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ざわざわと皮膚が粟立つ。
腕から流れ込む何かが全身を駆け巡る感覚が走りぬけ、心臓があり得ない程の速さで打ちはじめた。
身体が燃えるように熱を持ちはじめる。
「あっ…あぅ…ぁあっ」
ビクリビクリと身体が揺れ、無意識に背中を何度も打ち付ける。
私は声にならない呻きを漏らしながら、浅い呼吸を繰り返した。
「ハッ…ハッハッハッ…ァァ」
まるで獣のような、声にならない息づかい。
肩に負った傷とは比べものにならない位の激痛と息苦しさが私を襲った。
「…助け…て…誰か……」
痛くて、苦しくて、私は誰かに助けを求める。
身体の苦痛と共に、脳内に、今までとは比べものにならない位の知識がなだれ込んできた。
それは、まるで渦のように頭の中を蹂躙する。
身体だけでなく、頭までおかしくなりそうだった。
手に触れるもの全てを引きちぎるように、繊維を引きちぎる音、装飾品を引きちぎる音が聞こえる。
感覚だけは研ぎ澄まされたかのように敏感になっていった。
「ぅあ…あああぁぁっ」
誰か…、苦しい…死んでしまう…。
薄れゆく自我の中でふと脳裏に浮かんだのは、母の顔とラスの寂しそうな笑顔。
…覚悟は決めてきたはず、血の継承の、その先を知るために。
…ここに、優しい人達に見送られて。
誰も助けてはくれない。
私が選んだことなんだから、私が戦わなきゃいけないんだ。
僅かな理性を振り絞り、私は必死に歯を食い縛る。
口の中に、鉄臭い血の味が広がった。
ドラゴンの血…私の身体に受け入れてやるっ。
誰も訪れない洞窟の奥から、何週間も人とは思えない呻き声が響いていた。