春風が運んだのは
初投稿です。
春風が心地良い麗らかな春のある日、我が家の愛犬ぽんでと私は公園で散歩をしていた。ここに引越してきてから一ヶ月、近所に公園があることを知ってからはほぼ毎日通っている。
「いい天気だねぇ〜」
ぽかぽかと日光が当たり、ぽんでも眠たそうだ。
あまりにも気持ちよすぎてぼーっとしていた為か、前から歩いてきた人の気配に気付けず、思いっきりその人とぶつかり転んでしまった。
「す、すみません!」
「こちらこそすみません!お怪我はありませんか?」
そう言いつつその人は私に手を差し延べた。なんだか甘い香りがする。その手をとって顔を見上げれば、優しそうな男の子が困ったように微笑んでいた。
「大丈夫です、有難うございました。」
服についた砂を払い、お礼を言って恥ずかしさから立ち去ろうとすると、突然ぽんでが目の前の男の子に飛びついた。
「うわあっ」
「ぽんで!?」
男の子の甘い香りに反応したのだろう、ぽんでは尻尾を凄い早さで振りながら彼の匂いを嗅いでいる。
「こらっ!ぽんで!」
私が叱って引き離しても、ぽんでは「いやだ!」とでも言うように男の子の方へ駆け出そうとしている。
もう一度、すみませんと謝れば男の子は大丈夫ですよと微笑んだ。
天使だ…ここに天使がいる。
「多分、和菓子の匂いがするんだと思います、俺の家、和菓子屋なので」
「そうなんですか!?和菓子…!」
実は私は甘いものが大好きだ。
和菓子と聞いて思わず顔が緩む。だめだ、和菓子食べたくなってきた…。
「和菓子、好きなんですか?」
しまった!顔に出てたかな!?
「はい!甘いもの大好きなんです」
「それじゃあ、良かったらこれを差し上げます」
そう言って差出された小さな袋には桜の形のお饅頭が入っていた。
「可愛い…!でも本当に貰ってもいいんですか?ぶつかったり、ご迷惑をおかけしたのに…」
「はい、これ店の試作品なので誰かに食べてみて欲しかったんです、だから食べて感想をいただければありがたいです」
「それじゃあ、遠慮なくいただきます!」
ぽんでは騒ぎ疲れたのかいつの間にか眠っていたのでこれ幸いにとさっそくいただくことにした。
口に含めると餡の上品な味わいが口に広がる。
「凄く美味しいです…!」
「それは良かったです」
まろやかな風味を堪能していると「わんっ」という元気な声が下から聞こえた。あらら、起きちゃったか…ほんとはゆっくり味わいたかったけど急いで残りを食べることにした。
それから彼とせっかくだからとベンチで和菓子の話をしたり談笑した。さっき会ったばかりなのに彼と話すのは凄く楽しくてもっと一緒にいたいとまで思い始めていた。
ぽんでも彼に凄く懐いている。よっぽど和菓子の香りが気になるのかずっと彼の匂いを嗅いでいる、申し訳ない。
「そういえば、俺の家ここの近くなんです。」
「そうなんですか!?実は私の家も、この公園の近くなんです!」
近所という事実に驚きと嬉しさがせめぎ合う。
これはもしかしたら、また会えるのではないかと期待してしまう。
「あの…」
これ以上言っても良いのだろうか、会って間もないのにおかしく思われないかな。
それでも可能性があるのなら、
「良かったらまた会ってくれませんか!?」
「え?」
「あっやっぱり図々しいですよね!すみません…」
思わず言ってしまった言葉に後悔する。
「全然、寧ろ是非お会いしたいです。」
そう言って嬉しそうに微笑んだ彼に思わず見惚れてしまった。
どうしよう、嬉しすぎる。
「次は家の和菓子屋に是非いらっしゃってください」
「勿論です!」
即答しました。
ぽんでも尻尾を振りながら「わんっ!」と元気に返事をした。
春風が心地良い麗らかな春の日、私にも春が来たみたいです。