僕の予備校説明会(6)
「今夜、スーミィを強姦する…徹底的に…」
うむ。名案である。
山向こうの共和国であれば、入籍がどうとか本人の意思がどうとか問題になるだろうが、
帝国法と帝国裁きの例に照らすと、現時点で僕がスーミィを強姦することは合法である。
なぜ合法となるのか?
一応根拠がある。
まず合法ではない場合。犯罪とみなされる場合についてだ。
親同士の了解が無い場合に、娘さんを強姦することは完全にアウトである。
普通にダメだな。
基本的にダメ。一生を台無しにする上、深く恨まれる。殺されても文句は言えない。
また明らかに親同士の合意が得られない場合は、和姦でも強姦扱いとされる。
貴族と平民とか、結婚詐欺とか、相手が賤民だったとかだね。
身分違いの者を家に入れないための工夫だったり、金目当てに誑かされた場合は排除しなきゃならない。
強姦が合法となる場合は?
親同士の了解がある場合は、無理矢理やっちゃっても構わない。
合法と云うよりも、犯された女性側の訴えが棄却される流れになる。
本人の望まない結婚というのは往々にあるため、いちいち裁いてられない。
次は強姦した男性の身分が高い場合だ。
身分があればお気に入りの女の子を無理矢理やっちゃっても割と合法だ。
合法ではあるけれど、相手の女の子に両想いの婚約者がいたり、女の子の家が裕福だったりすると、処罰されたり、怖いお兄さんがやってきて不具にされたりするので注意が必要だ。
あとは戦争中かな。
敵方の平民のお嬢さんなんかは、やっちゃってもOKな雰囲気である。
ただし恨まれたりするので、やってから殺すことも多い。
貴族のお嬢さんは戦争中でも表向きはやっちゃダメだったっりする。
犯さず自陣営の主家に差し出すことが望ましい。
身代金が取れるし、勝った後の統治に利用できたりするからだ。
なので捕まえた貴族のお嬢さんをどうしても味見したい場合は、十分に楽しんでから殺すか、
楽しんだ後、身分を証明できない状態で奴隷商に売るかになる。割とニーズがあるらしい。
貴族嫌いの平民の将兵が良家のお嬢さんを捕まえた場合は、それなりに悲惨だったりする。
虐げられた恨みだとか、戦闘による高揚感とか、そんなことでは説明できないくらい酷いことになったりする。
その手の話はいっぱいある。同じ人間とは思えない所業になったりする。
…話が逸れてしまったな。
ちょっと隣のスーミィの表情を伺ってみる。
「っ! ……ふん」
こちらを見上げたスーミィと目が合った。
先程のプロポーズ(何度目かはわからない)の余韻か、幸せな雰囲気が漂っている。
しかもちょっと頬が赤い。そして思いだしたように視線を逸らすスーミィ。
これは完全に襲って良いのサインだな。
さて、僕とスーミィの場合が合法か? 犯罪か? だが。
まず僕とスーミィは親…正確には両者とも実の親ではなく親権者であるが、その了解を得ている。
これは既に婚約関係にあると言える。正規の婚姻に発展可能な内縁とも言える。
次に僕の親権者である祖父は、貴族ではないものの一帯の領主であり、僕とスーミィは同じ村の出身である。
つまり制度上スーミィが僕を嫌悪していても、僕がスーミィを強姦して罪に問われることはない。
合法かどうかで言うと確実に合法だ。
「合法は合法でも合法ロリって感じだが…」
思わず口元に笑みが浮かぶ。
最後に、僕とスーミィは深く愛し合っている。
社会通念とか法とかはもはや障害にならないほど深く愛し合っているのだ。
スーミィが訴え出ることはないだろうし、むしろ感謝されるだろう。
「口では嫌とか言いながらも、始まったらノリノリだろうし…」
どう考えてもこれが最適解だ。
問題はスーミィの理解と協力が得られるかだな。
初めてはロマンチックな雰囲気が良かったとか後で文句を言われたら困る。
やるなら出会って何周年。的な記念日が良かったとか。意外と乙女なところがあるかもしれない。
ただ耳年増(超高レベル)なスーミィには、やや一般的でないシチュエーションの方が喜ばれると僕は睨んでいる。
どうせ痛いのは初回だけだろうし、準備しないでいきなり突っ込むぐらいの方が、後になって『折角のハル君との初めてなんだから、しっかり痛い方が良かった。痛いの我慢して目尻に涙を溜めながら「ハルくん大好き」とか「大丈夫だよ」とか「気持ちいいよ」とか言いたかった』等と斜め上のクレームを入れられずに済む。
「まぁスーミィもかなりの変態だしな…」
後はロケーションか。
今日泊まる宿はちょっといいところにしよう。
いや?爺さんの館でもいいな。豪華だし無駄に広いし景色もいい。
当代の叔父さんは別宅住まいらしいし、いたとしても協力してくれるだろう。
スーミィが悲鳴を上げてもスルーしてくれる。
どうせ予備校通いの間は下宿することになるし、僕とスーミィの思い出の場所でもある。
「金もかからないし…」
おっと、危ない。
スーミィの体調のことをスッカリ忘れていた。
生理中だとダメだな。うん。それは止めておこう。
僕はそれに燃えるタイプじゃないし、子供ができても困らないから狙ってやる必要はない。
「ちみっこいから初潮まだかもしれんしな…」
ウハハ。あり得るな。スーミィらしい。
ところで世の紳士諸君にお伺いしたいのだが、意中の女性が生理中かどうか?ってどう判断すればいいんだろう。
日頃から着衣や洗濯物を観察して周期を把握しておくのが紳士としての嗜みなんだろうけど、数年前、スーミィに月経周期を尋ねたところ半殺しにされてしまい、それ以来スーミィはその情報を隠匿している。
本物の紳士は臭いで女性の神秘を判別できるらしいが、スーミィはいつもお香か何かとても良い匂いがしているので判らない。
今だってこう『スゥゥゥゥ』と鼻から息を吸い込めば、フローラルな女子の香りが…
ん?
おかしいな。
良い匂いはするんだけど、何かいつもと違う。
スーミィの、飾らないものの優しく心を埋めてくれるような。そんな香りに加えて、
柑橘系の、青空と太陽をイメージさせる爽やかな香り、
そして、立ちどころに僕の心を現実に引き戻す、ガンオイルの香り…
……?
なんでガンオイル?
「えっ?」
正気に返ってみると、目の前にスーミィ、リコ、ベレンが立っていた。
スーミィとリコが僕の真正面だ。
ベレンは斜め後ろ。僕が逃げないよう牽制する係か。
スーミィさんは落ち着いた様子である。
リコは顔を真っ赤にしている。恥ずかしいのと怒ってるのとだな。
ベレンは面倒そうだ。巻き込まれた感じ。
「あの……?」
スーミィがすっと手を上げて、僕の声を制止する
「ハル君、声に出てたよ?」
えっと。どのあたりがですか?
「私が変態とか、初潮前のロリだとか、タダマンとかだねぇ」
スーミィの表情が穏やかだ。
「声に出てました?」
「うん。ここまで言われちゃ流石のアタシもねぇ…」
お顔が穏やか過ぎて怖い。
ジト目ですらない。微笑えんでいるようにも見える。
この表情見るのは初めてだな。
「ハルさん! 強姦とか! しちゃいけないと思います!」
リコが真っ赤な顔で僕を非難する。
コイツ今日も朝から元気だな。
そして物凄く可愛い。
「リコ、今日も可愛いね」
「あ…へぅ……ありがとうございます…んふー」
一瞬だらしない顔になるリコだが、
「そうじゃなくて! 嫌がってる子に無理矢理とか! 絶対ダメです!」
ちょ。
スーミィだから許されるんだよ?
普通の子にそんなことしないよ?
「…あの、合法ロリとか変態とか、一般的でないシチュエーションの方が喜ばれるとか、僕言ってました?」
「言ったねぇ」
「でも、それって大体合ってませんか?」
「リコ。」
「はいっ!」
『ドスッ』
スーミィの合図で、リコの拳が僕の腹に突き刺さる。
お腹の奥の方で『メシィ』とか『ゴギュゥ』とか変な音がしたような気がする。
膝の力が抜け、ぐらりと倒れそうになる僕を、リコが無理矢理立たせる。
ベレンが気の毒そうにこちらを見ている。
「スーミィ殿は強姦宣言されて喜んでたように見えたがのぅ…」
それぐらいでいいじゃろ、とベレンが仲裁する。
「今日抱かれると決まって泣くほど嬉しかったようじゃし、変態なのは間違ってな…」
『バチンッ!』
スーミィの指先で、青白く可視化したマナがスパークした。
慌てて口を閉ざすベレン。
「…あの、ベ…ベレンさん。…たふけてくれましぇんか?」
「スマン無理じゃ」
「リコ。」
「はいっ!」
『ゴスッ』
スーミィの合図で、再びリコの拳が僕の腹に突き刺さる。
先程より手加減されているのは判る。でも蓄積ダメージがまともじゃない。
「大丈夫ですよ! 後で治せますから!」
「…かいひゅく…できふの?」
「はいっ!」
輝く笑顔で頷くリコ。
ああ、可愛いなぁ。
可愛すぎて良く見えないや…。あかん…気絶する……
『バチンッ!』
「……っ! …がっ!」
強制的に意識が戻される。
これはスーミィのマナボルトか。
尋問用にアレンジされた奴だな。
使われるのは初めてだけど…
これはキツい。
身体の中がぐちゃぐちゃに掻き回されたように感じる。
原理を知っててこれだ。ヴィクトリアこれ喰らって良く立てたな。
「よいしょっ! っと!」
もう一度リコが僕を立たせた。
先程まで睦言を囁いていた樹の下なのに、今はまるで死刑囚だ。
「何か言い残すことはあるかい…?」
スーミィは羽織っていたローブを脱ぎ、ベレンに渡した。
袖をまくり、軽く手首を振る。
ぼんやりとした視界に、パリパリと音を立て、断続的に閃光を放つ拳が見える
「す…み…ぅ…ぉ?」
僕は意思を振り絞って口を動かすが、言葉がスムーズに出せない。
これはまずいな…意識が混濁してる…とりあえず謝らないと…
「なんだい?しょうがないねぇ…」
スーミィがふっと笑い、僕の口元に耳を近づけた。
僕は最後の力を振り絞り、ようやく想いを言葉に変えた。
「すーみぃ、しょちょう…きてる…の…?」
『ヒュンッ』
加速された拳が空を切る音が聞こえ、
僕の意識は刈り取られた。
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