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僕の探索準備(1)

本日午後に開催される予備校の選抜試験。

その準備のため、僕等は祖父の屋敷に向かっていた。


本日行われる選抜試験はダンジョンアタック。

とはいっても大迷宮低階層のタイムトライアルである。

本格的な準備は必要ない。


だが、準備なしでできるものでもない。

説明会の終了から選抜試験開始までの間はおよそ4時間。

その間にパーティ編成し、準備をして、開始時刻までに集合する。

全て試験の一環だと思われる。


準備には地上拠点が必要だ。

大迷宮の入り口近くの宿や、それ専門の貸家や貸部屋。大きな探索グループになると自前で拠点を持ってたりするが、大部分の受験生にそんな余裕はない。

今回の選抜実技試験に当たり、予備校の部屋を提供されたのだが、祖父の館が予備校にも迷宮入り口にも近かったため僕等のパーティは辞退した。


どのみち予備校入学までは祖父の館で過ごすので、何度も荷物を運ぶのが面倒だった。のも大きな理由だ。

さて、祖父の館であるが、予備校の裏にある。

敷地が隣接しているのである。


そもそも予備校は僭主館と呼ばれる自治領時代の政庁の跡地に建っているのだが、祖父の館はもともと政庁の付属施設であったため近くて当然だ。

予備校に通うことになったら溜まり場にならないよう注意しなければならない。

そう、この館は僕とスーミィの愛の巣になるからだ。


『ゴンッ!ゴンッ!』


門は開いていたのでいきなりノッカーを鳴らしてみる。


反応が無いので暫く待つことに。


今、この屋敷はデル叔父さんが所有しているが、叔父は他に部屋がありそちらに住んでいるらしい。

そのため館には使用人が少ない。侍従長と通いの掃除夫だけ。


常駐しているのは侍従長のゴードンさんだけで、他の使用人(料理人や女中など)は他の屋敷に出稼ぎしてるそうな。

それでいいのか? と思ったけど、それなりに皆さん納得してるとのこと。

出向先からの支払い>給料で黒字にもなってるそうです。叔父さんすごいな。間違ってる気もするけど。


ややあって。


『ガチャリ。ギィィィィィ』


扉が開いた。


「これはこれはシャルハル様。ようこそいらっしゃいました。」


柔和な笑顔とカッチリした物腰で、ゴードンさんが招き入れてくれる。


「デル様より仔細を指示いただいております。ひとまずお部屋にご案内しましょう」


ゴードンはキビキビした足取りで僕等を2階に案内する。


「ヴィクトリア様と護衛殿はこちらに…ベレン殿とリコ殿はこちら側を一部屋ずつお使い下さい。」


淀みないな。ゴードン。


「シャルハル様はこちらの部屋を。隣はスーミィ様が使われますな?」


「はい。来てくれたらだけど…」


スーミィどこに住むんだろな


「おやおや、相変わらずですな。男でしたらガバッといきませんと。ガバッと!」


「勢い良すぎるのも問題だと思うけど…」


ゴードンさんはガバっとやりすぎるので、何度も奥さんに家から追い出されている。


「ハハハ。手厳しいですな。道具は揃えておりますのでシャルハル様の部屋で準備されると良いでしょう」


部屋には作業スペースが設けられていた。流石、ぬかりない。


「私は護衛殿と馬車でヴィクトリア様の荷物を取りに行って参ります。こちらは頼みますぞ」


そう言ってゴードンさんは部屋から出て行った。


廊下の向こうでヴィクトリアの部屋をノックしたようだ。ウーラさんが答え、二人で階段を降りて行く。


うむ? 宿に馬車で荷物を取りに行くってことは…ヴィクトリアはここに逗留するのか?

場合によっては住むとか?

そんなことを許したら僕とスーミィが人目を憚らずにイチャイチャできなくなるじゃないか。


素っ裸で廊下でワンワンしたりしたいのに…

…いや、待てよ?それは人目が多い方が燃えるのか?


『ハルくぅん、ダメだよぉ…みんな起きちゃ……う……っ』

『こら、スーミィ。ワンコが人の言葉話しちゃ駄目だろ』

『あぅ……んっ……わぅ……わふぅ……ん……』

『ほら、へばるのは早いぞ? あと1往復したらこのまま階段下りるんだから』

『んっ……ダメ………もうダメだよぅ……く…あっ……』


ん? 今回のは変な妄想じゃないぞ。筋トレしてるだけだからな。健康的。

え? なんだって? 裸? …しまった、全裸って前提付けてたな。

大丈夫。漢が本気の時はいつだって全裸だって言うし…


そんなこんなで有意義な時を過ごしていると、のっしのっしとフル装備のベレンが部屋に入って来た。

もちろんドアは開けてある。どこが誰の部屋か覚えてないだろうしね。


「む、ハル殿はまだ準備しとらんのか。感心せんな」


いきなり怒られた。


「ごめん、ちょっと考えごとしてて」


謝って作業台に置いたトランクを開ける。


「どうせロクでもない妄想しとったんじゃろが」


当たりだがスルーすることにする。

やれやれ、とベレンが渋い顔をしつつ、僕の手元を覗きに来た。


「選抜試験の探索は1~3層らしいし、控え目でいいかな」


僕はベルトと道具箱。剣帯、短刀、レッグホルスター、拳銃を作業台に置く。


道具箱をチェック。うむ。問題ない。

僕は道具箱と呼んでるけど正確には箱じゃない。

複数個の布製や革製のポーチに、罠や錠前用の道具が詰まってるものの総称が道具箱だ。


道具箱は人によってまちまちで、一体型のベルトポーチだったり、金属や木の筒に入れてぶら下げてる人もいる。

僕は大きさ別に4分割してる。スーミィも僕も魔法で何とかすることが多いので、出番は少なかったりするけど。


先ずは基本のベルトを締め、剣帯とレッグホルスターを装着する。

手早く正確に。これも鍛錬の一つだ。

全長40cm程の短刀を吊るし、愛用の拳銃をホルスターに収める。


「ほぉ、自動拳銃とはめずらしいの」


「ちょっ、勝手に見るなよベレン。ていうか銃とか興味あるんだね」


ドワーフって斧とか剣とか槍のイメージが強い。

こういう細かい機械的なのは人間やゴブリンの得意分野だ。


「儂は機工が専門でな。言っとらんかったか? ふむ。これは見たこと無いのぉ」


「甘いもん食って説教してりゃ十分なのに、なんで急にドワーフ出すんだよ」


ちょっとウザくなってきた


「まぁそう言うな。近々儂の研究も見せてやるからのぉ」


ニヤニヤと僕のトランクを引っ掻き回すベレン


「なんじゃ。このトゲトゲしとるのは。ふむ、握れんようになっとるんじゃな。打突もできると。自分で造ったのか?」


「…あんまり精度は出ないけど、魔法で削り出せるからね」


「面白いが迷宮に持っていく意味はあるのかの? こりゃ対人向きじゃろ?」


「僕の放出型の魔法は変わってるから、銃持ってる方が理由付けになるんだよっ!」


言い訳じゃないぞ。


「ワハハ。誤魔化さんでもええわい。お主も男の子じゃな。…こっちは銃剣が付くんじゃろ?」


「うっ…」


なんで解るんだよベレン。


「試しに付けてみたら使い勝手が悪くて、でも頑張って作ったら捨てられんよなぁ。わかる。わかるぞ」


ウヒヒヒと笑うベレン。距離が近い。凄く近い。オッサン臭いから勘弁して欲しい。


「ベレンの得物だって大概だろ。黙ってようと思ったけど…」


ベレンを見た。


鎖帷子に硬革鎧。見慣れない造りのブーツ。

基本的に軽装だが、両腕だけ手首から肩まで金属鎧に覆われている。アンバランスだ。

ベルトとかハーネスとかにびっしりぶら下がってる金属塊は全部爆弾か。危険なことこの上ない。

転んだら辺り一面吹っ飛びそうだ。


斧とか剣とかは持たないらしい。スタイルは無手か。

頑丈そうな腕鎧の篭手で殴るようだが…


「その篭手に付いてる尖った棒みたいなの。魔法か火薬で打ち出するんだろ?」


「そうじゃ。んでもって思い切り突き刺さるんじゃ」


どうじゃ!と胸を張るベレン。


「相手を握ってから作動させるのか、殴ると同時に作動させるのか解らないけど…」


「撃ち出すこともできるぞ!」


「いやそれはいいから。それよりこんなの使ったら肘とか肩の関節抜けるだろ? 試したのか?」


「うむ。練習したし調整も頑張った。苦労したわい…」


感慨深く手をぐーぱーさせるベレン。何度も脱臼したんだろう。


「素直に散弾でも仕込んだら良かったんじゃないか?」


「おお、それは盲点じゃったな。つま先にでも組み込むかのぅ」


「危ないから止めてくれ。」


絶対に暴発する。


「実戦で使ったことあるのか?」


「うむ。破壊力は抜群じゃ」


そりゃ抜群だろう。抜群じゃなかったら悲しすぎる。


「でも相手がスケイルオーガでも無い限り、強力すぎて使い難くないか? お金もかかりそうだし」


「そうなんじゃ。連発すると火薬代が凄いんじゃ。それに獣や亜人じゃと当たった場所が吹っ飛んだりするからのう。儂、最初おっかなくて泣いちゃった…」


何か思い出したのが落ち込むベレン


「まぁ、でも…なんとなく分かった」


「ふふふ。儂もじゃ。同好の士は得難いからのぉ」


装備は効率だけではない。

オーソドックスな武器も悪くないが、意表を突く変な武器も場合によれば有用だ。

それしか使えない。ってなっちゃうと問題だけど。


僕とベレンは握手を交わす。同好の誓いだ。

ベレンは満面の笑みを浮かべている。

僕は嫌々。でもここは共通の嗜好を認めるべきだ。


きっとそれはベレンの小さな幸せ。生活の充足感に繋がる。

その総量を増やすことは、リーダーの僕の仕事らしいからね。











お読みいただきありがとうございます。

次回はリコとヴィクトリアの装備説明な予感です。

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