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津々浦怪奇相談室(憂鬱少女)  作者: 町田雪彦
3/5

現代開花 真吾捕物帖 上

投稿まで日があいてしまいました。もっとリズムよく投稿していければなと思います。

       1

鋏男の一件から翌日、北石千夏は普段通り登校した。


殺されかけたのだから、適当な理由をつけて休んでしまいそうなものだけれど、その点を(かんが)みるに、案外千夏は神経の図太い人間なのかも知れない。一日でも休めば担任に目を付けられるのではないかという不安が千夏を学校に向かわせるのだ。


とはいえやはり気が重く、足も重く、歩幅は狭くなる。いつものことであるが、教室が近づくたびに千夏のテンションはどんどん下がっていく。それでも目的地には必ず到着してしまう。


千夏は精神的に重い教室の扉を開けた。


教室の中はいつになく騒がしかった。どこかみんな落ちつかない様子で同じカーストの者同士話し合っている。


千夏はいつものように鞄から教科書と筆記用具を取り出し勉強に入った。


しばらくして、ホームルームが始まった。

担任の井伊(いい)人吉(ひとよし)は教卓に手つき咳払いをひとつした。


「ええ、今日は転校生を紹介します」


一瞬、教室が静寂に包まれ、すぐに歓声が湧き上がった。男子達は転校生が男か女か賭けあい。千夏の隣にいた女生徒が後ろの席の生徒に話しかけていた。


千夏自身、興味が無いと言えば嘘になる。

転校生が来たからには当分の間、クラスの関心はそちらに移る。その大きな影に隠れ、安心して学校生活を送ることができる。


しかし気を付けなければならない点をひとつ挙げるとするならば、その転校生の属性である。


男ならばいざ知らず、女であった場合、まだクラス内カーストを理解していないうちに話しかけられるかもしれない。


やんちゃなら、要注意人物が一人増える。また、千夏と同じ様に人間関係が不得手なら、同類とみなされ話しかけられる可能性も否定できない。


「入りなさい」


ガラリと扉を開け入ってきたのは小学生と見間違える程の小さな少女であった。


――――しょ、小学生!?――――


クラスメイト全員の心の声が初めてシンクロした瞬間であった。


低い、というよりもちっちゃいといった方がしっくりくる身長、ショートカットの髪、童顔、どのパーツをとっても小学生の転校生は出だしからクラスメイト全員の心を掴んだ。


名前の書かれた黒板の前に立ち、転校生は言った。


「は、はぢめまして。(おか)絵里(えり)といいます…よろしくお願いします!」


「か、かわいい…!」誰かの心の声が漏れた。千夏の声だった。


千夏の声を知らないクラスメイトはそれを聞き流し、岡絵里を拍手で歓迎した。


口笛が鳴り、女子たちはパンダを見たときのような黄色い声をあげる。一部の男子は小さくガッツポーズをしていた。


その後、お決まりの質問大会が始まり、ホームルームが終わった後もそれは続いた。


   2

昼食の時間に入り、女子のグループは岡絵里を独占した。

みんなは彼女をマスコット的に扱ったが、岡絵里は岡絵里なりにクラスメイトの名前を憶えようとしていた。


「転校生の子…かわいいね」


千夏のいるグループの一人が言った。ほとんど会話が無かったため戸惑いつつも「…そう、だね」と千夏は応えた。



呼び出しのチャイムが鳴り響く。騒がしいながらもクラスメイト全員が放送の内容に、会話もそこそこに耳を傾ける。


『ええ、二年C組、北石千夏。北石千夏は至急職員室に来なさい』


呼び出しのアナウンスがいいものであったためしがない。

ざわざわとクラスメイト一同ざわめきだした。普通なら単なる呼び出し放送で動揺することはなく、理由は他にあった。


それは自分のクラスから誰かが呼び出されたものの、呼び出された人間が誰だか分からないということだ。


(今呼び出されたの……って私じゃん!?)


呼び出されるようなことをしたか考えを巡らせるも心当たりはなかった。

「北石って誰?」「こえーよ北石って誰だよ」と言い合っているクラスメイトをしり目に千夏は気付かれないよう教室を後にした。


目立ちたくない、見られたくない、知られたくない、のダメ三拍子の揃った千夏にとって、校内放送は死刑宣告も同じだった。


肩を落とし、千夏は職員室に向かう。やましいことなど何もないが職員室が近づくにつれ不安は(ふく)れ上がっていった。



 職員室の扉を開け、応接室に案内されると、そこにいたのは警察官だった。


「す、すいません!」


「開口一番に出る言葉がそれか。北石」隣にいた担任はあきれ顔で呟いた。


「す、すいません…つい」


本人も気づかないうちに下がっていた頭を千夏は上げた。


以前ネットで違法にアップロードされた映画を観た記憶が脳裏をよぎったが、警察官の表情は穏やかなものだった。むしろ謝った千夏に和んでいるようにも見える。


「呼び出したのには理由がある。それは北石を逮捕するためじゃない」担任は続けた。「警察の方が、お前に聞きたいことがあるそうだ」


千夏は担任の隣に立つ警官に顔を向けた。警官服の上からでも分かるほどがっしりとした身体は無言の圧力を放っていた。


「昨夜の七時頃、あなたはどちらにいましたか?」


警察は威圧しないよう必死に笑顔を作ってはいるが、そのぎこちない笑顔は逆効果だった。


「え、ええっと…スーパーにいました」


「では、道中不審人物は見ませんでしたか?」


「えっと……」

千夏が真っ先に思い浮かべたのは津々浦のことだった。彼のことまで話してしまっていいものだろうか、考えてようやく鋏男に襲われたことのみ話した。


津々浦(つつうら)については、念のため伏せたが、そもそも都市伝説を警察が信用してくれるかあやしいところだったため、結局あやふやな説明になってしまった。


大きな身体に似合わない小さなメモ帳に書き込む。メモ帳を見直し、警官は唇をまっすぐに結び湿らせた。


「ふむ…大きな鋏を持った男ですが、顔は見ましたか?服装は?」


顔も服装も、鋏男についての記憶はほとんど残っていなかった。そもそも顔は影が掛かっていて表情すら見ることも出来なかった。


思い出そうとしてもぼやけた記憶のみ残っていてはっきりと分からない。


「…分かりません」


一歩引いた千夏に、食いつくようにして警官は身を乗り出した。


「見たら思い出せそうですか?」


「ええっ!?」

生きているんですか?思わず口をつきそうになった。


鋏男は死んだ、いや、消えたはずだ。津々浦があっさり倒したはずだ。胸を突いて、跡形もなく消えてしまったはずだ。


見間違いだったのか、確かにあんな馬鹿気た出来事を信じる方がおかしい。


あれは全て幻だったのかもしれない、ふと考えがよぎったが、それでは現実との辻褄が合わない。少なくともこの事情聴取の理由が付かなくなる。


これ以上は混乱するだけだと千夏は判断して、考えるのをやめた。


警官はメモ帳を胸ポケットにしまい込むと足元に置いてあった鞄を手に取った。


「申し訳ありませんが、署までご同行願います」


思わず千夏は両腕を差し出した。




誤字などがあればご報告ください。

ひとつにすると長くなりすぎるのと、そろそろ投稿しないと読んでくれる方々も読んでくれなくなると考え二つに分けました。ちょっと短すぎるかな?


コメント待ってます。

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