僕のパーティ編成(2)
中庭に着いた。
数組のグループがわいわいやっており、早くも学園気分が漂っている。
いいね。こういうの。
薄いブラウンの煉瓦と濃色の木材の建物に囲まれた中庭。
やや明るい色の石畳。若木が数本植えられ、ナチュラルな雰囲気に纏められている。
テーブルと椅子はきちんと並べられていた。
ヴィクトリアに暴行した際、スーミィの魔法が派手に吹っ飛ばした痕跡はない。
説明会前にスーミィとリコが戻したのだろうか?
お漏らしした跡も無いため、きっとそうなのだろう。
スーミィは割と魔法で何とかする。凄いぜスーミィ。
中庭は食堂のテラス席のような扱いになっており、となると建物の中には食堂がある。
覗き見るに、上品な雰囲気なのでカフェテリアと呼ぶべきか。
現在時刻は10時半。
開店準備中だろうか、ガラス越しにテーブルを拭く女給さんが見える。
奥に進むとベレン、リコ、ヴィクトリアが木製の丸テーブルを囲んで座っていた。
何故か盛り上がっている。何をしてるんだろう。
護衛のウーラさんはヴィクトリアの側に立っていた。
チラ、とこちらをみるウーラさん。
3人はテーブルに置いた薄い冊子を、身を寄せ合って覗き込んでいた。
僕には気付いたようだが、そちらの方が優先らしい。
立ち上がってパーティリーダー(僕のことだ)を迎えるような演出はなかった。
「お待たせ。えらく熱心だね」
声をかけ、席に着く。
「シャルハル様! 少々お待ち下さいな」
ヴィクトリアが完成されすぎて気持ちの薄い笑顔をこちらに向け、
「うむ。だいたい決まったのでな…」
ベレンは相変わらず渋い表情で、
「うーん、ボクやっぱり甘いのやめとこうかな…」
リコは珍しく神妙な顔をしていた。
歓迎されなくてちょっと寂しい。
歴史に名を残すパーティ誕生の瞬間だというのに、意識の低い奴らだな。
などと、心の中で毒づきながら席に着く。
と、ウーラさんがこちらに歩み寄り、小声で状況を説明してくれた。
「食堂が営業中で。先ほど女給がメニューを持ってきました。お嬢様達はそちらに夢中です。」
「つまり何を頼むかで揉めてるの?」
僕がげんなりした顔をすると
「そういうものです。」
ウーラさんが言い切る。
そうか、そういうものなのか。
「ウーラさんは何を頼むの?」
「私はお嬢様の護衛ですので、食事は別にいただきます。」
「お茶は?」
お茶=お茶の時間の飲み食いね。
「水分は適度に摂取しますので問題ありません。」
ティータイムは無しか。護衛も大変だな。
「ウーラさんは護衛なの?」
ついでだし聞いてみよう。
「はい。3年前より護衛を務めさせていただいております。」
自信ある口振りだ。
「そうなの? もっと付き合い長そうだけど」
ウーラさんはおや? という顔をした。
「はい。護衛になる以前より、おひいさまの側近く侍女としてお仕えしておりました。」
「そうか。幼馴染なんだね」
僕とスーミィみたいなものか。
「そのような。畏れ多いことです。」
何か良いこと思い出したのだろうか、言葉とは反対に表情がほんの少し柔らかくなった。
それにしてもウーラさん、意外と色々答えてくれるな。
「ウーラさんは何歳?」
「19歳です。秋に20歳になります。」
「人を殺したことは?」
「あります。」
「迷宮に潜ったことは?」
「あります。」
「恋人は?」
「いません。」
「男性経験は?」
「あ…ありません。」
「え?そうなんだ」
「…はい。」
いきなり男性経験を問われ、ちょっと動揺するウーラさん。
可愛いな。
でも経験ないのか。身請けされた奴隷かと思ったけど全然違うっぽい。
ひょっとしたら貴族の三女とか四女とかかもしれない。
子供が産めないってのは事故とか病気とかかな?
「実は男性?」
悪戯っぽく聞いてみる
「違いますよ」
ちょっと笑うウーラさん。意外とウケたみたいだ。
この人もちょっとズレてるな。
「僕はウーラさんのタイプですか?」
ウーラさんはちょっと僕を観察して、
「………。」
少し考えて、
「嫌悪感はありません」
可もなく不可も無くか。
「ウーラさんの髪、素敵ですね。」
「ありがとうございます」
薄褐色の肌に、耳の下あたりで切り揃えられた銀髪。
本当に美しい。
「美しいです」
「ありがとうございます。」
ちょっと嬉しそうなウーラさん。
自慢なのかな。
鏡の前で就寝前に髪を梳かすウーラさん。
…エロいな。
「触って良いですか?」
「ダメです。」
「ならば、しゃぶっていいですか?」
「もっとダメです。」
「ウーラさんと言えばお尻も素敵ですが」
「はぁ。」
「お尻に自信は?」
「質問の意味が分かりません。」
「ウーラさんのお尻はとても素敵です」
「あ…ありがとうございます。」
お、照れてる照れてる。
怒ってるのかもしれないが…。
ちょっと話題を変えよう。
「今、ヴィーが監視されていることは?」
「存じております。」
「始末した方が良い?」
「結構です。」
「そうなの? 何か物騒な気配がするけど」
「どちらもおひいさまを害するものではありません。」
「ひょっとして僕、排除されます?」
「はい。仕方ないと思います」
はぁ、と溜息を吐くウーラさん。
「帝国所属の護衛部隊と。お嬢様の支持者が組織した親衛隊です。」
「ヴィーは本当にお姫様なんだね」
「おひいさまは素晴らしい方です。」
ウーラさんはヴィクトリアを見る。
僕も釣られてヴィーを見た。
真剣な眼差しで話し合っている。
ヴォクトリアはベレンとリコの注文に対し、クリームがどうだの甘過ぎるだの食べたことあるだの物言いを付けていた。
自分の好きな甘味を注文させ、ちょっとずつ味見をする魂胆が透けて見えると言うか丸出しだ。
問題はベレンとリコも同じ狙いであることだ。
ベレンは伝統的なクソ甘い濃厚なスイーツ押しで、リコは数種類あるキッシュを幅広く味わう腹積もりだ。
議論は平行線だが、あれはあれで楽しそうなので迂闊に参戦しないことにする。
というか、何で僕の注文まで勝手に決めようとしてるんだ。
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僕の注文(暫定)
・ヴィー案:さくらんぼのジェラート
・ベレン案:チェリーパイ
・リコ案:キッシュ(チェリー)
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何故サクランボ一択なのか。
僕はチーズタルトが食べたいんだけど…。
怖いので言えない。情けなくてすみません。
ウーラさんが話を戻す。
「…親衛隊は厄介です。」
「返り討ちにしても?」
「命は獲らぬよう願います。」
何にしても厄介そうだな。
ウーラさんも形のよい顎に細い指を当てて考え込んでいる。
「ウーラさんの手、綺麗ですね」
「ありがとうございます。」
「手入れなさってるんですか?」
「はい。仕事柄荒れやすいので。」
「身体のお手入れは欠かさない?」
「はい。…おひいさまに叱られますので」
なるほど。ほったらかしにしてて怒られたことでもあるんだろう。
「お風呂上がりに裸で身体のお手入れをするウーラさん…」
「ダメです。」
「妄想してるだけですよ?」
「ダメです。」
「代わりにヴィーで妄想しますよ?」
「う…仕方ありません。」
よし、許可を取ったぞ。
「いま頭の中で、身体のお手入れを終えて寝間着姿になったウーラさんの耳を舐めているのですが」
「ダメです。」
「耳、弱いんですか?」
「知りません。」
「一通り舐めてウーラさんの耳は僕の唾液でベトベトです。」
「ダメです。」
「そして、頭の中のウーラさんは大分ほぐれてきました」
「ほぐれたりしません。」
「頃合いと見て、服の隙間から胸元に手を入れてみます」
「ダメです。抵抗します」
「ハハハ。僕は身体強化してるので無理ですよ」
「むぅ。」
「胸に自信は?」
「ありません。」
「形は良いと思いますよ」
「あ…ありがとうございます。」
慣れてきたのかちょっと嬉しそうなウーラさん。
「実際に触って確認してもいいですか?」
「だ…ダメです。」
そりゃ駄目だよね。
……ふむ。
「ところで自慰はなさいますか?」
「じい?」
「ウーラさんの細い指で、ウーラさん自身のおだいじを撫でる等して気持ち良くなることですが」
ウーラさんはちょっと考えて。ハッと頬を赤くする。
「こ…答えられません。」
「へー」
わざとらしいニヤニヤ笑みを浮かべながら、ウーラさんの身体をじっとり眺め回す。
「し…シャルハル様は、私のタイプではありません。」
ウーラさんが呟いた。
「そうなの?」
「はい。嫌いです。」
「えー」
ニヤニヤ。
「残念だなぁ」
ニヤニヤ。
「そうです。残念なのです。」
プイッとあっちを向いちゃうウーラさん。
仕草が素敵だ。研究してるんだろうか。
可愛いなぁ。
それにしても、「からかわれてくれる」年上っていいな。
無視したり怒っちゃったりしてもいいのに、適度に付き合ってくれる。
護衛の仕事中だから若干無愛想にしてるけど、ウーラさんはとてもチャーミングな人なのかもしれない。
いいな。ちょっと好きになって来た。
本気で狙ってみようかな。
などと考えていると…
「…お主、さっきから何を言っとるんじゃ」
ベレンから声がかかる。
しまった。つい夢中になってた。
ハッと我に返り3人の方を向く。
そこには呆れ果ててげんなりしたベレンの渋面と、
限りなく冷たい視線を僕に向ける、リコとヴィクトリアの顔が並んでいた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
お付き合いくださり幸いです。




