少女サンタクロース
やあみんな。よく集まったね。
ほら、そんな寒いところにいたら風邪をひいちゃうよ。暖炉の近くにおいで。
おや、みんなどうしたんだい。そんなにうきうきして。
なに?今日はイブの日だから当たり前だって?
そうだ、そうだね。今夜はサンタクロースがやって来るんだ。
みんな、徹夜してサンタさんを見てやろうとかしちゃダメだぞ。ちゃんと布団に入って、いい子にするんだよ。
うん?サンタクロースは本当に一人で世界中を回れるのかって?
いやあ、さすがに一人じゃあ無理だ。
え?じゃあ何人いるのかって?
それは分からないなあ。でも、サンタクロースはたくさんいるんだ。男の人も女の人も、若い人も年寄りも関係なくね。
そうなんだよ。サンタクロースはおじいちゃんとは限らないんだ。
だって考えてごらん。年をとったらね、体のあちこちが痛み出すんだ。病気になったりもする。もしプレゼントを配ってるときに、急に体が痛みだしたら大変だ!プレゼントを配るどころじゃなくなってしまうよ。
なんだって?本当に、サンタクロースはおじいちゃんばっかりじゃないの、だって?
じゃあ、今夜は、ある一人のサンタクロースの少女のお話をしよう。それでいいね?
それでは、はじまり、はじまり。
いつの時代か、あるところに。
一人の少女がおりました。
少女は十歳を過ぎてから、毎年冬になると、サンタクロースになって近くの町にプレゼントを配っていました。
少女には二人のおじいさんと二人のおばあさんがいて、おとうさんとおかあさんがいました。そして、全員サンタクロースをしていました。
少女には、友達がいました。トナカイのベルです。
少女は若すぎるので、まだ一頭しかトナカイを飼うことができません。それでも、少女はその友達を大切にしていました。
ある年のクリスマスのことです。
少女は毎年のように、ベルをソリに繋ぎ、プレゼントを積みました。隣では、ベテランのサンタクロースのおじいさんが、山のようなプレゼントをソリに積んでいます。今年も遠い国まで運びに行くようです。おばあさんは、トナカイ達の首にストールを巻いてやっています。
準備を終えると、少女はソリに乗りました。
少女はおじいさんとおばあさんに手を振ると、ベルの首をぽんと叩きました。
ベルが空に駆けだします。下の方で、おじいさんとおばあさんが手を振っているのが見えます。
町までは、一時間もかかりません。少女を乗せたソリは、軽快に空を滑ります。
七面鳥とやどりぎが
この季節に華やぎをそえると
おチビさんたちの目はきらきら輝いて
今夜はとても寝られない
少女は歌を口ずさみます。昔、よくおばあさんが歌ってくれたのです。
やがて、町が見えてきました。お母さんとお父さんがいる病院が見えます。
町はしんと静まりかえり、家々からわずかな明かりがこぼれ出て、まるで小さな宝箱のようです。
少女は、一軒目の家に到着しました。この家には煙突がないので、他の入り口を探さなければいけないようです。
少女は家の前にソリを着けると、雪の上に降りました。
子供達は知っている サンタはもうすぐそこに
そりにたくさんのおもちゃとお菓子を積み込んで
トナカイが本当に空を飛べるのか
誰もがこっそり見張っている
少女の口からひとりでに歌が流れ出ます。
ふと、少女は鍵がかけられていない一つの窓を見つけました。どうやら家の人が開けておいてくれたようです。
少女はプレゼントを持って、そこから入り込みました。
少女が入ってきた窓は、居間の窓だったようです。
石油ストーブのそばでは、一人の老婦人が安楽椅子に腰かけて編み物をしていました。
「あ……」
少女は気まずくなって、顔を伏せました。
そこに、老婦人の柔らかな歌声が流れてきました。
子供達は知っている サンタはもうすぐそこに
そりにたくさんのおもちゃとお菓子を積み込んで
トナカイが本当に空を飛べるのか
誰もがこっそり見張っている
それは、少女がさっきまで歌っていた歌の一節でした。
老婦人はさらに歌います。
それだから 一歳から九十二歳の子供達に
この簡単な言葉を贈りましょう
何度も何度もいろいろな方法で繰り返された言葉だけれど
「メリー・クリスマス」
少女はそれを聞くと、微笑みました。そして、安楽椅子に下げられている靴下に、そっとプレゼントを入れました。
老婦人が編み物の手を休めました。
少女は老婦人に、一言お祝いの言葉を述べると、来た時と同じように窓から出て行きました。
少女は外で待っていたベルの首を撫でると、またソリに乗りました。
まだまだプレゼントはあるのです。
町は寝静まっているようで、こっそりと目を開けているようでもありました。
その晩、少女がプレゼントを配り終えたのは、教会の鐘が三つ鳴った時でした。
少女が家に着くと、まだ誰も帰ってきていませんでした。
少女はベルを小屋に入れ、飼葉をたっぷりとやりました。そしてそのまま、疲れ切った少女は、ベルの隣で眠りこんでしまいました。
少女が起きたのは、おじいさんとおばあさんが帰ってきた後でした。
「よかったねえ」
おじいさんが言いました。
「お前の部屋にもサンタクロースは来てくれたようじゃが、それ以上にいい知らせがあるようじゃ」
「なになに?」
「妹が生まれたぞ」
少女はとびっきりの笑顔を見せて、自分に言いました。
「メリークリスマス!」
これでおしまいだ。
みんな、信じてくれたかな?
そうか、そうか。それはよかった。
今日はこれっきりだ。もう寝るんだよ。徹夜はしたらダメだぞ。
それじゃ、メリークリスマス。
お久し振りです。播磨です。
久しぶりなので、かなり書き辛かったです。
途中に出てくる歌詞は、「The christmas song」という歌の一節の和訳です。
メロディーがきれいな歌なので、是非みなさんも聴いてみてください。