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僕のパーティ編成(1)

「ベレン、中庭に行こう。テーブルがあるんだ」


午後から行われる予備校の選抜試験は、入学希望者同士でパーティを組んで受ける。

パーティが組めなかった場合は、最終日に組めなかったもの同士で臨時パーティを編成し試験を受けることになるそうだ。

あと複数回受けても良いらしい。知り合い同士で組もうとして、人数オーバーしても大丈夫ってことだな。


パーティ人数は3名から6名まで。

さて、どうするか。


リコとベレンは僕と組むと理解していいだろう。


「リコ達に他の連れっている?」


「はい!2人います!」


お、他にもいたのか。


「実力は足りそう?」


試験だから足手まといとは組めない。お互いに辛い思いをするだけだ。


「大丈夫です! 腕はスーミィさんが保証するそうです!」


へぇ、珍しいこともあるもんだ。

スーミィを見るとニタリと笑っていた。

もうちょっと可愛く笑って欲しい…それはそれで気持ち悪そうだが。


「じゃ、その2人と合流しようか。ベレンと荷物持って中庭に行ってるから、呼んできてくれる?」


見たところ会場内にベレンとリコの知り合いはいないようだ。


「いえ! そちらにおられます!」


おお、なんだ。いたのか。

そりゃ手間が省けたな。


リコの視線を辿ると…


「シャルハル様、パーティに加えていただき感謝いたしますわ」


「お嬢様ともども。世話になります」


優雅な立ち姿のヴィクトリアと、一礼する護衛のウーラさんがいた。

腰を折るウーラさんの銀髪がサラサラと流れる。美しい。


ん?


「あ…はい。よろしくお願いします」


ん?何かおかしい気がするぞ。


でも自然な流れすぎて口を挟めなかった。

リコとヴィクトリアは先ほど知り合ったのだろう。連れと言えなくもない。

言えなくもない…


「ふむ。これで6人か。メンバーも決まったようじゃし行くかの」


ベレンは腰を上げ重そうな荷物を担ぐ。

リコも鎧櫃を担ぎ、ヴィクトリア達と談笑しながら中庭に移動していった。


「6人?」


足し算しても5人の筈だが…


「私を忘れるとはいい度胸だねぇ…」


背後からドスの効いた可憐な声がかかる。

ドスが効いてるのに可憐なんだぜ。皆にも聞かせてやりたいぜ。

それは置いておいて。


「もしかしてスーミィも来るの?」


「学院生は予備校受けちゃダメってルールは無いしねぇ」


資料をピラピラさせるスーミィ。


「受けたら受かると思うけど、どうするの?」


素直な疑問を口にする。

スーミィは魔法学院への入学が決まっている。しかも特待生だ。


「そりゃ予備校に通うに決まってるさ。ハル君一人で放っておけないからねぇ」


「あの、過保護すぎませんか?」


それはちょっと恥ずかしすぎる。

スーミィはジト眼で僕を睨む。返事はない。


ん?もしや。


「ひょっとして。パーティの可愛い女の子を、僕とくっつくんじゃないかって心配?」


「そ…そんなんじゃない」


ぷいっとそっぽを向くスーミィ。

すごく可愛いな。


「そうか。なら…」


誰とくっつこうかな。顔を思い浮かべて…


「よし。ウーラさんあたり狙ってみようか」


パーティの女の子と性交渉するなら、まずリコとヴィーは除外だな。

迂闊に初めての人になっちゃったら添い遂げるとか言いだしそうで怖い。


ウーラさんは経験者だろうし割り切ってお付き合いができる。

護衛の立場上、ヴィーを狙ってるフリをしたら身代わりにヤラせてくれそうだし、何よりあのお尻は素敵だ。

年下の僕にどうしてもとお願いされて。ってのも行為へのハードルが下げられそうでアリだな。


あと。生い立ちが不幸っぽいから、優しくしたら意外と本気になってくれるかもしれない。

こう、良い意味で尽くしてくれそう。

何ともない風を装いながら、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるとか。

僕の腰の上で、薄褐色の肌に肩で切り揃えた銀髪が跳ねたりとか。

普段は冷たい瞳が、快感に濡れて僕に縋ったりするのだ。


たまらないな


「どう思う?スーミィ」


「…具体的過ぎてキモい」


「それが僕のいいところじゃないか」


ハハハ、と笑って彼女の顔を覗きこむ。


「怒らないでよ、スーミィ。冗談だよ」


「…面白くない」


ありゃ。本当に心配してるのか。

無神経だったな。反省しよう。


「心配するなよ。僕の一番はずっとスーミィさ」


うー。っと唸りながら俯くスーミィ。僕はその手を取り、


「ほら。行こうか」


機嫌直せよ、と握った手を軽くこちょこちょする。


「うー。…ムフッ」


お、笑った笑った。


「よし、じゃぁ行こうか!」


と気分が盛り上がったところで、


『コンッッ』


と小気味良い音を立て、黒い鉄木の杖が僕の手を打ち据えた。

衝撃でスーミィの手と僕の手が離れる。


「痛っ!」


いやマジで痛いよ。関節を狙いやがったな。

誰だ!と視線を向けると、さきほど挨拶していた来賓の婆さんがいた。


「何で婆さん?」


魔法学院の学院長だったか。クローダーさんだっけ。


「ふん。隙だらけだね。クソ坊主。」


痩せぎすな体に紫色のローブを羽織っている。

身長は170くらいか。僕とそう変わらないが、存在感が凄い。

婆さんは婆さんなんだけど、こう、全体的に美しい婆さんだ。

躊躇い無く暴力を振るい、苦々しい表情を浮かべてるのに美しいってのは凄いな。年の功か。


「シャルハルと申します。クソ坊主でも構いませんが。僕達に何か御用ですか? あと手が痛かったから謝れ。」


変に下手に出ると却って怒らせそうだな。

普通に対応しよう。


「お前さんには用なんて無いよ。ブーンリシトのクソ餓鬼め。用があるのはスーミィちゃんさ」


む。叔父さんが僕のこと紹介したのかな。

ブーンリシトの家は古いだけあって嫌ってる人もそれなりにいたりする。

婆さんもそんな一人なんだろう。

あと謝らなかったな。スルー婆と呼んでやる。


「私に用? 何も聞いてないけどねぇ」


なんだろう?と首を傾げるスーミィ。


「アンタは魔法学院の特待生なんだから。予備校なんかで遊んでる暇はないんだよ! 一秒一刻が貴重なんだ! 一緒においで!」

婆さんはスーミィの腕をガシっと掴むと、ぐいぐい引っ張って行く。


「ああっ! スーミィッッ!」


腕を伸ばし追いすがる僕(勿論ポーズだ)に婆さんが吠える。


「休日は会わせてやるから! それで我慢おしっ! この娘の周りをウロウロするんじゃないよ! 野良犬がっ!」


婆さんに連れ去られるスーミィ。

しょんぼりとこちらに手を振り振り、講堂から退場して行った。


それにしても野良犬とはひどい言い草だな。

少なくとも飼い犬ではないから、野良犬に近いのは近いだろうけど。

そもそも初対面の少年に向かって、立場ある大人が犬呼ばわりするのはどうかと思う。


「密偵のことをイヌと呼ぶ場合がある。ブーンリシト家はウィレンの闇を代々担ってきた。

まぁ暗部はウチの家だけじゃないが目立ってたからな。

クローダー家も旧い家の一つだし、思うところもあるだろうよ」


小さく憤慨する僕の耳に、やたらと渋く甘い声が囁いた。

デル叔父さんだ。

いつの間にか隣に来ていたらしい。


「叔父さん。ご無沙汰しています」


「久しぶりだな、ハル君。また背が伸びたか?」


叔父さんは嬉しそうに僕の成長を褒める。


「背ぐらい誰でも伸びますよ。中身も伴えばいいんですが」


「伴ってるさ。冒険者学校の試験に落ちたのはタイミングが悪かったな」


叔父さんは人影もまばらな講堂の出口を見た。

ヴィクトリア。統一帝国の皇女。試験の倍率が上がった原因の一つだ。

今そこに彼女の姿は無いが…


「思うところはあるだろうが、ハル君はハル君なりに与えられた状況を楽しめ。

子供の仕事は楽しむことだ。そうでなくちゃな。

予備校の寮が開かれるまでは館の部屋を自由に使ってくれ。友達も泊めていい。細かいことはノーマンに。」


叔父さんは用件を伝えると、一度僕の肩を抱いた。

やもすると台詞が小難しくなるのは遺伝なのだろうか。

でも叔父の口調は好きだ。心地いい。血縁を感じるな。


「じゃ、またな」


叔父は少し笑った。


次に会えるのはいつになるのやら。


彼は予備校職員に何か伝えた後、足早に会場をを立ち去った。




僕は講堂に一人残された。


暖かいのは暖房のせいだけではない。


明り採りの窓から、暖かい陽光が差し込んでいる。


もう春か。


僕は自分の荷物を担ぎ、皆が待つ中庭へと歩き出す。









お読みいただきありがとうございます。

ご意見、ご感想など頂戴できると幸いです。とても励みになります。


また、小説家になろう!のことよく知らないので、システム的なアドバイス等もいただけると幸いです。

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