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僕の予備校説明会(5)

中庭から、会場である講堂に戻る。


「どうして普通に断らなかったんだい?」


スーミィが尋ねる。


スーミィには理由が解っている。

だから僕がヴィクトリアを(なぶ)るのを制止しなかったし、かつ、彼女を物理的に傷付けないよう配慮した。


「二度と関わって欲しくなかったんだ。しがらみの無い下級貴族ならまだしも、王族は無いよ…」


はぁ、とため息を付く。


「良い子だし、護衛さんともども腕が立つ。お金もある。

今朝からの流れは若さ故の暴走とかそんな感じで、普段は分別があるだろうしね」


スーミィを見ると、微かに笑っていた。彼女もヴィーには好感を持っていたようだ。


「ぶちのめしたのに、彼女の瞳に僕への恨みや殺意は無かった。無いと思えた。怒ってはいたけど、そこは人間だから」


「へー」


生返事するスーミィ。


「高潔な人格っていうのはああいうのを言うんだろうな。僕なら逆恨みして根に持つよ」


「えー。本当かい?」


また生返事だ。まぁ重要な部分じゃないしね。


「うん。僕は感情的だから」


「そうかねぇ」




言葉が途切れる。



ここまでのスーミィとのやりとりは、本来必要無い。


僕とスーミィの人物評とか、判断基準とか、危険に遭遇した際の退く・退かないとか。その辺りは概ね一致していると経験上明らかになっている。


でも、人間だから誤解や認識のズレは生じるし、それを防ぐためにできるだけ会話するようにしている。


僕は生来、自分が無口な人間だと思っている。

即断即決が多く、決断を迫られた際に他人に相談することが少ない。

だから、考えたことを共有し、問題は共有するよう過度に注意している。

それでも漏れるんだけど。


「シダスに来たってことは、輿入れ前の自由時間だろうね」


「大迷宮がどうとか言ってなかったかい?」


「それは彼女の個人的な思惑じゃないかな。アイドル王族らしいから表向き正式な婚約者は居ないかもだけど、嫁に欲しがる家は多いだろうし、輿入れ先は内定してるだろうね」


宙ぶらりんにしておくとトラブルの種になるだろうしなぁ。


「若くして帝国の支持率向上に貢献し、政権維持または外交の道具としての価値も高い。お父上、帝王陛下はヴィクトリアに申し訳なく思ってるんじゃないかな。お前が王族じゃ無ければって」


「だからシダスでの学生生活をプレゼント。かい? 冒険者学校は2年制。修了したら嫁入り。予備校に通えば自由時間が1年増える。その程度のわがままは聞いてもらえる?」


珍しいスーミィの長台詞。小さなお口で頑張ってしゃべってる(ように見える)のはとても愛らしい。

あまりに愛らしかったので頭を撫で撫でしようとしたら避けられた。

私は子供じゃないからね?って感じのジト目で僕をにらむスーミィ。


すまんすまんと笑って返事をする。


「そんなとこじゃないかな。僕を選んだのは…異性として安全だからかな。なにせ、僕にはスーミィがいるからね」


良い機会なのでいつも通りスーミィを口説いてみる。


「…またそんなこと言って」


困惑した表情を見せるスーミィ。

相変わらず真意が読めないな。


そろそろ講堂が近付いてきた。


立ち木の下で足を止め、トランクを下ろす。


「まだしばらく時間あるよね。もう少しいいかな?」


彼女は


「ん。」


と小声で答えた。



僕は木にもたれる。背中をつけ、樹身に体重を預ける。

樹皮はすべすべしていた。服が汚れることは無いだろう。


スーミィも僕と同じようにした。

僕の腕に、スーミィの肩が触れる。

やや躊躇った後、彼女はほんの少し身を寄せた。


女の子の丸い肩の感触が嬉しい。性的な意味で。

それはそれとして。


「僕はスーミィを深く愛している。依存もしてるけど、それは今更どうにもできないし」


ゆっくりと続ける。


「ほかの女の子も可愛いと思うし、きっとほかの子とエロい事もするだろうけど。僕の一番は常にスーミィだと思う」


「……。」


スーミィの表情は、硬い。

こういう話をするとスーミィはいつもこういう顔をする。

聞いてるのに聞いてないような。

拒絶することが確定していて、思考停止しちゃってるような。


でも、僕がこう…愛を語るのを拒否したりはしないんだよね。

話が終わったらちょっと機嫌が良かったり、こっそり嬉し泣きしてることもあるし。


「スーミィは傍目にも可愛らしいし、実力もある。冒険者志望の男なら、パートナーとして絶対にキープする。

だから。賢しそうな僕が、君の不興を買うような真似…浮気的な真似を進んでするなんて、客観的にはありえないよ?

スーミィに逃げられないよう、シャルハルは彼女一筋を貫くだろうって、誰でも分析するよ。」


護衛のウーラさんもそう判断して、ヴィーが僕と接触するのを許したんじゃないかな。

ヴィクトリア、そういうの免疫なさそうだから。

強いところを見せて、ちょっと優しくしたらすぐヤラせてくれそうだ。


「どうかねぇ。私が複数プレイも平気で受け入れる変態とか、そういう可能性もあるだろう?」


その発想がどこから出るのか分からない。

そんな単語がスルっと出るのが脅威だ。

浮気がどうこうとか指摘する点は他にある筈なのに。


斜め上すぎる。

ひょっとして頭良すぎて変になってるのかな。


「スーミィは傍目には可憐な女の子だからなぁ…それは無いんじゃ…」


スーミィの顔を横目で覗く。


うん。相変わらず普通に可愛い。ちょっと目付き悪いけど、それが却って魅力になってる。


スーミィもこちらを見た。


柔らかそうなミルクブラウンの髪の向こうに、少し険はあるものの、内心の葛藤かそれに類する不安に揺れる、銀色の瞳が覗いている。


「………んぅ」


スーミィが情けない声を出し、パッと視線を逸らした。


「スーミィ…」


彼女の肩に腕を回し、引き寄せる。

僕の脇に、彼女の身体が…厚手のローブを着用してはいるが、密着する。密着と言うか、すっぽり収まるって感じか。


安心する。

きっと彼女も安心しているだろう。


心が安らぐ。うん。そんな感じだ。


人の心は覗けない。

想いは、原則として言葉にしなければ伝わらない。

でも、こうして身体を寄せていると、僕の心とスーミィの心は寄り添えているんじゃないかと思えてくる。


スーミィのためなら、きっと僕は何でもできる。

スーミィにはそれが重いのかもしれない。


でも、スーミィだって僕のためなら何だってするだろう。

文字通り、なんでも。


それくらい、彼女の僕に対する想いは深く、重い。

きっと勘違いとか、僕の妄想じゃない。


だから、その重さに気付かないフリをして、手軽な性処理の道具にするのもアリだ。

その方がスーミィもきっと楽だろう。

僕に一方的に献身できるし、スーミィのために僕が傷つくリスクを低減できる。


そうできたらどんなにいいか。

軽く愛を囁いて、テンプレートな段階を踏んで、力ずくでモノにして。

若い間だけの、振り返ればロクでもない思い出にできたら。


そうできたらどんなにラクだろう。


そんなの無理だ。お互いに、繋がってしまうともう切れないと分かっている。


死が二人を別つまで。

いや、片方が先に死んで、そこで終わるとは思えない。

生き残った方は、その死から離れられなくなるに決まっている。




僕の身体にピッタリと身を寄せた、スーミィの髪を撫でる。

強弱をつけながら、何度も。


「ん……。」


彼女は珍しく瞳を閉じて。

心地よさそうに僕が髪を撫でるに身を任せている。



お爺ちゃんお婆ちゃんになって。

孫やひ孫ができていたら、相手の死を受け入れられるかもしれない。

でも僕等は危険と隣り合わせの道を歩もうとしている。


スーミィが危惧しているのはそこだろう


男と女として繋がってしまったら、自分が先に死んだ場合に僕が立ち直れなくなると確信している。


死んだ後のことなど気にしなくていいのに。


スーミィはあれで変に遠慮するところがある。

その原因は分からないが、魂レベルでそうなっちゃってるの?と感じるほど、彼女の行動原理に染みついている。

だから、彼女の愛は僕の想像より遙かに重いに違いない。


僕はそれを受け入れねばならない。

一刻も早くだ。

彼女一人で抱えるには重すぎて、自重で崩壊するだろう。


なので既成事実を作って、先ずは物理的に彼女を安心させてやりたい。


僕はいつか必ずスーミィを抱くし、スーミィはいつか必ず僕に抱かれるだろう。


身体を重ねることでスーミィを安心させてやれれば。

もうやっちゃったし、どうしようもないのだと。

そうしてスーミィに僕への遠慮や過度な配慮を諦めさせたい。


エロい事をしたい。そんな欲求はもちろんある。


でも、それ以前に僕はスーミィを愛している。


恋ならこんなにややこしくないだろう。


僕ら二人がもっと単純で馬鹿だったら、さっさと交尾して呑気に遊んでいられる。


そうだったらどんなにいいか…。




「いつも、ごめんな。スーミィ」


基本は謝ってるな。


「うん。ホント情けないよねぇ。ハル…」


いつも謝るよねぇ。


スーミィはゆっくりと瞼を開き、僕を見上げる。

憂いを帯びた上目使いが物凄い。


そんな目で見られたらどうしようもない。

もうどうしようもなくなっちゃってるんだけどね。




冒険者学校に合格したら、正式にスーミィに求婚すると決めていた。


冒険者学校に通わなくても冒険者にはなれるし迷宮探索もできる。

僕はそれなりに実力があるし、今すぐにでも活躍できる。

スーミィを、スーミィとの子を養うことは可能だ。


でも僕は冒険者学校の修了者という肩書が欲しかった。

身を守る術が欲しかった。


上級の迷宮探索者は、その特異な技術により国家の枠を超えて保護される。

戦争や国家内の政争から離れることができる。


冒険者学校の修了者は中級の迷宮探索者として迷宮探索者組合に登録可能であるため、

上級迷宮探索者ほどではないものの、権力および身分から距離を置ける。

それは冒険者学校在学中から効力を発揮する。


僕とスーミィの技術や能力は、迷宮探索よりも戦争や暗殺で真価を発揮する。


僕等は魔法の出力が特別に高い訳ではない。

魔法特化の上級者と比較すれば、確実に劣る。

ただ、僕等の魔法は実行精度が異常に高く、実行速度が速い。


魔物や迷宮の守護者を相手にするだけなら、出力は同等なので僕等にアドバンテージはない。


だが対人戦に限れば、明らかに理がある。


見る者が見れば分かる。

ヴィクトリアが飛び付いた一因でもある。

名前が売れだしたら隠しておけない。確実に面倒事に巻き込まれる。

なので、安全な生活への近道として冒険者学校への入学を重視していたのだが…



でも。それも、もういいかもしれない。


冒険者学校に落ちたからと言って、先延ばしする必要はない。


どうやらスーミィの中では、僕は基本的に情けないダメ人間らしい。

未だにスーミィに手を出してないあたり、ヘタレでもある。

いいかっこうをしても仕方ない。



なので、勇気をだして言ってみる。


「スーミィさん」


「ん?」


「結婚して下さい」


「ダメ。」


「嫌じゃなくてダメ?」


「じゃ、嫌。」




結局はいつものやり取りに戻ってしまった。


そう、本気のプロポーズは今回が初めてでは無いのだ。


だから、今晩にでも。


正々堂々と夜這をかけよう。


もう合意を得るとか面倒なのはいらない。

強引にモノにするのだ。


スーミィは嫌なら抵抗すれば良い。


彼女が抵抗したら。


勿論、腕力には訴える。

いやいやする可愛らしい手を、強引にねじ伏せるのだ。


でも暴力は行使しないだろう。

というかスーミィに暴力とか、洗脳されたり、魂を乗っ取られても無理な気がする。



僕が壮大に勘違いしており、

彼女が本当は僕を嫌悪しているのであれば。


それなら、スーミィが僕をブチのめせば済む話だ。


障壁も張らない。

敢えて直撃を受けよう。


何なら僕を殺してしまっても構わない。

スーミィと共に歩めない生など、僅かにでも価値があるだろうか。


…とか考えるとまた重くなるな。


そう。だからアレだ。


ええと。うん。


景気付けないとヘタれてしまうから。ちょっと強めの表現で行こう!


でも心の準備が…。うぅ…。


いや、うん。やってやれ!


そう。敢えて言おう!



「僕は今夜、スーミィを強姦する!」











いつもお読みいただきありがとうございます。

展開が遅くてすみません。公開場所が間違ってる気もします。


昨日、お気に入り登録をおねだりしたところ、1件登録いただけました。

誰も読んで無い(アクセス数はボットがクロールしてるだけ)と思っていたので、物凄く嬉しかったです。

どなたか存じませんが、今後も御付き合いいただければ幸いです。ありがとうございます。




ついでのようで申し訳ないのですが、活動報告にて登場人物を募集しております。


ちょっと優しくされただけで勘違いするストーカーみたいですが、その通りなのでごめんなさい。


ドイツ・イタリア・スペイン系の他に、西欧、東欧およびスラブ系、イスラムやアジア系も。

自分で名前考えると自分の世界のルールを破らない人物だけが産まれてしまって。

メッセージや感想でもお気軽にいただけると幸いです。

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