなかったが、その僅かな時間の間に二五一もの逃走ルートを検討したオペレーターの彼女もかなり優秀な人材なのだろう。

 だが、アリスがこのまま生存出来る確率は途轍もなく低かった。


「救援とかは期待できる?」

《今現在、我々の下に所属しているDEMは全て別任務に出ています。一応、一番近くに居たDEMに救援を要請しておきましたが……》


 そこまで言って黙ってしまったオペレーターにまた呆れたようにまた頭を掻くアリス。もしかしたら彼女の癖なのかもしれない。


「期待は出来ないってことね……」

《どれだけ急いでも三時間は掛かるそうです》

「遅くない?それまでにあちらさんが攻撃を仕掛けてこないなんて保証は無いのに」

《我々の下で一番速い貴方がやられてますからね。二番目の彼女は最悪な事に此処から一番遠い作戦エリアで数日間の偵察任務中だそうです》

「何とも間の悪いことね」


 アリスとオペレーターはこのまま雑談でもしながら救援が来る三時間が過ぎれば良いと願っていたが、誰もが一度は身を持って経験する言葉道理――


《っ!!敵DEMの駆動音増大!来ます!!》


 ――現実は非常である。



 ホワイト・ゲイルを三kmも吹き飛ばすほどのパワーを持った敵DEMがゆっくりとではあるが確実にホワイト・ゲイルの方へと向かって来ている。

 コックピットのモニターから見えるその機体は迷彩色を基調としたホワイト・ゲイルと同じく機動性を重視した機体だ。

 スラスターの多いホワイト・ゲイルとは違い、スラスターは背後に取り付けられた大型のスラスターが四基と前面の腰の辺りに付いている姿勢制御用の小型バーニアが二基だけだ。普通のDESならこの数が普通なのだがホワイト・ゲイルの一六基のスラスターを見た後ではどうしても少なく感じてしまうだろう。

 機体に取り付けられた武装は両腕に装備された自身の機体よりも遥かに大きなパイルバンカーがメインウェポンとなっている。それ以外の機体のパーツは機動性を少しでも上げるために装甲を最小限にまで削って軽量化されている。どう考えてもパイルバンカーを放てばその反動で自滅しかねないアンバランスな機体である。


「どうする?玉砕覚悟で特攻でもする?」

《何を言っているんですか貴方は!?》

「このままじゃやられる事には変わらないんだし、だったら腕の一本や二本ぐらいもぎ取ってやりたいじゃない」


 アリスはそう言うとホワイト・ゲイルのシステム操作を開始した。


「システム再起動。その後使えるパーツと使えないパーツの選別、それと同時進行で敵DEMの情報更新0.1秒毎ね」

《貴方は…っ!パーツの選別、情報更新は此方で担当します。アリス、貴方は身体チェックを》

「りょーかい。りょーかい」

 

 オペレーターにホワイト・ゲイルの索敵情報等を送信するとコックピットに備え付けられたDEMのシステムを弄り、再起動を選択する。するとホワイト・ゲイルのシステムが再起動のため機体の全エネルギーラインをストップし機体ががくりと項垂れるが、コックピットのモニターにシステムメッセージが表示されるとゆっくりとその頭を上げる。


【全システム再起動を開始します】


 そのシステムメッセージが消えるとモニターも再起動し外の景色が再びコックピット内に表示された。


【システム起動開始……起動しました。これより戦闘(バトル)モードに移行します】


《敵DEMは尚も接近中。距離約二千。身体チェックは終わりましたか?》

「終わったわよ。幸いなのか首をちょっと傷めた程度で済んだわ。それにしてもあと二千ね……武装のチェックは終わってる?」

《既に完了しました。データは送信しておいたのでチェックしてください》

「はいはい」


 モニターに表示されるオペレーターから送信されたホワイト・ゲイルの現時点でのデータをアリスが素早くチェックする。


「スラスターが六基大破で四基が一部破損と回路切断って、実質六基しか動かないって事ね。武装も……残ってるのはガトリング砲が一二九発だけって……」

《右腕をもがれた時に大半の武装はその時潰されましたから、残っていた他の武装もビルに激突した際に使い物にはならなくなりました》


 アリスがモニター越しに左腕を確認するとホワイト・ゲイルの左手には機体と同じ白色の塗装が施された大型のガトリング砲が握られている。

 本来は牽制用と近接戦闘に持ち込まれた時に使用する武装で、基本的には右腕に装備された武装でアリスは敵に勝利してきた。

 だが、その武装はもう此処には無い。


「じゃあ、ここは颯爽と助けに来てくれる白馬の王子様でも期待しようかしら」

《貴方が白馬の王子様を信じる人なものですか》

「良いじゃない。こんな状況なんだからそれぐらい期待したくなるじゃない」

《アリス……》


 オペーレーターが黙ってしまったがアリスはその事を特に気にせず、目を閉じて今から起こる戦いに思いを馳せていた。


(これが私の死に様か…出来ればもう少しマシな場所で死にたかったわね。まあ、自分の死に場所なんて選べる事の方が少ないものよね)


 アリスは此処で死ぬことを覚悟していた。そして、その覚悟が有る事をアリスの言葉からオペレーターも気づいてしまった。

 最早、アリスが此処で死ぬことは逃れられない。少しでも厨二病を患っている人ならばこの状況を逃れられぬ運命とか何とか言うのだろう。

 だが、そんな事はアリスには最早どうでも良かった。自分の命尽きるその時までに少しでも多くの損害を相手に与える事しか最早頭にない。


《アリス、敵DEM此方との距離1kmを切ったわ。準備してください》

「はいはい。それじゃあ始めるとしましょうか」


 ホワイト・ゲイルの生きている左右それぞれ三基づつのスラスターを軽く噴かせて生きている事と調子を確かめる。

 アリスの覚悟に応えるようにスラスターは絶好調の勢いで噴いている。


「アリス・ヴェルスエル――」


戦闘(バトル)モード移行完了。これより戦闘を開始します】


 アリスの言葉と共にシステムメッセージが表示される。

 そのシステムメッセージを確認したアリスは苦笑いを浮かべつつホワイト・ゲイルの操縦に自身の神経を集中させる。


【貴方に勝利の疾風があらんことを】


 それはかつて、厨二病を患っていたアリスのオペレーターが設定したメッセージだった。






『流石にこれは驚きだな。まさかまだ戦う気でいるとわな……』


 砂漠に飲まれたビル群の存在する荒野で二機が向かい合う。

 近づいて来た敵DEMのスピーカーから聞こえて来た第一声はそんな言葉だった。

 ボロボロになった機体のスラスター噴かせてビル群から抜け出して来たホワイト・ゲイルの姿を見れば誰もが同じことを思うだろう。


『しっかり当たってはいないから生きている事は分かっていた。だが、そんな姿になってでも戦おうとするとは…流石DEM乗りと言ったところか……』

「不思議ね……」

『むっ?』

「褒められても嬉しくないなんて初めてよ」

『そうか、ならば……』


 そこまで言うと敵DEMの両腕に装備されたパイルバンカーの安全装置を解除する音が荒野に響く。

 同時にホワイト・ゲイルも残された左腕に装備したガトリング砲の安全装置を解除する。

 どちらも臨戦態勢に入ったが、どう考えても勝負の結果は見えている。


 だが、アリスの決意はその程度では揺るがない。

 アリスの頭の中には敵DEMのパーツを一つでも多く潰すことだけしかない。


 そして、敵DEMのパイロットが名乗りを上げる。


『この俺、ガルス・クロウとその機体――』


 その男が乗るのは長きに渡る環境汚染に耐え切れず地球上から姿を消した森林の王者を名乗る機体。


『――『森林の王者(キング・フォレスト)』が祝ってやろう。貴様の、人生の最後をっ!!』

「お断りよっ!!」


 此処に二機のDESの戦いの火蓋が切って落とされた。






『行くぞっ!!』


 最初に仕掛けたのはキング・フォレストだった。

 両腕に装備されたパイルバンカーの重量を感じさせない程の加速力と速度で一気にホワイト・ゲイルへと向かって行く。


 この加速力と速度こそが、ホワイト・ゲイルの右腕をもぎ取った原因の一つだ。

 見た目で機動型だとは分かっていても油断してしまったアリサはあっという間に距離を詰められ咄嗟に回避をしたが右腕をパイルバンカーで撃ち抜かれ、3kmもの距離を吹っ飛ばされたのだ。


「二度も同じ手は食わないわよ!」


 しかし、アリサは優秀なDEM乗りだ。一度見た敵の行動に対して冷静にスラスターを起動し即座に右斜め前へと機体を滑るようにドリフト移動させる。


『ほう…流石にそれぐらいの考えは有るようだな』

「無かったらさっきのでくたばってるわよっ!」


 特に機体等に不自由がなければ普通は真横に避けるものだが、アリサは敢えて前へと回避行動をとった。

 真横に避けただけでは相手は機動型と言う事も有り、直ぐに次の攻撃が来るが敢えて前へと行くことで相手が追撃を仕掛けるのならば旋回しなくてはならない状況に持ち込んだのだ。そうすればキング・フォレストは旋回中という隙を作らざる負えない状況になる。

 アリスはこの一瞬の隙を作るために先を読んで、この回避行動をとったのだ。


 ドリフトしながら移動した理由だが、普通に右斜め前へと移動した場合敵に近づく事になってしまう。そうしたらその距離はキング・フォレストのパイルバンカーの間合いに入ることになるのだ。それを避けるためにドリフト移動をすることでキング・フォレストの間合いに入ること無く移動を済ませたのだ。

 しかも、右方向へと移動することで唯一残った左腕と左手に握られたガトリング砲を即座に発射できるようにしたのだ。


 互いに一度動いただけで圧倒的に不利な状況からここまで巻き返すことにアリスは成功したのだ。


「さあ、今度は此方の番よ!」


 生き残った六基の内の四基を噴かせて一気にキング・フォレストへと近づくとガトリング砲を撃ち始める。

 ガトリング砲の威力をなるべく発揮できて尚且つ、敵のパイルバンカーの間合いに入り込まないギリギリの距離を保ってアリスは攻めこんだ。


『舐めるなよ小娘がっ!』


 勿論キング・フォレストもただやられている訳ではなかった。

 機動型の圧倒的加速度でホワイト・ゲイルへと間合いを詰めていく。


 だがホワイト・ゲイルがそれを許すはずもなく、例えキング・フォレストの間合いに入ってしまったとしてもパイルバンカーは当然狙いをつけて撃つものでどれだけ熟練の腕を持ってしても一瞬、0.01秒未満の極々僅かな隙が生じてしまう。

 アリスはその隙を突いて、ホワイト・ゲイルのスラスターを微調整しながら間合いから逃れつつ同じ距離を保つという常識はずれな技術で回避をしているのだ。

 この技術はDEM乗りなら誰でも出来るという訳では無く。機動型の、それも全DEMの中でも最高速度を叩き出す機体に乗り続けてきたアリスの経験が生んだ技術なのだ。

 しかも、片腕をもがれていることがこの状況ではプラスの要素になった。片腕が無いことで機体の重量が僅かに軽くなっているのだ。この僅かな軽量がこの状況を乗り切る為のプラスの要素になっているのだ。


 そして、アリスが撃ち続けたガトリング砲が遂に目に見える効果を生み出した。


『何っ!?』

「よしっ!!」


 アリスが撃ち続けたガトリング砲の数発がキング・フォレストの左腕に装備されたパイルバンカーの炸薬を撃ち抜いたのだ。

 当然だが、撃ち抜かれたパイルバンカーは爆発し炎上した。


 轟々と燃え上がるキング・フォレストの左腕を見たアリスは、僅かな勝利の可能性を見出そうとしていた。


『ちっ!小娘と侮っていたのが間違いだったか……』


 その言葉と共に生み出される音はガルスがキング・フォレストの尚も炎上を続ける右腕をパージした音だ。


『だが――』


 そして、機動型の特徴の一つとしてその細い片足を後ろに振り上げ、


『――茶番(ままごと)は、これで終わりだぁあっ!!!』


 パージした右腕をパイルバンカーごとアリスに向かって蹴り飛ばした。


「甘いわっ!」


 飛んで来るギリギリ原型を留めている炎上したパイルバンカーと右腕をどう扱うか悩んだもののアリスが取った行動は至って単純なものだ。

 ただ、避ける。それだけだ。機体の右足を後ろに下げて、前から来た人を避けるようにアリスはその攻撃を避けた。避けて再び機体を戻してキング・フォレストの方へと機体を向ける。


 だがその選択は間違いだった。


「っ!?ぐはぁっ!?」


 突然、後ろから謎の衝撃がホワイト・ゲイルとそのパイロットであるアリスを襲った。

 余りにも突然過ぎて思わずアリスは振り返ってしまった。


 振り返った先に有ったのは、今避けた――最早原型を留めてはいないが――キング・フォレストの右腕とパイルバンカーだった。

 アリスの撃ったガトリング砲によって損壊して炎上をしていたソレが、最後とばかりに派手な爆発を起こしたのだ。

 その結果、爆発による爆風で吹き飛んだ右腕とパイルバンカーのパーツの一部がホワイトゲイルの背後に叩き込まれたのだ。


 しかも、この爆発が生み出した被害はそれだけではなかった。


《アリス!!》

「何!?今戦闘中よ!」

《いいから聞いて!今の衝撃で無事だったスラスター六基の内二基が半壊したわ!》

「なんですって!?」

《しかも残りの四基の内、二基との回路に異常が発生してるわ。実質残っているスラスターは二基のみよ……》

「そんな……」


 ホワイト・ゲイルは機動型としては破格の装甲を積んでいる。しかしそれは全一六基ものスラスターを積んでいるホワイト・ゲイルだからこそ出来るのだ。

 いくら機動型と言っても普通スラスターは大型が四基とバーニアが二基程度。しかし、ホワイト・ゲイルは敢えて大量のスラスターを積むことで武装や装甲の重量をカバーする事に成功した。

 だが、当然一六基ものスラスターを積むからにはデメリットが存在する。その内の一つが回路の虚弱性だ。

 虚弱性と言ってもそこまで酷いものではない。他の機体に比べてその回路にのみに強い衝撃を受けると回路が破損する可能性が大きいという程度だ。

 言わば、ホワイト・ゲイルのスラスターは一番の利点であり、一番の弱点でもあるのだ。

 無論、ガルスもその弱点については知らないが、ガルスはスラスターを一つでも潰せれば儲けものとばかりにこの行動をとったのだから。


 そして、ガルスの本当の狙いは此処からだった。


《っ!?敵DEM内部エネルギー暴走状態!何か来るわ!気をつけてっ!!》


 アリスがその言葉を聞いて目を向けるとキング・フォレストの姿が変わっていた。

 迷彩柄の緑の装甲に身を包んでいたキング・フォレストはその装甲の色が緑から赤へと変色し機体の彼方此方からは湯気とそれに混じって煙が上がっている。

 明らかに機体のスペックを無視してオーバーヒートを起こしている。


『喜べ小娘、これヲ、じっセンで、つかウのハ…おまエ…が、はジめ、て、だ……っ!!』


 機体の処理能力が追いついていないのか聞こえて来る音声もノイズが掛かり、遅れて聞こえる。

 このままではキング・フォレストは爆発を起こす可能性もあるだろう。


 しかし、アリスやオペレーターのそんな考えを覆すかのようにキング・フォレストの機体に更に変化が生じた。


 右腕だけとなった機体の右手の指を真っ直ぐに伸ばすと指先から小型のミサイルが発射されたのだ。


《アリス!発射音、数5!回避して!》

「無茶言うわねっ!」


 しかし此処で一つの問題が発生した。ホワイト・ゲイルの残った二基のスラスターの内一つは腰の部分に取り付けられた移動用のスラスターだが、残りの一つは移動用では無く、姿勢制御用の小型バーニアなのだ。

 先程も説明した通り、ホワイト・ゲイルは他の機動型に比べて装甲が厚い。それをスラスターの数で機動力を補っているのだが、肝心のスラスターの殆どを潰されてしまった今、ホワイト・ゲイルは標準的なDEMの速度すら出せない状態となっている。

 しかも、下手に動けば今度こそ残りの二基のスラスターも潰されてしまう可能性がある。


 だから、アリスは下手に動かず飛んで来る五発のミサイルを迎撃することにしたのだ。


「落ちろっ!」


 キング・フォレストの左腕のパイルバンカーを潰した時に撃つのを止めていたガトリング砲の火を噴かせ、ミサイルを迎撃すべく次々に撃ち出される弾丸。

 五発の内の一発を撃ち落とした瞬間、アリスが次のミサイルを撃ち落とすべくガトリング砲をそちらへと向けた時だった。遂にアリスが恐れていた事が起きてしまったのだ。


「っ!?弾切れ!?」


 キング・フォレストと再交戦する際には既に一二九発しか残っていなかった弾丸が遂に底を突いたのだ。

 しかし、この状況で弾切れを起こしてしまうという普段のアリスなら絶対に有り得ない様なミスなのだが……。


(焦っていた…?この私が……?)


 アリスが思わず呆然としてしまうが、その最中にもミサイルはホワイト・ゲイルへと向かって来ている。


《何してるの!?早く迎撃して!》

「っ!」


 アリスが意識を再びミサイルへと向けるが、残り四発となったミサイルを撃ち落とす手段がもうホワイト・ゲイルには残されてはいない。

 だが、アリスは此処でとんでもない行動に出た。


「うぁぁあああああっっっ!!!!」


 弾切れとなり、使いみちの無くなったガトリング砲をミサイルへと投げ飛ばしたのだ。

 普通なら考えられ無い様な行動だが、アリスが取ったこの行動は何とか結果へと繋がった。

 投げ飛ばされたガトリング砲はミサイルの内の一発に当たり、結果的にミサイルを一つ迎撃することに成功した。


 だが、依然として三発のミサイルがホワイト・ゲイルへと向かって来ている。


「だったらっ!!」


 アリスはコックピットのコンソールを操作すると左腕を強制パージさせた。

 パージされ、地面へと向かって落下していくホワイト・ゲイルの左腕…だが、アリスはただ左腕をパージしただけでは無い。


「お返しよっ!」


 ホワイト・ゲイルの左脚でパージした左腕をミサイルへと蹴り飛ばしたのだ。

 奇しくもその行動は先程のガルスの行動と似ていた。だが、ホワイト・ゲイルが蹴り飛ばした自身の左腕はミサイルを一発では有るが撃ち落とすことに成功したのだ。


《アリス!ミサイル二発、尚も接近中。急いで!》

「だから、無茶言うわねっ!」


 左腕をパージした事でホワイト・ゲイルはたった一つのスラスターだけで何とか後ろへと下がることが出来た。

 残ったミサイルは二発。その内の一発を引き付けて、ギリギリの所で後ろに下がることで一発は回避する事に成功したのだ。

 

 だが、最後の一発は回避することが出来なかった。


「ぐっ!あぁ!」


 ホワイトゲイルの左脚に最後に残ったミサイルが当たり爆発した。

 此処でアリスにとって誤算だったのは、左脚は先程のミサイルを迎撃するために左腕を蹴り飛ばしたのだが、その時に装甲の極一部が損傷していたのだ。

 しかも、よりにもよってミサイルが当たったのがその損傷した極一部の部分だったのだ。これによりホワイト・ゲイルの左脚部は完全に使い物にならなくなった。


 左脚を激しく損傷し、膝をついたホワイト・ゲイルは最早完全に動けなくなっていた。

 最後に残っていたスラスターは先程の無茶な回避行動で完全にエネルギー切れを起こしている。

 姿勢制御用のバーニアではここから動くことすら儘ならないだろう。


『うぉぉおおおおおおおりゃぁぁあああああああッ!!!!!!』


 先程と変わらず、ノイズが掛かった声を張り上げながらオーバーヒートで真っ赤に染まったキング・フォレストがホワイト・ゲイルへと向かって来る。

 だが、アリスは動かなかった。否、動く気力すら残っていなかった。

 アリスは、此処で死ぬのだと完全に生きる事を諦めていた。

 通信機器からオペレーターの騒ぎ立てる声が聞こえるがアリスの耳には届いていない。

 キング・フォレストがパイルバンカーの射程距離内に入った時、アリスの心は何故か安らかだった。


(私は、此処で死ぬ。だから、私は…頑張った…よね……?)


 アリスは静かに目を閉じた。










『がっはぁあああっ!!!!!』

「え?」


 聞こえて来た痛みに悶え苦しむ声は自分自身から発せられた物では無い事にアリスは疑問を抱いた。


(何?なんなの?)


 声の正体を確かめるべく、目を開けてコックピットのモニターに目を向けたアリスは目を見開いた。

 そこに写っていたのはパイルバンカーを振り上げて此方に打ち出そうとしながら、胴体に大きな風穴が開い(・・・・・)ている(・・・)キング・フォレストの姿だった。


「何が…起きたの……」

《アリス・ヴェルスエル!応答しなさい!アリス・ヴェルスエル!!》

「聞こえてるわよ」

《っ!?全く!貴方という人は!》

「良いけどさ…何が有ったのか教えてくれない?」

《はぁ…キング・フォレストのエネルギー反応消失(ロスト)を確認しました。詳しい状況は此方でも分かりかねます》

「そう……」


 アリスが自然と力が入っていた体から力を抜くとコックピットの背もたれに体を倒した。


「まあ、何にせよ。助かったわね……」


 そんな事を呟きつつ再びモニターに目を向けると驚きの光景がアリスの目に入った。


「あれは……」


 それは此処から僅か五百mの場所にそれは居た。

 今となっては珍しいボロ布を被り機体を覆っていたが、機体の前面だけは確認することが出来る。

 機体の色は同じ白を基調したホワイト・ゲイルは違い、白一色で染められているようにも見える。

 だが、何よりもその機体を表しているのがその機体が両腕で抱えるようにして持っていたとてつもなく巨大なライフルだった。目視でしか確認できないが、その巨大さは唯でさえ大型のホワイト・ゲイル二機分にも匹敵する程の大きさだろう。

 しかし、そのライフルから立ち上る煙の色を見ればそれが只のライフルでは無い事が分かる。


「あれは…ビーム兵器?」


 かつて開発された兵器の一つでは有るが、そのコストパフォーマンスの悪さから世界中から嫌われた筈の武装だった。

 だが何故そんな兵器を持ったDEMが自分を助けたのかアリスには全く分からなかった。


 だが、その正体不明のDEMも砲塔の冷却が済んだのかその巨大なビームライフルを折りたたみ背中へと仕舞うと踵を返し、何処かへと飛んで行ってしまった。


 アリスはその正体不明のDEMが飛び去って行くのをずっと見つめていた……。






 そして…アリスとその正体不明のDEMは再び巡り合う。


 

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