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僕のパーティ編成(5終)

前話にトゥルンバ(菓子)の解説を追加しました。








「ハルのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


走り去るリコ。

残った4人が、その影が食堂の角を曲がるのを見つめる。


ふむ、静かになったな。

リコが走り去ったことでイベントは終了したと思ったのだろう。

こちらを注視していた他のテーブルの連中も自分たちの話に戻る。


「さて、それじゃ僕の自己紹介だけど」


僕は居住まいを正し、自己紹介を始める。


「あの、シャルハル様?」


ヴィーがテーブルに置いて掌を持ち上げ、発言の許可を求めた。

おや?と見ると、ベレン、ヴィー、ウーラさんは何か言いたいことがあるようだ。

何となく想像がつくが聞いてみよう。


「なにかな? ヴィー」


「リコさん、追いかけてあげなくて宜しいんですの?」


うんうん、と頷くベレンとウーラさん。


「うーん、そうしてもいいんだけどね」


立ち去った方を軽く見る。


「ほら、今から追いかけてもどこにいっちゃったか分からないし」


まず正論。


「それに、リコの荷物はここにある」


流石に鎧櫃は置いて行かないよね。


「なにより、お腹が空いたら戻ってくるんじゃないかな」


単純馬鹿っぽいからな。


「なんか、偉そうじゃのう」


あれ?


「そうですわね。メンバーのケアもリーダーの仕事ですわ」


「おひいさまのおっしゃる通りです。乙女心は傷つきやすいものですから。」


ウーラさんまで。


「上からの視点で冷静に判断するのは荒事の最中だけで良いじゃろ。あらくれとて平時は只の人間じゃ…」


「なんだよ、ベレンまで」


お前こそ偉そうじゃないか。と言いたくなる。


「シャルハル殿、人の心は読めん。リコが本当のところどう思っとるかは誰にもわからん。」


ベレンはトゥルンバをもう一個口に放り込み、もちゃもちゃと咀嚼する。


「恋愛気分を味わってみたいだけなのかもしれん。構って欲しいだけかもしれん。だが、勇気を出して『あーん』とやらを申し出たとすれば、それを無碍にするのは可哀そうじゃ。」


そしてクソ甘いコーヒーを一口。


「接待をしろとは言わん。だが、儂らはお主をリーダーにパーティを組むことに決めた。」


ベレンがス…と眼を上げる。


髭がシロップでねちゃねちゃになっている。


「リコは盾じゃ。何かあれば最初に傷つき、最初に死ぬ。リコはその覚悟をしておる。お主のためにじゃ。損得抜きでな。」


「そんなのベレンに判るのか?人の心は読めないって言ったじゃないか」


「心は読めんが、覚悟は判る。」


「む………」


なんだよ。


「なんだよ、急にシリアスだな」


指に付着したシロップをペロペロ舐めながらベレンは続ける。


「リコはまだ若い。恋だの愛だのは未経験じゃろうが、あの容姿じゃ。その気になればいくらでも相手はおろう。」


「そうだね。でもそれが?」


「リコには幸せになる方法が沢山ある。冒険者や迷宮探査などせんでも、幸せになる方法が沢山ある」


「だから何なんだよ。」


小指を唇からチュポンと抜き、ベレンは言う。


「そんなリコが、お主のためなら死んでも良いと言っとるんじゃ。解るかの?」


「………。」


僕は黙って頷いた。


「女にしてやれとは言わん。せめて、できるだけ優しくしてやって欲しい」


「そりゃ…」


そうか。


「お主の実力はスーミィ殿とヴィクトリア様から聞いておる。きっと儂らを危険な目に合わせんよう努めるつもりじゃろ」


「………。うん。そうだけど」


「選抜試験程度ならお主に任せきりでも大丈夫じゃろ。儂も午後の試験は危惧しとらん。お主に甘えるつもりじゃ」


ベレンは薄く笑う。

ヴィーも頷いた。ウーラさんも同じ意見らしい。


「じゃが深層でそれが可能か? 否じゃ。場合によればあっさり死ぬ。」


「……うん」


ベレンが大切な話をしていることに、ようやく気付いた。


「深層で致命的な事態になったとしたら、リコはお主のためにその命を使うじゃろう。使えればな。」


「僕はそんなこと…」


「うむ。先の話じゃ。今のお主にそのつもりは無いじゃろ。しかし、リコはそこまで見据えておる。お主に惚れこんでおるのよ。根拠も無しにな」


やれやれ、と息を吐いて。


「じゃから優しくしてやってやれ。死に臨むにあたり、リコが心に嘘を吐かんでええように。」


「…ああ。解かった。…でも、それって全部ベレンの想像なんだろ?」


素直に頷くのは癪だったので少し言い返してみる。


「ハッハ。年長者の言葉は有り難く聞くものじゃ」


ワハハハ、と笑うベレン。




「で、差し当たってリーダーの僕はどうしたら良いの? 探しには行こうと思うけどさ」


少し考えて、リコを探しに行くことにした。

でも、それだけだと後で物言いが付きそうなので意見を求めてみる。

ここ数日の経緯を見るに、僕は女心が分かって無い公算が高い。

そんな時は素直に助言を求めるのが僕のスタイルだ。


「そんなの自分で考えたらええじゃろ」


ベレンは細かい注文がないらしい。偉そうなこと言ってたけどオッサンだしな。

コイツも女心とか分からない筈だ。


「そうですわね…」


ヴィーは真剣だ。


「思わず逃げ出したリコさんは、疲れて立ち止って。振り向いて、シャルハル様が追いかけて来ているか確認して…」


「なんか長そうだな。具体的に…。んむっ」


具体的にどうしたらいいんだよ。と聞こうとしたところで、ウーラさんに言葉を封じられた。

彼女の細い指が僕の唇にそっと添えられている。

反射的に口に含んで舐めたくなるが、きっとそういうプレイではない。ぐっと我慢する。


「シャルハル様が追いかけて来て下さらないことに気付いて。胸がいっぱいになりますわ…」


ヴィーが目を伏せる。今にも泣きそうな表情だ。


「そして手近な階段か何かに腰を降ろして、少し泣くんですの。リコさんでしたら、ギュッと小さくなって。控え目な嗚咽を漏らしながら泣くでしょうね…」


ヴィーがハンカチで目尻を拭う。


「しばらくそうしていても、やっぱりシャルハル様は来て下さらないんです。ああ、やはり私ではあの方のお傍には立てない…そんな絶望が心に広がりますわ…」


ふるふると首を振るヴィー。


「でも。お慕いする方の寵愛が得られないからと言って、諦めるのは間違っている。あの方に、そして自分に失礼だと気付くんですの…!」


語気が強くなり。


「そうして、立ち上がって。顔を上げたら…シャルハル様が目の前に立っておられるんです」


パッと表情が明るくなり、眼が輝くヴィー。


ひょっとしてこれって…。

ウーラさんを見ると、申し訳なさそうに目を閉じ、首を横に振った。


そうか、妄想モードってこんな風なのか。


「『さっきはごめんね。…戻ろうか』そう言ってシャルハル様はその指で私の涙を拭いて下さって。軽く髪を撫でてから、手を繋いで下さるんです」


「『あの…私……。いつも素直になれなくて、ご迷惑をかけてばかりっ!』」


「『いいんだよ、ヴィー。それは僕も同じさ。…ごめんね』そう言ってシャルハル様は優しく笑い、肩を抱いて下さるんです」


「…私は立ち止まって。シャルハル様の手を振りほどき、こう言いますの。『身分が…! 身分がなんだって言うのです! 皇女になど生まれなければ良かった! 愛する人に想いの一つも伝えられないなんて…あんまりですわ……っ! 』」


「私はまた泣きだしてしまうんです。今度は本気泣きですわ。見つけていただけたこと、慰めていただけたことが嬉しすぎて、抑えていた想いが溢れるんですの!」


「(なぁ、これいつまで続くんじゃ?)」


「(ダメだよベレン! 今いいとこなんだから)」


「『与えられた役目は果たさなければいけない。僕には僕の。ヴィーにはヴィーの。あの日、そう約束したろう?』シャルハル様は諭すようにおっしゃいますの。でも、そのお顔は辛そうで…」


「『いっそ二人で、どこか遠くの国へ行ってしまいましょう! 誰も知る人の無い。遠い遠い東の国へ…!』私はシャルハル様の胸に縋ります。困らせると分かっていても言わずにはいられないんです」


「シャルハル様は私の背中にそっと腕を回し、優しく抱いて下さいます『それはできない。…僕にはスーミィがいる。』ああっ! なんという悲劇! シャルハル様は絶対に私のものにならない…!」


「(何かリアルだな…)」


「(リアルじゃのう…)」


「(リアルだね…)」


「(おひいさま…)」


「私は両手を思い切り伸ばし、シャルハル様の腕から逃れようとします。『分っています! 私の想いは叶わ筈ないと…! 嗚呼! いっそのこと死ん…むぐっ!』」


「そこで私の口はシャルハル様の唇で塞がれるんですの。『あ…む………んんっ!』驚きと喜びで、そして悲しみで。私は混乱し身を捩ります。でもシャルハル様は一層強く私を抱きしめて…」


「一度唇が離れ、私は思わず抗議するんです。仕方ありませんわ。ファーストキスだったんですもの『なにを…なさいますのっ!私の唇は……ン…ッ!』」


「私の唇は再びシャルハル様に奪われ『んーー!んっ!ん……ふぅ……ん……』私の唇をこじ開けて、シャルハル様の舌が私の口腔を蹂躙しますの。ブランデーのように甘く強烈な貴方様の唾液に私は抵抗することができなくなり…」


「『あ……ん……! うっ…ああっ……!』いつの間にかシャルハル様の硬い指が、スカートの中の私のお尻を鷲掴みに…」


「そろそろ止めるべきかのう。」


「そうだね。リコ!」


「はいっ!」


ポコッ!と手加減されたリコのチョップがヴィーの額に直撃する。

恍惚とした表情を浮かべ、涎を垂らしていたヴィーの顔が、みるみる元に戻った。


「ハッ!私としたことが……ひょっとして声に出てました?」


「うん。いつの間にか主観がリコからヴィーに変わってた…」


「ああっ…! 殿方に聞かれてしまうだなんて! お嫁にいけませんわ…!」


恥ずかしそうに身体をくねらせるヴィクトリア。

うん、嫁に行くには問題があるな。

かなり恥ずかしい内容だったので、思わずヴィーから視線を逸らしてしまう。


「その…ヴィーって大人なんだね。ボクより全然すごいや…」


頬を染め、困ったように笑うリコ。


「あら? リコさん戻って来てらしたの?」


ようやくヴィーがリコに気付く。

そう。ヴィーがトリップに入った頃、リコが事も無げに戻って来たのだ。

迎えを待っていてもしょうがないと早々に判断したらしい。

追いかけなかったことには少し怒っていたが、もう構わないとのこと。


「さっきはごめんね。リコ。甘いのはあんまり得意じゃないんだ」


「もういいよ。ボクも配慮が足りなかったし…」


シュンと落ち込むリコ。


「だから。今度料理でも作ってくれないかな? ちゃんと付き合うから」


リコの方に手を置き、3割増しの笑顔で微笑む。


「うん! 任せて! あとで好きなもの教えてね!」


パァァっとリコの表情が晴れる。


「よし。んじゃ移動しようか。選抜試験の準備だ!」


僕は荷物を纏めるとリコの手を取った。


「あ……えぅっ?」


ドキマギするリコに微笑みで応える。

相変わらず柔らかく、小さな手だ。

くすぐると真っ赤になるリコの反応が瑞々しい。


「近くに祖父の館がってね。そこを拠点にしよう」


僕は目的地を告げ。リコの手を引き、一行を先導する。


さぁ、ダンジョンアタックの準備だ。








いつもお読み下さりありがとうございます。



昨日とても嬉しいことが……ブックマークが1件増えてました!

ありがとうございます!励みになります…!

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