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僕の探索準備(2)

部屋で迷宮探索の準備を進める。


今日行われるのは予備校の第一回選抜試験。

選抜試験は計三回行われ、そのどれに参加しても良い。


第一回は大迷宮の上層。1~3層。


第二回も大迷宮上層。5層未探査区域。


第三回は大迷宮中層。11層~12層。


選抜試験の本命は第2回かな。ここで授業料免除など各種特典の付く特待生が決まると思われる。

だから第二回だけ参加すれば良かったんだけど、ベレンとリコが観光がてら大迷宮に入りたいと言ってたのを思い出した。


通常、大迷宮に入るためには、迷宮管理課の受付で利用料を支払う必要がある。

一人当たり銀貨5枚とちょっといいお値段だ。

転移魔法陣を利用するには11層で金貨1枚。16層で金貨50枚。21層で金貨100枚…と更にお高くなる。


その利用料が、選抜試験参加者は無料となる。

上層でもそれなりに換金性の高いモノは手に入るし、腕慣らしにはちょうど良い。


そんな訳で、僕等は本日午後の第一回試験に参加することにしたのである。


「3層までなら糧食は少しでいいかなぁ」


「儂は基本5日分じゃ。」


「僕は3日分かな。今回は未探査区域に入らないだろうし、きっと階段下りて戻ってくるだけだよ」


「戦闘はどうじゃ?」


「無いと思う。出たとしても虫くらいかな」


「ふむ。つまらんのぉ」


「いいじゃない。ほら、観光気分でいけるよ」


「ガイドはお主か?」


「はい、旦那様。謹んでご案内させていただきます。」


一礼する僕。

ベレンと顔を見合わせて笑う。

そのまま相談し、糧食は各人の最低量ってことで落ち着いた。

僕は3日。ベレンは5日。予想踏破時間は5時間程度だから、明らかに過剰だ。


「詰め直すのが面倒じゃしな」


「重くなければそれでいいよ」


僕が背嚢に荷物を詰めるのを見てベレンがあれこれ意見する。

祖父とゴードンさんに習った方法で、教本とも大きく違わないので間違ってはいないが、

屋外や洞窟、坑道の経験が主なベレンの意見は、耳に新しく参考になる。


「ハルのカバンは小さいのぉ」


「小さくは無いと思うよ? そもそも普段はスーミィが荷物持ちだからね。僕は身軽にしてる」


「スーミィ殿が?」


「ああ見えて力があるんだよ。ちっちゃい癖にね。重いモノは無理だけど、かさばる物は任せてる。僕は小細工派だから大きい荷物運べなくて。あとスーミィはゴツい寝袋を持ち歩くから。どのみち荷物が大きくなるんだよ」


「じゃが女の子に荷物を持たせるとは関心せんのぅ」


「僕もそう思ったんだけどね。理詰めで畳み込まれて、納得させられちゃったよ」


「わはは。目に浮かぶわい。今日のところは儂が背負ってやるから安心せい」


「ありがとう。助かるよ」


ベレンも基本的には軽装タイプだけど。今日の探索は半分観光みたいなものだからリラックスしてるんだろう。

油断ではなくて、実力に裏付けられた自信の表れかな。


『ココンッ』


開けっぱなしの扉がノックされた。

ヴィーだ。

臙脂色の上衣とスカート。黒タイツに硬革のブーツ。

白銀の籠手とそれに似合う手袋。華美な拵えのロングソードが長身に映える。

朝の装いと違うのはブーツと籠手。

それに金糸で刺繍がされた白いマントだろう。

どれもこれも高そうだが、高潔な顔立ちと滑らかな金髪の持ち主である彼女が着用することで、嫌味無く纏まっている。


「その……どうかしら?」


ちょっとマントの裾を摘み、おどけて見せるヴィー。

一言で言えば麗しい。

素直な感想を述べてみる


「パンツはどうした?」


「なっ…! それはもう結構ですわ!」


悔しがるヴィー。


「わはは。…大変に似合っておられますぞ。流石は姫将軍殿じゃ」


ベレンが眼を細め、誰にでも分かり易いように誉める。


「ハル殿も、息を呑んで見惚れておりましたぞ」


「ほ…本当ですの?」


期待の眼でこちらを見詰めるヴィー。

振るなよベレン。


「ああ。良く似合ってる。綺麗だよ、ヴィー」


こんな感じかな。ベレンを見習って真っすぐ褒めてみる。

実際似合ってるしね。

装備が主を選んだみたいだ。


「え?あ………んと……ありがとう…ございます…」


余程嬉しかったのか、赤くなって俯いてしまうヴィー。


「ふ…不意打ちなんて…卑怯ですわ…」


小声でもしょもしょ言ってる。


「ん? どうしたの?」


聞こえてたけどね。


「な…なんでもありませんわっ!」


ははは。おこっちゃって可愛いな。


「本当によく似合ってるけど、マントはちょっと派手かな。汚れちゃうだろうし、普段は地味なのにしようか。明日買いに行こう。」


「えっ? 一緒にお買いものですの? ええと…その…」


急におろおろするヴィー。

きょろきょろと誰かを探すが、残念。ウーラさんは荷物を取りに行ってるぞ。


「ヴィーは王都に慣れてないだろ。みんなで行こう。予定が合えばね」


「は…はいっ! その…宜しくお願いしますっ!」


ヴィーの探索用の装備は宿に置いてあるらしい。

とは言ってもヴィーは主。持つのは最低限の食料と道具類で、基本はウーラさんを始めとしたパーティメンバーが荷運びを担当するとのこと。


「行軍訓練は受けておりますから、本当はたくさん担げるんですのよ? でも周りがダメだって。それに従ってたら…」


大きな荷物を背負ってると戦闘に支障が出るようになってしまったらしい。

確かに重心移動とかやりにくくなるよね。

ヴィーの剣はロングソードだけど、重さより技重視の細身の剣だから背中の荷物の影響が大きいんだろう。


「う、まずいな。僕も荷物無しの戦闘になれちゃってるかもしれない…」


スーミィに荷物持ちを任せてることを話したら、ヴィーに軽く怒られた。




思ったよりリコの支度に時間がかかっている。

ヒマつぶしにヴィーに銃を見せていたら扉の陰からひょこっとリコの頭が覗いた。


「ヴィクトリア! ちょっと来てくれない? 相談したいんだけど…」


「あら。どうなさったの?」


白いマントをサッと翻し、ヴィーはリコの部屋に行く。


マントかっこいいな。今のは無意識にやったんだろうけど、洗練された動きで美しい。

一事が万事あんな調子なんだろうから、ファンが多くて当然だ。


僕はそんなヴィーに。帝国の名物皇女様に手を出そうとしている。危険だな。

婚約者もいるらしいし、私設の親衛隊ってのもあるらしい。


この程度のことで死んじまうようなら、僕もそれまでの男だったってことだし。

組織的な暗殺に付いては、王国内務部の公安課が警戒してる筈だし気にしないでおこう。

宿に『荷物を取りに』行ってるウーラさんから、帝国のお仲間に情報共有される筈だし、これで手を出してくるのはよっぽどの馬鹿だけな気がする。

それでも来るってんなら来い、僕の殺人スキルの肥やしにしてやる…


「お主、たまにそういう表情をするのぅ」


「ん? そうかな」


「うむ。心配じゃの」


ベレンと眼が合う。磨いた黒水晶のような、深い眼だ。

コイツ、たまに底知れないよな。あんまりドワーフっぽくないし。


と、ベレンの頬がちょっと紅くなった。


「うぇ、やめてくれよ」


「いや、ガラにもないこと言ったもんで恥ずかしゅうてのぅ」


ポリポリと頭を掻くベレン。


「念のため聞いておくけど、ベレンってストレートだよね?」


「うむ。ストレートじゃ。」


「まぁ、王都にはその手のお店もあるし。僕のお尻は遠慮させてね」


「そ…そんなこと思っとらんわい!」


ムキになって否定するベレン。いや、余計怪しいから勘弁してくれ。



「ちょっと! ヴィクトリア! 引っ張らないでよ!」


お、賑やかなのがやって来た。


「シャルハル様! 聞いて下さらない? リコさんたら、ず~~~~~っと髪飾りを選ぶので悩んでらっしゃいましたのよ?」


開かれた部屋のドアの方を見ると、ぷんぷん怒った様子のヴィクトリアと、支度が遅れた理由をバラされ半泣きになったリコの姿があった。











いつもお読みいただきありがとうございます。

色々地味ですみません…。

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