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僕の残念会(2)

最初の一口を飲み込むと、スーミィが再びあ~んを繰り出した。


「ほら。あ~~~ん」


ここは受け入れるべきだろう。

正直なところ、恥ずかしいが嫌ではない。

普段なら頼んでもしてくれないであろうプレイだ。

いや、頼まないけど。


二口。三口と繰り返すうちに店内の緊張も解れる。

痴話喧嘩も一段落か。やれやれ驚かせやがって。って感じだな。


「あ~~~ん」


と口を開けて続きを待っていると、

スーミィが

『後は一人で喰え』

って感じの冷たい眼をした。


酷いよスーミィ。ひょっとして僕、虐められてませんか?


「今の顔。馬鹿面のお手本って感じだったねぇ」


そう言って彼女は満足げに笑う。


なんだろう。この会の主旨がわからない。

癒されると同時に魂を削られてるみたいだ。

まぁ今日のところは逆らう元気もないし。大人しく食事に集中してみよう。


スープと。主菜である鹿の煮込みをもぐもぐやっている間に。

スーミィは先ほどのお姉様方と何言か交わしている。

そういえば、とさきほど口火を切ってくれた戦士風のオッサンの様子を見た。

彼らはコップ片手にニヤニヤしている。

目が合うと更にニヤニヤ。


「負けるなよ。ボウズ」


とか何とか言ってる。


「お騒がせしてすみません」


と自分のコップを目の高さに掲げ、

僕は火酒(もちろん水割りだ)をゆっくり飲んだ。


僕は酒があまり好きじゃない。

弱い訳ではないと思う。ただ、すぐ眠くなってしまうのだ。

それを弱いと言うのかもしれないが…。

酒を楽しむのはまだ先かな。なにせ15才だから仕方ない。

一人前の男になったら綺麗なお姉さんを侍らせて、キザなセリフを吐きながら薄暗い高級店でものすごく高い酒を…


おっと。危ない危ない。

心が弱ってるせいかトリップしやすくなっているようだ。

あまりスーミィを怒らせてもな。


チーズをモグモグしながらお姉様方と談笑する彼女を眺める。

スーミィは僕が思っていたより社交的だったらしい。

よそ行きの笑顔がちょっと気持ち悪いな。

…すみません嘘です。

僕にもたまにはあんな笑顔で接してほしいです。


お姉様達は斥候タイプと駆逐戦士タイプの二人組。

冒険者…いや、迷宮探索者か。

冒険者と迷宮探索者に明確な区分はない。が、野外・迷宮の区別なく活躍する前者に比べ、後者は迷宮探索に特化している。

経験の浅い僕でも装備の違いで何となく判る。見られる方でも外見で判別できるような装備を選んでるんだろうけど。

見た目で判断できなかったらパーティに誘うとき手間がかかるからなぁ。


さて、冒険者はラフな扱いに耐える頑丈な武具や厚手の衣類を好んで身につける。

野外で雨天は避けられないし、森林に入ることも多いためしっかりした野営装備を揃えている。テントとか煮炊きする道具ね。

あと弓の装備率が高い。遠目にも目立つ弓を持ってるとショボい追い剥ぎなんかは寄ってこないし、食事用の獣を狩る際いちいち殴り殺す必要がない。


では、迷宮探索者は。

特に王都の大迷宮に挑む者は大半が軽装だ。

長柄は場所を選ぶし、弓は引くのも射るのも一苦労だ。あと矢筒が邪魔。

迷宮が開かれた当初は矢筒そのものやストラップなんかが引っかかって割と死んだらしい。


迷宮探索者ならではの装備もある。繊細な武器や様々な道具だ。

魔力の充填が必要な剣や、灯りの類。

警報装置や時計。

定期的に分解清掃や部品の交換が必要な特殊な武器。

王都には鍛冶屋や修理屋が充実している。

腕はピンキリだが、よほど変わった代物でなければ整備が可能だ。

この手の道具は屋外でも使えるけど、持ち歩くだけでコストがかかるし、出先で壊れた場合どうしようもない。

なので危険な分リターンが大きく、メンテナンス環境の良好な迷宮探索者に広く使われる傾向にある。


ただ、これらはあくまでも傾向であって、迷宮内で弓や槍を使う熟練者も居ないではないし、迷宮にテントを持ち込む奴もいる。

僕は野外でも整備性の低い銃を使うし、スーミィはダンジョンに枕など寝具一式を持ち込む。人それぞれだ。


などと思案しながら順調にテーブルの料理を胃に納めていく。

一昨日からロクに食べてなかったからだろう。

満腹に近付くにつれ安心感が募る。


スーミィ達はやけに熱心に話しこんでいた。

パーティでも組もうってのかな?

お姉様方はちょっと年上だが容姿はなかなかだ。

こう…大人の色気ってのかな…。

斥候風のお姉さんは露出は少ないものの、薄手で柔らかい素材で仕立てられた灰色のシャツが、首から胸へのラインに絶妙のカーブを描いていてたまらない。

こう、首元の開いたところからそっと手を差し入れて…。

頭のウサミミ(垂れてるタイプ)も柔らかな灰色で、庇護欲をそそる。

それでいて年上。素晴らしい。

その声は細くて、ちょっとかすれた感じが背筋にゾワゾワ来る。

遊ばれてみたい…。


…スーミィこのお姉さん達とパーティ組まないかな。

そうしたらお近づきに…。


「…ねぇ、ねぇ。ねぇってば!」


んぁ…?


「リコ。そやつ涎を垂らしておるぞ?変な薬でもキメとるんかのぅ」


「でもでも、きっとタダ者じゃないよ」


「あっちのお嬢ちゃんは強そうじゃが…コイツは駄目じゃろ。田舎貴族の臭いがプンプンしとる」


「そうかなー。ねぇ、ねぇってば!」


「こりゃ!そんなヘタレを触ってはいかん。リコの綺麗な手が腐ってしまう」


「だってだって!ボクの英雄探知機がビンビン反応してるんだよ!きっとこの人はすごい…!」


「英雄どころかダメ男にしか見えんがのぅ。そもそも幼女の尻に敷かるようなアホボンには関りたくないわい…」


…なんか失礼なことを言われたような気がするぞ?


順を追って整理しよう。


まず我が家は貴族ではない。

なので田舎貴族ってのは間違いだ。

少しばかり古い家で、やや僻地に所領があるだけだ。

僕自身田舎育ちなので田舎貴族的な要素は多分にあるが…。

あれ?田舎貴族で合ってる気がしてきた。不思議だ。


次にダメ男。

ダメ男なのは…間違いじゃないかも…。

うん…。

今の僕は強いて言えばダメ男かもしれない…。

ホントこれからどうしよう。


だが!

幼女の尻に敷かれるとか!

そのような不名誉な形容は辞めていただきたい。

断じて。

…。

…?

……いや?

それは本当に不名誉なことなのか?

むしろ得難く崇高な環境であるような…。


「…むぅ。悪くない…」


うむ。だんだん意識が戻ってきた。


『ツンツン』


先刻から誰かが僕の肩に触れているようだ。


「あ?気付いたかな。ねぇねぇ。大丈夫?」


それなりに大丈夫だ。

それより無断で僕の肩をユサユサしないでいただきたい。

だが、肩に置かれたこの掌。

いやに柔らかい手だな。

そしてやや小さい。女か。

まぁ声からして女なんだが。


小さく柔らかい手。

だが、意外なほど膂力があると推察した。

肩をゆする運動エネルギーに芯が感じられる。


どんな奴なんだろう。気になるな。


前の席に座っているスーミィが放置していることから察するに、危険は無いのだろう。

きちんと意識を戻し、肩に置かれた手をそっと握る。


その手を引き寄せつつ


「何か?」


と人の良さそうな笑顔で振り返ると…


「あっ…あじゃじゃわっ!」


パッと手を振りほどき、真っ赤な顔で俯く女の子と。


「やれやれじゃのう…」


頬杖をつき、

渋面で髭をしごくドワーフの姿があった。











お読みいただきありがとうございます。

話の展開も書くペースも遅くてすみません。

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