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僕の予備校説明会(7)

「ほれ、シャルハル殿。起きんか」


ペチペチと頬を叩かれる。


「………んぅ?」


ここはどこだろう。

割と明るいな。

誰かが頬を叩いて僕を起こそうと…


また、ぺちぺちと頬を叩かれる。


「……んお。ああ……。説明会は?」


目を開くと、モジャ髪のドワーフが僕の顔を覗き込んでいた。

ここは予備校の説明会場、講堂だな。

朝来た時より人が多い。


スーミィに殴られて気絶したのをここまで運ばれたのだろう。

今は椅子に座らされている。


「起きたか。まだ始まっとらんよ」


ドワーフのベレンは安心した様子で、隣の椅子に腰かけた。

ドワーフだけあって立っても座っても顔の高さが変わらないな。

僕はドワーフと交流したことがほぼ無いので、ちょっと不思議な感じだ。


「具合はどうじゃ? 二人して思い切り殴りおって。死んだと思ったわい」


怪我は…うむ、リコにやられた腹に違和感はない。

スーミィにはどこを殴られたのかさえ判らないが、身体で特に痛い個所は無い。

リコが治癒してくれたのか。


大抵は体内魔力と肉体にズレみたいなのが残ったり、魔力で修復した箇所と無傷の部分の間に違和感が出たりするんだけどそれが無い。

物凄く痛かったから致命的なダメージを負っていたと思われるが、跡形なく治っている。


凄い技術だな。


「大丈夫です。ご心配をおかけしました」


力無くニコっと笑ってみる。


「すみません。痴話喧嘩に巻き込んじゃって」


心配してくれたのか。

この人は僕のパーティの良心になりそうだな。

ドワーフだけあって義理とか人情とかが残ってるんだろう。


じっと眼を見て丁寧に礼を述べる。


「い…いや、無事ならいいんじゃ。うむ」


うん? ベレンが少し動揺しているように感じる。

心なしか頬が赤い。

何だろう。何かあったのかな。


「あの、どうかしました?」


ずずいと距離を詰める。

スーミィに何か吹き込まれたのだろうか。


「いや、その…シャルハル殿。申し上げ難いのじゃが…」


ベレンが僕の腰のあたりをチラチラ見る。


「スーミィ殿の魔法で粗相をしておられてな。さっき儂がお着替えを…」


「……すみません」


「ああ。いや………」


気まずくなる。


恥ずかしいと言うか、


こう、


限りなく申し訳ない感じだ。



何か話題は…


と、ここでスーミィの姿が無いのに気付いた。

リコも居ないな。


離れた席に座ってるんだろうと思っていたが講堂から出ているようだ。


「スーミィとリコは?」


どこに行きました?とベレンに訊ねる。


「うむ。その…スーミィ殿の知り合いのところに荷物を持って行くと…」


ああ、ヴィーとウーラさんに着替えを届けに行ったんだな


「…漏らしたので着替えを届けに行くそうじゃ」


言い難そうにベレンが呟く。


そこは無理に言わなくてもいいと思うのだが、


スーミィが『もう一人漏らした奴がいるからパンツを持って行ってやる』とか、

『もう一人はこっちで面倒見るからハルは宜しく』とか言ったに違いない。


「あの……」


「いや、儂は大丈夫じゃ。大丈夫じゃ…」


赤くなって視線を逸らすベレン。


気まずいな。


しばらくするとスーミィとリコが戻って来た。

女の子同士、ちょっと親しげな雰囲気で、ちょくちょく言葉を交わしている。

リコはフレンドリーだからな。スーミィはいつも通りローな表情だが、良く見ると機嫌が良いと判る。


「ハルさん! ベレン! お待たせしました!」


二人は僕とベレンの後ろの席に陣取る。


「ふふ…パンツはもういいのかい?」


スーミィがニヤニヤ笑みで僕を嘲笑う。


「…うん。ベレンが。ありがとう、ベレン」


もう一度ベレンに礼を述べる。


ヘタに言い返さない方が良いだろう。

しばらくの我慢だ。

今夜の計画に変更は無い。

ベッドの上で存分に意趣返ししてやるからな、スーミィ。


今夜の計画に変更が無いのは、スーミィがその気になってるかもしれないからだ。

ベレンの言葉を信じると、まんざらでも無かったようだし。


部屋の鍵とか、窓の鍵とか開けて待っててくれるかもしれない。

何だかんだ言いながらワクワクしてるスーミィの期待を裏切ることはできない。


ビリビリやられて漏らしてしまったことは残念だが、僕が情けないのは元かららしい。大丈夫だ。

情けないポイント100点持ってたのが、105点に加点されたくらいだろう。

気に病むレベルじゃない。


なので今夜は予定通りスーミィの部屋に…。

そして二人で大人の階段を…。

きっと可愛い。ああ、そうだとも可愛いよスーミィ…。



「あの…隣。よろしいでしょうか?」



スーミィの痴態を思い浮かべ、トリップ寸前だった僕。

そこに不意に声を掛けられビクッとなる。


「は…はいっ! どうぞ…ぉお?」


慌てて返事をし振り向くと。


恥ずかしそうに微笑むヴィクトリアと、油断なく視線を配るウーラさんの姿があった。


「それでは失礼いたします」


金髪の縦ロールをふわりと揺らし、ヴィーが僕の隣に腰掛ける。


「他の席に座るべきなのでしょうが、」


彼女はややぎこちない笑みを浮かべながら僕と視線を合わせ、


「私からシャルハル様にまだお詫びしておりませんし、この迷宮都市に滞在する間、ずっとシャルハル様を避け続けることはできませんから」


理性的に、彼女は言葉を繋ぐ。

こっちが普段のヴィーなんだろう。

テンションが限界まで上がると高笑いキャラになるとか。そんな感じなのかな。


「僕こそ、いろいろと失礼な発言を。取り消すつもりはありませんが…」


言い淀む僕に、彼女の表情が陰る。


「…一つ気になることが。ああ、大したことじゃないので大丈夫ですよ」


にこっと笑ってみる。

深刻な話か?とヴィーとウーラさんの態度が硬くなったからだ。


「なんでしょうか」


ヴィーが肩の力を抜く。


「ヴィーのパンツは今どう…」


「リコ。」


「はいっ!」


スーミィの指示で、身体強化魔法の恩恵を受けずとも十分に強力なリコの手刀が、僕の首筋に襲いかかる。


ハハハ。甘い!甘いぞ!


そう来ることは予想済みだ。


『ガギンッ!』


僕は障壁でコートした右手でリコの手刀を受け止めた。


「えええっ! なんでっ!」


一撃を無効化され驚くリコ。


「ふっ……判っていれば対処可能だ」


そのままリコの手を優しく握り、剣を持つにしては柔らかな手をするすると愛撫する。


「ちょ…っと! 変な触り方…しないで…うぅ…」


非難の言葉を口にしながらも、予想外の反撃に狼狽するリコ。

ふふふ。ちょろいな。


残念ながらヴィーへのセクハラを邪魔させる訳にはいかない。

これは僕に与えられた権利なんだ。


お漏らしシーンをじっくりとっくり見た僕が、お漏らししたヴィーに濡れた下着をどのように交換したか事細かに訊ねる。

羞恥のあまり、顔を真っ赤にしながらも、敗者として説明の義務を果たそうとするヴィー。王族の矜持が適当に流すことを許さないのだ。

相槌を打つ僕の好色な笑みに晒されながら、ヴィーはいつしか快感を覚え…ああ、想像しただけで素晴らしい。


僕はもう一度最初からやり直すことにした。


「ヴィーの下着は、今どうなっているのかな?」


とりわけ明るい笑みを浮かべ、僕はヴィクトリアに問いかける。


「あの…その…」


もじもじするヴィー。

いいなぁ。

コレだよコレ。


「あの…まだ……っ!」


意を決したように顔を上げるヴィー。


「あの…まだ洗っておりませんので…差し上げますっ…っ」


恥ずかしさのあまり手で顔を覆うヴィクトリア。


え?


え?


さっきの声ってちゃんとヴィーさんの声ですよね?


なんだって?

パンツくれるって?


慌ててスーミィを見る。

呆然としていた彼女は、僕の視線に気付くと慌てて首を横に振った。

うむ、奴が魔法で何か小細工をしている様子は無い。

しかも心底嫌そうな表情をした。

これはアレだな。きっと同族嫌悪だ。



などと馬鹿なことを考えている僕の上着の袖を、細い指がそっと引く。



何が起きてるの?とリコを見ると、彼女も驚愕の表情を浮かべていた。



服の袖が、もう一度。ちょいちょいと引かれる。



ゆっくりとそちらを振り向くと、やはりというかヴィクトリアだ。



ヴィクトリアは頬を染め、モジモジしながら俯き加減にこちらを見た。



「先程はその…私のショーツが大変お気に召したご様子でしたので……」



羞恥に震える碧い瞳が、上目遣いで僕の魂に突き刺さる。



「その…穿き古したもので恐縮ですが…差し上げましょうか?」



おずおずと勇気ある申し出をする、統一帝国は第四皇女。ヴィクトリア・フォン・アインハイト。



その控え目な笑顔は、講堂の窓から差し込む陽の光に、美しく輝いていた。









お読みいただきありがとうございます。

ご意見、ご感想など頂戴できると幸いです。

何よりの励みになりますので、是非とも!

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