僕の探索準備(3)
ヴィクトリアに引き摺られるようにしてリコがやって来た。
手に何やら乙女的なモノが沢山詰まった箱を持っている。
あの中に髪飾りとやらが入っているのだろう。
「髪飾り?」
髪飾りって迷宮探索に関係ないよね、と言いかけて飲み込む。
「そうですのよ? 髪飾りなんて迷宮探索に関係ありませんのに」
ヴィーが容赦なく意見する。
「でもほら、可愛くするのって大切だろ?」
ね。とリコを見ると、ちょっと嬉しそうにブンブン頷いている。
「前衛だから装備はあんまり可愛くできないからな。…可愛いけど。」
リコの装備は盾と剣。それにプレートメイルのようだ。
ちなみにフルプレートではない。腕と足だけ。上層だから重装備にしても意味が無いし、汚れた場合に手入れの手間が増えるだけだ。
胴は昨夜も着ていた白い綿鎧の上衣とスカート。白に染色した革のパンツ。
それに白いガントレットと白いレギンス。盾は長方形でかなりデカイ。これも外側が白く塗装されている。
「白いね……」
感想を述べる。
何故白で揃えたのか。汚れが目立つだけだ。
返り血とか泥とか変な体液とかで防具は頻繁に汚れる。
ヴィーとリコ。ベレンがちらっとこちらを見た。
が、流された。今大切なのはそこではないらしい。
「あと剣が…」
作業台に置かれたリコの剣を手に取ってみる。まず重い。持ち上げて革製の鞘から出すだけで一苦労である。頑丈そうというか…これは本当に片手剣なんだろうか。
分厚い鉄の板を削って無理矢理に剣にした感じ。剣鉈をそのままサイズアップしてみました。とか、斬槍の穂先に握りを付けてみました。とかそんな感じ。
なにしろ重い。そもそも持ち歩けるのか? こんなの初めて見るよ。
「あの…剣がすごい…ですよ?」
ヴィー達3人は、今度は完全に僕の発言をスルーした。
どうやら剣には触れてはいけないらしい。可愛くないからか?
なんで? すごく気になるよ? なんでこれ使うことにしたの? とか気になってしょうがないのに。
そんな僕の意思とは無関係に会話は進んでいく。
「リコさん可愛いんですから、何を選んでもそう変わらないと思いますの。さっき言ってたこのコサージュになさいな」
…仕方ない。剣についての質疑は諦めて、リコのお洒落に集中しよう。
ヴィーがそのコサージュとやらをリコの髪に留める。
布でできてるのかな? ピンクと白い花に黄色が少し。
髪留めを着けると、確かに可愛くなった。
なんかちょっと締まった感じ。良く判らないが取り敢えず可愛い。
ただ、リコそのものが可愛いため、髪飾りでリコが可愛くなったのか、リコが髪飾りを可愛くしたのか判じ難い。
「うん。可愛いね」
「ふむ、可愛いのう」
僕とベレンが率直な感想を述べる。
正直、他にコメントのしようが無い。なので今後の展開に一抹の不安がある。
「え? ホント! 嬉しい!」
にへーと笑うリコ。
「えっとね、本気装備は冑付きになるからお洒落できなくなるんだよ。だからね!」
そうか。だから張り切ってるんだな。
「ねぇねぇハル君! どっちがいいかな!」
リコはリボンを出してきた。ふむ。太いな。鉢巻きみたいにして使うらしい。
赤と青と黄と白か。
なんで同じリボン4色もあるんだ?
…聞いたらスルーされそうなので言葉を飲み込む。
「青はどうかな。他が白いから合うと思う」
「ホント! そうかな! じゃ、青にしよう」
カチャカチャと足鎧を鳴らしながらリコは鏡の前に。
嬉しそうにリボンを巻き、器用にくるくると結んでいる。
ああいうのってやっぱ練習するのかね。わからん…
「やれやれ、決まったようじゃの」
ベレンが疲れた顔をする。
「こっちの部屋に連れて来て正解でしたわ。殿方の見立てとあれば納得なさるでしょう」
ヴィーはお姉さんっぽい眼でリコを見守っている。
「よし! どうかな!」
青い鉢巻き。じゃなくてリボンを巻いてリコが戻って来た。
うむ。可愛いな。
「可愛いね。さっきの花飾りも良かったけど、こっちの方が凛々しいよ」
「うむ。可愛いのう」
ヴィー曰くこれで決まりらしいので、これで決定!っぽい感想を述べてみた。
ベレンはさっきと同じだな。工夫しろオッサン。
「えへぇ。じゃ、これにするよ!」
良かった。嬉しそうだ。
リコはそのまま上機嫌で、背嚢の中身を一つ一つベレンと確認しながら詰め直している。
食べ物と応急手当の道具か。無駄が無いな。
「ヴィー。ウーラさんの準備は?」
ウーラさんは黒い生地で仕立てたパンツスタイルだ。そのまま迷宮に潜れそうな格好ではある。
「ウーラはあれに得物とバックパックで準備完了ですわ。今日は軽装でよろしいんでしょう?」
「うん。上層だし手ぶらでもいいくらいだよ」
ネタ装備のベレンはともかく、リコとヴィーは強そうだからな。戦闘は任せてもいいかも。
僕は最後尾からウーラさんのお尻を担当しよう。
と、
『ギィィィィ』
玄関の扉が開く音がした。
「ウーラが戻ってきたようですわ」
ゴードンさんの声もする。
「だね。揃ったら昼食にして、出発しよう」
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回いよいよ迷宮探索! …の受付予定です。




