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僕のパーティ編成(4)

トゥルンバの解説を文中に追記しました。(2016/03/08)

筆者は年に一度くらい食べたくなります。






各人の前にコーヒーが並べられる。


ヴィクトリアは帝国式のコーヒー『カフィー』。


リコは帝国南部のコーヒー『カッフェ』。


僕とウーラさん、ベレンは東部のコーヒー『カーヴェ』。


髭オヤジのベレンだけ砂糖大&菓子付きなのが何ともなぁ。


ベレンが頼んだ菓子。トゥルンバだが、帝国でもシダスなど東部でしか見かけない菓子だ。

小麦の生地を揚げ、甘い甘いシロップに漬けたもの。地元の人間でも好みが分かれるほど甘い。

店によって味が違うらしいけれど、概ね凄く甘いので僕には違いが分からなかったりする。

それを2個注文するベレンは、筋金入りの甘味ファンだろう。


女給さんは配膳を終えると一礼して立ち去った。


ウーラさんは僕に勝手にコーヒーを注文され戸惑っていたが、席を勧めると座ってくれた。

6人がけの丸テーブル。僕の向かいに左からリコ、ベレン、ヴィクトリア。そしてウーラさん。

ウーラさんは僕の隣だ。

テーブルには花をモチーフにした、落ち着いたデザインの布がかけられている。

見慣れない細かな模様で、よく見ると面白い。


皆がカップに口を付ける頃、少し空気が落ち着いた。

自己紹介を再度切りだすことにする。

先程は女給さんの登場で自己紹介の頭を潰されてしまったが、その程度で僕の自己主張熱が治まる筈は無い。

ベレンのモジャ髭にクソ甘そうな菓子が捕食されるのを横目に僕は口を開く。


「ええと、僕はシャ…「おおっ。こいつは当たりじゃの!」」


ベレンの歓声に僕の言葉は消されてしまった。


「うむ。これはなんじゃ。油が良いのか。」


もっちゃもっちゃ


「いや、この香りは…むむ、ちょっと蜂蜜かの? それもただの蜂蜜ではないのぅ」


もっちゃもっちゃ


「むぅ。これはいかんな。むむむ」


もっちゃもっちゃ。

喋りながら食うなよ。汚い。

ちょっと飛んだじゃないか。まったく…


「そのお菓子なんですの?」


さすがに女の子だな。ヴィーが喰い付く


「ん? ヴィー知らないのか。トゥルンバだよ。揚げパンをシロップに漬けた感じかな」


「クラップフェン…にしてはテカテカしてますわね?」


不思議そうな表情。


「へー。ボクも知らないや。チュロみたいだけど。美味しいの?」


「癖があるかなぁ。たまに食べたくなるけど、それ凄く甘いんだよ」


そう、凄く甘い。スーミィに一口貰うくらいで丁度いい感じだ。


「甘いのは大好きですわ! ウーラ?」


注文してもいい?と確認するヴィー。ウーラさんは頷き、女給さんを呼ぶ。

いや、甘さの方向性が違うから。


「結構キツいからベレンに一口もらって味見してから…」


「嫌じゃ! やらんぞ!」


「一欠片くらいいいだろ? ベレン。丸丸1個残ってるんだし、そのコーヒーもきっとクソ甘いよね?」


「嫌じゃ! これ美味しいんじゃ! 食べたかったら注文せい!」


「何で怒るんだよ…ってウーラさん注文しちゃった?」


ベレンの剣幕に圧されてる間に、ウーラさんからオーダーを受けた女給さんは行ってしまう。


「はい。一人一個で計五個注文しました。」


「そうか…まぁ伝統菓子だし食べておいてもいいよね」


甘いだけで毒じゃないから。ちょっと頭がボーっとするかもしれないけど。


「それにしてもコレ美味しいのぉ。儂ぁこの予備校に通うのが楽しみになってきたわい」


ベレンは残った1個をナイフで小さく切り、ちまちま口に運んでいる。


「ベレンは甘い物好きなの?」


好きなんだろうけど聞いてみる。


「好きに決まっとろうが。鍛冶は肉体労働じゃし、疲れたら甘い物が欲しくなる」


もちゃもちゃ


「儂の専門である機工や錬金は頭を使うからの。こっちも甘い物が欲しくなる。」


もちゃもちゃ


「へぇ。甘味もいけるんだ。ドワーフって言うと酒ってイメージだったよ」


「もちろん酒も好きじゃ。なんでも好きじゃな。ガハハ!」


ははは。豪快でいいな。


「ベレンてば屋台でもなんか甘そうなの買ってたよね。見てるだけで胸やけしちゃったよ」


リコも甘すぎるの苦手か。

僕もああいう砂糖全開なのはキツイ。


「私は甘い物ならなんでもいけますわよ!」


胸を張るヴィー。いや、威張る所じゃないだろ。


「おひいさまはお茶の時間を大切にしておられます。遠征が無く帝都におられる日は、日替わりで甘味を取り寄せておりました。」


「お、お姫様っぽいな」


「失礼な。ちゃんとしたお姫様ですわよ!」


「そういやそうだったか。漏ら…おっと。」


「っ!」


ヴィーの顔がカっと赤くなる。

しまった。どうしても漏らした印象が強くて口に出してしまった。

そう。姫は姫でもお漏らし姫。


「ごめんごめん。まぁ忘れられるもんじゃないし、頻繁に話題にすることで慣れちゃおう」


「そ…そうですわね! いつか大切な思い出になるでしょうし!」


うん、前向きな女の子って好きだな。


「そうそう! 実際素敵だったしね。また見たいな!」


「嫌ですわ…シャルハル様。そんなの…」


ぽっと照れるヴィクトリア。


「はぁ、付いてけないよ…」


スーミィから経緯を聞いたであろうリコは、脱力してテーブルに肘を付いている。


と、


「トゥルンバをお持ちいたしました」


女給さんがやって来た。テーブルにべっとり光る菓子が5個載ったお皿を置く。

わずかな間を開け、追加注文が無いことを確認すると女給さんは別のテーブルに向った。


ウーラさんがトゥルンバを配る。


「僕はいいや。ベレン二個で。ウーラさんの一口下さい」


ウーラさんは頷き、各人の前に菓子が置かれる。

ベレンは目の前に置かれるやいなや丸ごと口に放り込んだ。

大丈夫なのかあれ。砂糖で血管が詰まって死んだりしないだろうか。


「あら。これ美味しいですわね。甘いんですけど、甘いだけじゃありませんわ」


ヴィーはナイフで切ったものを口に運び、ベレンと似たような感想を述べる。


「そうなんじゃ。ヴィクトリア様にお喜び頂けるとは注文した甲斐がありましたわい」


ガハハ、と笑うベレン。

ベレンはヴィーに割と丁寧だ。臣民っぽいね。


「うぇ。うう…なにこれ甘い……」


一方のリコは迂闊にもそのまま噛り付き、シロップの洗礼を受けたらしい。

皿に置かれた菓子は半分ほど無くなっている。口の中は大変なことになってるだろう。


「だから甘いって言っただろ。でもカッフェなら合うんじゃないかな」


言われてコーヒーで口直しをするリコ。


「美味しいとは言えるけど…でもやっぱり甘いや」


力無く笑うリコ。甘いのに苦々しい表情だ。


「シャルハル様、どうぞ。」


ウーラさんがフォークに刺したトゥルンバを勧めてくれる。

あむ、と口を閉じると同時に、ウーラさんが僕の唇からフォークを引き抜く。

お、美味しいな。

久しぶりに口にするからか、この店の技術が高いからか。

久々に食べたトゥルンバはすっと喉を通る。


「美味しいね。かなり甘いけど」


頬を緩めてウーラさんに笑いかけると、微笑みを返してくれた。

あ、なんか幸せだな。

やっぱりウーラさんはアリかもしれない。

護衛の仕事で忙しいけど、付き合うとなればヴィーも多少時間を融通してくれるだろう。


ウーラさんがお休みの日は、王都の隠れた名店でデートするのだ。

お姉さんぶる割に免疫の無いウーラさんは、リードしようとして失敗して。

結局その日のデートは僕にリードされることになって…


「あの…ハル君!ボクの余っちゃったから手伝ってくれないかな!」


ひぃ! リコが凄い勢いで立ち上がった!

ブンっと突き出されるフォークの先には、リコの歯型が生々しいトゥルンバが突き刺さっている。

シロップが…シロップがジワジワしてる。


「僕はさっきのウーラさんので十分堪能したから…」


丁重に断ってみる


「おお、それなら儂が…」「ベレンはいいのっ!」


ビクっと身を竦めるベレン。


「嫌いじゃないんだけど、それ半分以上あるよね? 食べるのキツイです…お昼御飯もあるし…」


何故か言い訳させられてる僕。

食べられない訳じゃないってのが問題なんだよな。

女の子が勧めてくれてるし、バランス的に食べてあげたいけど流石にそんなに沢山は…


「さっきウーラさんの食べてたじゃない!」


「あれは僕がお願いしたからで。あ…そうか」


そういや『あーん』してもらってたな。

リコは僕に軽く好意を寄せてるみたいだから、嫉妬と言うか対抗心が燃え上がったのか。

ガチ恋愛じゃなくてもそういう時ってあるよね。

どうしよう。と悩んでいると、


「…シャルハル様。 あーんなさっていただけます?」


ヴィーがフォークを差し出した。

そうそう。これくらいの量なら食べられるんだよ。

もう一口くらいは食べたかったしね。


あーんと口を開ける。

華やかな笑みを浮かべるヴィーと眼が合った。

ちょっと恥じらいが混じってて美しい。

トゥルンバを口に含むと、鋭いながらもほんのりと花の香りがする甘みが広がる。

お、これが蜂蜜か。なるほど。


「確かに蜂蜜だね。へぇ。美味しいな」


「ええ。私も気に入りましたわ」


明るい笑顔でフォークに残ったシロップを舐め取るヴィクトリア。


「ああっ! 舐めた! フォーク舐めた! ずるい!」


うん。ヴィーは僕の口に入れたフォークをそのまま舐めたね。

変態的っていうか変態だよね。

僕もちょっとだけ「うわぁ」って思ったけどスルーしようとしたんだよ?

なんでそこ拾うんだよリコ。


「ボクも舐める! ハルはやく食べて! ボクもハルの唾液欲しい!」


リコさん、大声で危険なフレーズ並べないでください。


みんなまたこっち見てるし。『また出し物はじまった!』て感じだ。

いい加減、見物料を取りたくなってくる。



「ごめん、いろいろお腹いっぱいで無理です」



「うわぁぁぁぁぁん! ハルのバカぁぁぁぁぁぁ!」



ガタタンッ!と椅子を蹴散らし、リコは中庭から走り去った。













お読みいただきありがとうございます。


シロップ漬けのお菓子は色々ありますよね。

筆者は近所の洋菓子店の、白ワインシロップのケーキがお気に入りです。


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