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―――テ…イキテ…。



どのくらいの時間が経ったのかはわからない。

最初はなんなのかはまったくわからなかったけれど、私の感覚の中に入り込んでくる音。



それが何かの言葉だと理解したのは、激痛の波が緩やかに引き始めた頃だった。



私の身体に何かが触れている感覚と気配がある。



食い縛り続けていた歯を少しだけゆるめると、私はようやくまぶたを開くことができた。



…薄暗くぼんやりとする視界には、あまり光を感じない。

黒い岩肌と、ぬけるような藍色の中にチカチカと輝く星が見えた。



…今は、夜なんだ…。



少しづつ慣れてきた視力を横に向けると、今までの中でも一番近くに空の藍とも海の青とも違う、あの、印象的なドラゴンの視線とぶつかった。



『…イキテ…生きて。お願いだから、死なないで…』



その声は、まるで祈りのような本当に綺麗な響きで私の心に届く。



私は思わずドラゴンの、その頭部に手を伸ばそうとした。



「…ぃあっ!」



急に伸ばしたときにおこる関節の痛みに、私はおもわず手を引っ込める。


痛い、と言おうとしたけれど、カラカラな喉からは上手く声が出せなかった。



『人間、生きてた。…痛い、大丈夫?無理しないで』



今度はドラゴンの方から、私の顔に近づいてくる。



『僕の声、人間に届いてる?』



『聞こえてる?』



私は、ゆっくりだけど確実にうなずいた。



ドラゴンは私の頬に顔を寄せる。



あ…、気持ち…いい。



初めて触れるドラゴンの肌は硬く、想像していたよりも温かい。



『もう大丈夫。僕の血は馴染んで、君に力を与えてくれるから』



一人で暗闇にいた私は、その言葉の意味をじんわりと理解すると、ゆっくりドラゴンの頭に両手を伸ばして抱きしめる。



私はそのまま、久しぶりの眠りについた。








浅い眠りから覚醒すると、あの苦しみが嘘のように引いていた。



近くでグルルルと獣の鳴き声がする。

けれども、頭に響くのは優しい少年のような声。



『嬉しい。疲れた?ごめんね?嬉しい。…嬉しい』



ドラゴンの感情が、私の中に雪崩れ込んでくる。

私を気遣ってくれている。



ごわごわとした不快な身体の感触に一度ドラゴンから両手を離すと、私の白いドレスは赤黒く染まりカピカピに乾いていた。

ところどころは破かれていて、なんとも恥ずかしい格好に、思わず顔が赤くなってしまう。

近くには、針の付いた細い管も転がっていた。



『ごめん、ごめんね。痛かったよね。人間は脆いから』



ドラゴンは、むき出しにになっている私の肩をペロペロと舐めてきた。



あぁ、あの時の事も気にしてるんだ…。



「…大丈夫。大丈夫だから。貴方は優しいね…」



「くすぐったい」



不思議と声も出せる。

私の肩を舐めるのをやめて、ドラゴンはキュウと首をかしげた。

私は、ドラゴンの瞳に写る自分の姿を見ながら、ゆっくりとその頭を撫でる。



私の声も届いているんだ。



「私は、サラ」



『サ…ラ…?』



「私の名前。貴方に呼んで欲しい、私の名前」




『サラ…サラ…サラ』



ドラゴンは、素直に私の名前を呼び続けた。

それはとてもくすぐったい気持ちにさせてくれる。


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