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僕の予備校説明会(3)

予備校の入学説明会場である講堂を出た。

受付に、自分達と前を行く二人組(片方は肩に担がれているが)が後ほど戻る旨は伝えた。

戻った時に説明会が終わっていても、資料くらい貰えるだろう。


スーミィと僕のバックパックは席に置いてきた。


貴重品は入ってないしね。

中身は着換えくらいだ。


着換えくらい?

となるとスーミィの鞄は貴重品で満載だな。

こう、白くてふわふわした布切れとか。昨日は洗濯してないだろうしきっと芳醇な…


「……はっ!」


いかんいかん。心が下着の海を泳いでいた。

先を歩く護衛さんのお尻に集中しよう。


護衛さんのお尻は素敵だ。

こう、下着のラインが透けるタイプのパンツ姿だ。

僕達より幾らか年上なのだろう。

こう、女性として完成系に近付いたお尻と言えばいいのかな。

大きいけど、大きすぎない。

それに、きっと鍛えているからだろう。揺れ方が美しいんだよね。

顔を埋めたい…。


「……はぁ」


スーミィがため息をつく。

横目でスーミィの様子を伺うと、ジト目が一瞬こっちを向いた。


いかんいかん、口が半開きになっているな。

涎も垂れていたかもしれん。表情を戻す。


講堂にかさばる荷物は放置してきたが、クソ重い革トランクは貴重品なので持ってきた。

ホントこれ重いな。金属製品が詰まってるからしょうがないか。

強化魔法を使えば楽に運べるんだけど、筋トレがてら辛抱して運ぶ。


護衛さんはヴィクトリア嬢を担いだまま淀みなく進む。

石畳の回廊ををカツカツと。

石造りの建物の角を曲がり、アーチをくぐる。


下調べしてあるのかな。構内図がきっちり頭に入ってるんだろう。

講堂から離れるすぎるのは気が向かないが、目立つ場所で立ち話もなんだしなぁ。


しばらく歩くと護衛さんは足を止めた。

ここは中庭だろうか。日除けテントの下にテーブルと椅子が並んでいる。

隣接する建物は食堂のようだ。ということは中庭というより食堂の屋外席だな。


足下の石畳も、食堂の入っている建屋も、テーブルも。全てが新しく清々しい。

空気には材木に漆喰。ニスや染料の匂いが混じる。

良い香りではない。だが今日という日には似合っているように思えた。


「うん。悪くない」


見上げた空は晴れている。

少し冷たい空気も、春を演出する装置と理解すれば心地よい。


「…そう?」


スーミィがジト目のままこちらを見た。


「うん。ありがとう、スーミィ」


予備校の存在を教えてくれたのはスーミィだ。

春からどうするのか、まだ決めていないが、昨日の夕刻からいろいろあったおかげで気は紛れている。

何か新しいことを始められそうな気分だ。


「ふふ。いいんだよ」


彼女の表情が少し柔らかくなった。

僕は手近な椅子を引きスーミィを座らせ、僕もその隣に座る。


ヴィクトリアさんはというと。

護衛さんの肩からするりと降ろされた。憤慨しながら仁王立ちしするも、乱れた髪と服を護衛さんが整えるに任せている。


なんか、護衛さんもヴィクトリアさんもこの流れに慣れてる気がする。


「良いところでしたのに!どうして邪魔するのです!」


「ひと通り終わるまでお待ちしましたよ」


護衛さんは事も無げに答える。

うむ、確かに良いタイミングではあった。


「ヴィクトリア様は良い声をお持ちですね。私も聞き惚れてしまいました」


そろそろいいかな?2人の会話に参加してみる。


「あら?分かりますの。リクエストいただければいつでも披露しますわ!」


ヴィクトリアさんは右手を腰に当て、左手の甲を口にあて…ようとして護衛さんに構えを崩された。


「何をしますの!折角…」


「おひいさま。説明会は9時からです。私もおひいさまの喉には感服いたしておりますが、シャルハル殿にお話があったのではありませんか?」


お話って何だ。僕とヴィクトリアさんって実技試験の時にちょっと絡んだだけだぞ。


あれが初対面の筈だし、幼少のみぎりにお忍びでシダスを訪れていたヴィクトリアたんとシャルハルきゅんが親睦を深め『けっこんのやくそく』をしたようなフラグにも心当たりはない。


「私に御用件が?爵位も持たぬ平民ですし、本来であれば貴門のヴィクトリア様にはお目通りすることすら叶わぬ身です」


「身分など!統一帝国では実力が全てですわ!

皇子、皇女と言えど、血脈だけでは政に参加する資格すら与えられぬのがアインハイトの掟!」


帝国は実力主義だと聞いてたけど、僕がイメージしてたのより随分厳しそうだな。


「よくお聞きくださいませ。私、この冒険者予備校に通う事にしましたの」


うん?

彼女の受験番号は14番だったと記憶している。確実に合格している。


「シャルハル殿が失格になるような入試、高貴なる帝国貴族である私には認められません。辞退してやりましたわ!」


フンっと鼻息荒いヴィクトリアさん。

えええ?なんて勿体ないことを。貴族様の考える事は理解に苦しむよ。


「私が認めたシャルハル殿が予備校で時機を待つのであれば、私も予備校に通うことが私の道理ですわ!」


すごい論理展開だな。帝国貴族ってみんなこうなのか?


「それに今回受験者が急増した理由、私がその一因ですし。

…このような結果になり申し訳なく思いますわ」


そっと目を伏せるヴィクトリア。


「おひいさまは帝国貴族の子弟に熱狂的な支持者を有しております。おひいさまがシダス冒険者学校に入るとの情報が洩れ、学友になるべく帝都から例年を数倍する受験者が集ったのです」


うんうん。と静かに頷くヴィクトリア。

そうか、それで受験者が多かったのか。

シダス王国は独立国ではあれど、帝国との繋がりは太いからな。国王も帝国出身だし。

定員の限られた冒険者学校に、コネやら賄賂やらをフル活用した大量の有力貴族の子弟を受け入れる。

無理があるな。かなり乱暴な選考をかけたんだろう。


さて、ここまでのヴィクトリアさんの発言を要約すると『私はシャルハルに興味がありますの。付き纏いますわよ。』ってことだな。

15才の世間知らずなガキにどうしてこうも興味が持てるのだろう。特に男前って訳でもないし。


まぁ貴族様のことだ。その場のノリで言ってるだけかもしれない。

ヴィクトリアさんは細かいことを考えずに突っ走る傾向にあるようだ。

しばらく生活を共にしたら飽きて帝都に帰るだろう。適当に付き合っておくか。


それにしてもヴィクトリアっていちいち長い名前だな。頭の中では略して『ヴィー』って呼ぶことにしよう。



「ふむふむ。建前としては30点ってとこかなぁ」


何やら考えていたスーミィが口を挟んだ。

ヴィーが今述べた建前はスーミィ的には失格ってことか。


「本音、というか実利かなぁ。

ハル君を手駒にしてヴィクトリアちゃんが受けるメリットが知りたいねぇ」


真意の見えないジト目で、ヴィーを凝視するスーミィさん。


「………っ」


ヴィーちょっと詰まったが、感情を抑えきって言葉を繋げる。


「私はアインハイトの王族ですわ。残念ながら王位継承権は高くありませんので、このままでは死ぬまで部屋住みか、適当に嫁に出されちゃいますわね」


一応、王位継承権があるってことは直系ってことか。また面倒なのと関わっちゃったな。

皇女はたくさん居る筈だからそれほど警戒しなくていいけど、ヴィーが『優秀な王族』だとマズい。

色々抜けてるし、護衛も一人だから大丈夫だと思いたいが…


「それと私にどのような関係が?」


ヴィーは僕を見た。こちらに身体を向け、妙に真剣な眼差しになる。


「私にはシダスの大迷宮で名を上げる必要がありますの」


王族なのに?


「王族なのにかい?」


珍しくスーミィが驚いた声を出す。


「私、こう見えて従軍経験はそれなりに積んでいますわ。盗賊団や魔物の群れ程度であれば私の指揮で討伐できますのよ?」


「姫将軍ですか。 憧れるなぁ」


眩しそうな笑みを浮かべて、僕はヴィーを見つめる。


「恥ずかしながらそのように呼ばれておりますわ。率いる部隊の規模は小さいので、姫隊長あたりが適切だと思うのですけど…」


頬を染め、恥ずかしそうにするヴィー。


「ヴィクトリア様の鎧姿や軍装はさぞ麗しいでしょうね」


戦闘で勝利を治め、帝都に凱旋するヴィー。

戦果は多少誇張されるだろうが、王室のイメージアップにはさぞ有効だろう。


「それは…」


もじもじするヴィー。年相応に可愛いな。

なるほど、熱烈な支持者がいるのは理解できる。


「どうして大迷宮なんだい?」


スーミィが話題を戻した。

そう、それが気になる。


「幸いなことに帝国領は平穏で、得られる軍功に限りがありますの」


ヴィーは複雑な顔をして見せた。


「反乱も無く、時折国境付近で嫌がらせ程度の紛争が起こりますが、国王陛下の意向で私は国境への遠征が叶いません」


まぁそうだろうな。アイドル将軍だから帝都で飼っておくべきだ。


「私には夢がありますの。そのために自身の継承権を上げたいのです。大迷宮で未到達階層を開拓すれば。稀有な魔道具を手に入れたら…!」


国民の人気は上がるだろう。


「そのために、優秀で信頼できるパーティメンバーが必要ですの。それが…」


ん?何か変な話になってきたな。


「それが私だとおっしゃるのですか?」


「ええ!シャルハル殿はその年で無詠唱魔法と武芸に通じ、探索者としての地力があるのでしょう?それに…」


ヴィーは声のトーンと落とした


「…すでに大迷宮を地下25層まで踏破されてらっしゃいますわね」


む。


「どうしてアンタがそれを知ってるんだい?」


スーミィが、ヴィーに質問する。

明確な殺気を孕んだ眼だ。

実際に手は出さないだろうが、スーミィには殺れる自信がある。

ジト目をスッと細め、ヴィーを睨むスーミィ。


ああ、怖い。

そして、たまらなく可愛いよスーミィ。


「冒険者ギルドの協力者に、シダスの迷宮管理課から情報を買わせました。」


護衛さんが簡潔に答える。


「シャルハル殿の御爺様とブーンリシト家の旧侍従長。シャルハル殿とスーミィ殿の4人パーティで潜り、損害は無し」


一昨年の記録か。


「どうするんだい?ハル君」


スーミィがグリンと首を回してこちらを見る。

あれは半殺しにしていい?って訊いてる眼だな。

そんな面倒なことしないで。


少し考えて、

僕は返答した。


「整理しますと…」


話しますよ?とヴィーと護衛を一瞥する。


「ヴィーと護衛は予備校に入る。予備校の実習班で僕はヴィー、護衛、スーミィとパーティを組まされる。スーミィは学院生だけど、学院生は自由にパーティ組めるからね」


僕が口調を変えたので、二人は一瞬身体を固くした。

スーミィは動かない。


「僕はきっと成長する。この1年で35層程度なら安定して潜れるようになる。現在の最深探索層は…」


何層だっけ


「42層だねぇ」


スーミィが答える。


「僕は来年、冒険者学校に入る。おそらく1年次の後半には最深探索層に手が届く。ヴィー達もそう予想しているんだね」


ヴィーと護衛は頷かないが、僕は肯定と受け取る。


「二人とも腕が立ちそうだ。足手まといにはならないだろう。見返りは用意してくれるんだろ?なら、連れて行ってやってもいい」


ヴィーの眼が大きく見開く。驚きに、喜びの混じった瞳だ。

護衛はこの後に続く僕の言葉を警戒し、表情を変えない。

この人、優秀なんだろうな。


「もちろん条件がある」


ここで声のトーンを戻し、表情を緩めた。

ヴィーに微笑みを向けてみる。


「何をお求めになりますの?」


ヴィーは少し安堵した様子で、護衛の表情を確認する。


「おおよその物なら準備いたしますわ。場合によっては時間を頂戴しますが、お約束はこの名にかけて」


力強い目で僕を見る。

ああ、いいなぁ。


「………。」


僕は、口を開く前に。


もう一度。ヴィーと護衛をじっくり眺めた。


「ヴィーが準備できる程度の金や財宝には興味が無くてね」


護衛の表情が暗くなる。

僕の命に手が届く人が、視線で圧力を掛けてくるとか。


これはゾクゾクくるな。

たまらない。


「大迷宮は危険な場所だ。後ろから刺されちゃ堪らない。だから、ヴィーと護衛さんを信頼するに足りる…」


スーミィがニヤリと笑う。


タイミングいいね、君。


「証と言いましょうか。覚悟を見せて欲しいんですよ。近々にね」


僕は目を細め。二人の顔と、襟元と、胸元を舐めるように見る。


「覚悟ですって?いったい何を…」


ヴィーがたじろいだ。

良い反応だ。

返答が楽しみだなぁ。

二人はどうするんだろう。

どっちに転んでも僕は困らない。


「難しいことじゃないですよ。」


言葉を切る。


「夢を叶えるんでしょう?なら、代償は必要だ。お二人ともにね」


「だから!何をしろとおっしゃるの!?」


ヴィーの眼に怯えの色が浮かぶ。


僕は、二人が警戒しないで済むよう穏やかな笑みを浮かべた。


「難しいことじゃありません。1年以内に僕の子を孕み…」


ヴィー…そういう顔も可愛いなぁ…


「産んでいただくだけですよ」









お読みいただきありがとうございます。

ご意見・ご感想いただけると幸いです。

説明会が未だ始まらないです…

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