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僕の予備校説明会(2)

僕は貴族然とした女性…というか少女に丁寧にお辞儀し、それらしい挨拶を捻り出した。


「おはようございます。私はシャルハル・トゥイバックと申します。

ブーンリシトは祖父方の姓でして。現在は母方の姓を名乗っております。再びお会いできるとは存外の幸運です」


変に他人のフリとか、覚えてないフリとか、聞こえてないフリとかしちゃマズそうだ。

理知的で深い瞳をしている。正常時は聡明なお嬢さんなんだろう。けど今は激しい興奮状態にあるようだ。眼が血走っている。あまり寝てないのかな?刺激するのは良くない。


「良いお返事ですわね!早起きした甲斐がありましたわっ!」


基本的にややオーバーアクションな身振りに合わせ、濃い金色の巻き髪がふよんふよんと揺れる。


この子どうして朝からこんなに元気なんだろ。他の説明会参加者はドン引きしてるに違いな…いえ、ドン引きしていませんでした。なるほど冒険者学校を志望するだけのことはある。皆さん興味津々で眺めておられます。


「私はヴィクトリア・フォン・アインハイト。誇り高き帝国貴族ですわ!」


アインハイトってことは西の統一帝国と関係があるんだろう。


帝王閣下は夜に強く、皇子と皇女がいっぱいいるらしい。羨ましい。


このヴィクトリアさんもその一人かもしれないが、ガチ王族が予備校の説明会に参加する筈はなし。

下級貴族にしてはオーラがありすぎるから、傍流の問題児が見聞を広めるとか適当な理由をつけて放流されてるってところか?

護衛の姿は…斜め後ろに立ってる女性が護衛かな。

一人だけか。となれば『現時点においては』要人ではないということだろう。


それにしても護衛さん、冷たい感じの美人なんだけどそれがたまらないな。

スカートじゃなくてパンツなのも高得点だ。是非お尻を拝したい。

でもその前に会話だ。


「アインハイト…!もしや帝国王家のご嫡流でしょうか?」


驚き、かつ敬服した表情で続けてみる。


すると。


ヴィクトリアさんは右手を腰に当て、左手の甲で口を隠し、更に大きく胸を張った。


これはアレが出るのか。僕も生で見るのは初めてだ。


ゴクリ。と隣でスーミィが唾を飲む音が聞こえた。

気持ちは分かる。見たいけど見たくない。聞きたいけど聞きたくない。そんな感じだ。

場の緊張感が高まる中、ヴィクトリアさんは高らかに哄笑した。


「ほーっほっほっほっほっ!ほーっほっほっほっほっほっほっ!」


うわぁ!凄いよ!高笑いだよ!


「スーミィ!見て!見て!」


「嫌でも見えるよ…」


とか何とか言いながらスーミィも嬉しそうだ。


子供の頃、二人で繰り返し読んだ冒険譚。

善の女騎士と悪い魔法使いの二人組が、様々な冒険を繰り広げ最後にゴールインするお話。

男の子の僕はゴールインの章のやや生々しい描写に夢中だったが、スーミィは女騎士に過度に感情移入していた。

なかなか自分の気持ちに素直になれない女騎士に自分の秘めた想いを重ねていたのだろう。(※ハル視点です)


その女騎士の見せ場の一つに高笑いがある。


悪代官を前に、妖魔の軍勢を前に、絶体絶命のピンチに、とりあえず高いところで。

彼女は誇らしく高笑いして、そして必ず勝利を得るのだ。


スーミィは想像の女騎士を手本に何度も練習していたが、ついぞ自分のモノにすることができなかった。

ちっちゃこい女の子だから似合わないんだよね。ムリしてる感じが前面に出ちゃう。


その高笑いをヴィクトリアさんは完全に自分のモノにしていた。

練習したのだろうか。それにしては所作が自然すぎる。

天然モノ?ひょっとして天然モノ?


「ほーっほっほっほっほっ!ほーっほっほっほっほっほっほっ!」


絶好調だ。


「ほーっほっほっほっほっ!如何にも!私はアインハイむぐぅ」


むぐぅ?


「おひいさま、他の参加者に迷惑で御座います」


ヴィクトリアさん。

先程から割って入るタイミングを伺っていた護衛さんに口を塞がれてしまった。

高笑いできたからそこは満足だろうけど、

振り返るとここまで会話らしい会話してないからなぁ。

結果だけ見ると、なんかうるさくしてるだけになってる。


「もむむむ!むがむまぎむまひっ!」


うむ。何言ってるか分からない。


「シャルハル殿、恐縮ですがいったん外に…」


護衛さんは申し訳なさそうな顔をして、

ヴィクトリアさんを担ぐと、すたすたと講堂から出て行ってしまった。


「じゃ、行ってくるね」


スーミィの返事を待たず、立ち上がりそそくさと後を追う。

とりあえず会話の途中なので要望に応えよう。

何よりも護衛さんの後ろに貼り付いて、キュッキュッと揺れるお尻をとっくり眺めたい。

最高であるのはスーミィのお尻じゃよ?じゃがのう、世には『それはそれ、これはこれ』という至言があるのじゃ。


「はぁぁ。私も行く」


僕に続きスーミィも腰を上げた。二人で講堂を出る。


「あの…スーミィさん。」


少し遠くなったお尻に視線を向けたまま、スーミィに声をかけ、


「ん?」


「なんか、ごめん。多分、ごめん。」


とりあえず謝る。


「ん。」


頷くスーミィの瞳は、読めない。









お読みいただきありがとうございます。

テキストで高笑いって難しいですね。

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