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データ社会攻略戦  作者: 枷間秀
一章
1/2

沈黙する研究所

2x21年。都市近郊にある巻木研究所で行われていた実験に終止符が打たれた。巻木研究所初代所長である巻木孝の代からの念願であった「加速データ化実験」は、3代目所長巻木尚正の手によって終焉を向かえたのだった。テレビや新聞、それこそ多種多様なメディアが研究所に押し寄せ、狭苦しいそこは、見る間に人間でごった返した。


「巻木所長! 加速データ化実験とはどういった内容の実験なのでしょうか!?」

「目線、此方にもお願いします!」

「おい押すなよ! カメラが壊れちまうだろうが」

取材に来た人達は、全員狂ったように所長にマイクを向け、顔面蒼白な彼は腑抜けた笑みを貼り付けているだけだった。禿げ上がった頭部は普段浴びることのない量の光線を浴びて眩しく光っていた。そんな映像が、離脱テレビから放映され続けていた。

喧騒。視界に広がるその景色、音声はうるさくて堪らない。一斉にマイクを向けたって、素人にはどこに向かって喋ればいいのか分かりはしないのだ。無駄だ。時間、労力、人生を無駄にしている。そんな馬鹿らしい光景をシャットアウトして、私は腰を浮かせた。

「……馬鹿みたい」

取り憑かれたように研究所に籠って、もう何年も家に帰ってこない巻木も。何の意味を持つ実験なのかも知らずにマイクを突き立てる記者も。私も。

「馬鹿だ」


そうだった。いつだって私を含める周りの人間は馬鹿だった。理屈っぽくて世渡りが下手で、研究や実験にしか興味を示さない、どうしようもない馬鹿。「加速データ化実験」が成功したなんて、あの馬鹿の勘違いだ。あの実験は、成功してはならないんだ。

誰も幸せになんかならない。最初だけちやほやされて、捨てられるのは巻木だ。利用されるのも巻木だ。迷惑が掛かるのは、

「間違いなく……私だ……」



そもそも、「加速データ化実験」とは何だろう。

それが記者たち____いや、この国全体の疑問であった。所長は例によって腑抜けた笑みを貼り付け続けていたし、彼以外の研究者は研究所にある自室から一切出てこない。

頑として語られない「加速データ化実験」____研究所では「Acceleration data reduction experiment」の頭文字を取って「ADE」と呼ばれている____の内容。腑抜けた所長。姿を現さない研究者たち。


次第に、実験、研究は本当に行われていたのかと疑われるようになった。

当時散々騒ぎ立てていたメディアも、毎日のように押し寄せて来ていた記者たちも、手のひらを返したように疑いの目で所長を見始めた。「本当にADEは行われていたのか」なんて台詞は、もう使い回されて古くなるくらいに、何度も疑問視されていた。




記者たちはまだ気付かない。

この実験は、「実験・研究成功」を公表した時から始まっていたということに。誰も気が付かない。


人類は、やはり馬鹿であった。

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